第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


みさき (6/57)
  


しているのではないかと注意深く周囲を探したが、やはり美咲ちゃ
んの姿はなかった。仕方なく鳥居に戻った義弘さんだったが、そこ
には美幸さんが不安そうな顔があるばかりで、やはり美咲ちゃんの
姿はなかった。古墳全体は雑木に覆われてはいるものの、その間隔
はまばらで視界は比較的ひらけている。美幸さんも義弘さんを待つ
間中ずっと美咲ちゃんを探していたが、美咲ちゃんの姿は見ていな
いという。
 美幸さんと合流した義弘さんは、誰も石段を降りてきていないこ
とを確認すると、再び頂上の社殿へと向かった。もう残る場所は、
社殿の中しか考えられなかったからだ。古墳の周囲を囲むお濠は比
較的小さいものの、その幅は約8メートル。狭いところ(鳥居付近)
で5もメートル弱、広いところでは11メートルにもなる。とても
6歳の女の子が渡れるような長さではないし、当然柵も設置されて
いた。美咲ちゃんは、どう考えてもこの古墳から外に出ていない。
出られるはずがなかったのだ。
 社殿へと向かった吉野さん夫妻は、なりふり構わずお社の戸に手
をかけた。が、その戸は頑丈に施錠されており、開くことはなかっ
た。内側を覗いてみても、人間がいるような気配はなかったという。

第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道