夫妻が目を離したわずか五分の間に、美咲ちゃんの姿はまさに煙の
ように消えてしまったのだった。
午後四時二十五分。稲野駅前交番に吉野さん夫妻は駆け込む。警
察は失踪の可能性と古墳の周囲のお濠に転落した可能性の両面から
捜索をしたが、美咲ちゃんは見つからなかった。警察犬も広場から
出ようとせず、臭いを追えなかった。営利誘拐の可能性も考えられ
たが、犯人からの要求がなかったため警察は失踪事件として捜査し
ている。
翌日の午前十時半ごろ、吉野さん宅に謎の電話がかかっている。
電話を受けたのは妻の美幸さんだった。電話の主は舌足らずな女性
で、年齢までは分からないが、娘ではないように思ったと美幸さん
は語っている。警察は、この電話の発信者の特定には至っていない。