1992年7月7日。火曜日。この日、吉野さん一家は一人娘の
美咲ちゃんの誕生日を前日に控え、家族三人で近所の商業施設、つ
かしん(西武百貨店)に買い物に出かけていた。父親の義弘さんは
当日午後から半休を取っており、会社帰りに自宅の最寄り駅である
阪急稲野駅で妻の美幸さん、娘の美咲ちゃんと合流、その後、家族
三人でつかしん内の飲食店で昼食を食べ、美咲ちゃんの誕生日プレ
ゼントを買って帰路についた。事件は、その道中で起こった。
午後四時ごろ、吉野さん一家は御願塚古墳という小さな古墳の前
を通りかかる。御願塚古墳とは吉野さん宅の南東にある、全長約5
0メートル、高さ約七メートルほどの比較的小さな古墳である。周
囲に壕を巡らせた小高い山の頂上には小さな広場があり、そこには
南神社という小さなお社が祭られている。その神社に通じる鳥居の
前に差しかかったとき、突然美咲ちゃんが足を止め「お参りがした
い」と言い出した。
吉野さん夫婦は当初それを美咲ちゃんの何気ない気まぐれだと思
い取り合わなかったが、美咲ちゃんがどうしてもと言うことを聞か
ず(義弘さんによれば、それまでに一度も見たことのないくらいの
必死さで)その場を動こうとしないので、仕方なくお賽銭にと五円