第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


みさき (40/57)
  


 妙子さん、そういえば最近夜中んなると家の外を歩きおる人がお
るんじゃいうて、お父さんに見てもらわにゃあいけん言うとっちゃ
ったよ。夜毎に歩き回る音がする言うておちおち眠れんで、駐在も
見回りは十分するけどお宅だけ特別扱いで夜中中見おるわけにはい
かんのじゃ言うたいうて怒っとって、あそこは親父さんが土木の仕
事で腕っ節が強いし気性が激しいんよ。近所でもそりゃあ、あげえ
なとこに泥棒に入ったら返り討ちじゃ、叩き殺されてしまう言うて
笑いおったんで。
いうてもね、あがな田舎の家は広いばっかりで財産なんてろくにあ
りゃあせんのんで。どこの家もそうじゃ。じゃけえ別に心配するよ
うなこともないけえ言うとっちゃってじゃけど、ほうじゃ言うても
気持ち悪いもんは気持ち悪いし、それにあそこは娘さんが高校生で
可愛い盛りじゃけえ、風呂場でも覗かれたらそれこそことじゃいう
て。それであそこの親父さんが夜中に見張りに立っちゃって、見つ
けて交番に突き出しちゃるんじゃ言うて、それから二日三日は何も
なかったんよ。ほしたらよ、四日目の夜中に庭の玉砂利を踏む音が
して、親父さんは不審者じゃ思うて後ろからそろりそろりと近づい
て、ざっざざっざ歩きおる人影を物陰から改めて、ぱっと懐中電灯

第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道