あてちゃったんよ。そしたら誰じゃった思う。それが妙子さんなん
よ。親父さんもびっくりしちゃってお前どしたんじゃ言うたら、妙
子さん空ろな目えをしちゃって、みたまがなんじゃらいうて、あの
神主さんの呪文みたいなんがあろう、なんじゃらかしこみもうすも
うすいうて、妙子さんそんな呪文知っとってじゃないんで、それで
親父さんもこりゃあただごとじゃあない思うて妙子さんをむりやり
家に入れて鍵い掛けて寝かせて、それで朝んなったら妙子さんはけ
ろっとしとってで、夜のことなんて何も覚えとりゃせんのんで。逆
に親父さんに向かって、あんたあ昨日は出よったかいうて聞いてく
るありさまで、あんたが寝ぼけとったんじゃいうて、みんな笑うと
ってで。妙子さんあんたぼけるにはまだ早ええんじゃないですかい
うたら、もう歳なんじゃいうことよねいうて本人も笑うとってで。
いまでもたまに夜にふらふら歩きおるようで、夜中になったらぎし
ぎしと廊下を歩く音じゃとか庭の土を踏む音じゃとか、最近は親父
さんの布団の周りをぐるぐる回るいうて往生しとってじゃけど、も
う家のもんも特に害はないけえ、ほっとるそうな。気味の悪い、お
かしな話よね。