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作品 - 20050223_573_87p

  • [佳]  回帰 - 丘光平  (2005-02)

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回帰

  丘光平

窓の向こう
初春の風
花、緑、そして虫たちが
ざわざわ ざわざわ
わたくしへ流れてくる

あなたは
わたくしの蕎麦の枕で
音もなく
眠っている

あなたの素朴な肉体は
いつも
ひんやりとして
その引締まった肉体は
陽光の陰に照らされ
すこしずつ
固まってゆく

阿呆なわたくしと結ばれたばかりに
つましい暮らしは
あなたの肌に爪を立て
そっと触れたい
あなたのふくよかな肉体は
遠く
どこか 遠く
わたくしから見えないところへ帰り着いた

窓の向こう
初春の風
花、緑、そして虫たちが
ざわざわ ざわざわ
わたくしへ流れてくる

わたくしの無骨な掌から
この世の中で
一等うつくしい
砂流が
はらはらと
はらはらと降り積もってゆく

たとえば
あなたが
わたくしの母
あるいは 敵になったとしても
あなたが生きて
此処にいる
ただ
それだけで
わたくしは大地をぐっと踏みしめる
ぐっと踏みしめる

ああ
なれども
春は塩辛く

あなたは
わたくしの蕎麦の枕で
音もなく
眠っている

あなたの許しは
わたくしをちりぢりに
ちりぢりにとかしてしまいそうで
笑っていたい
その僅かなこころの傾きだけが
なにものか
高鳴るものへと
わたくしを向かわせてゆく