第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


みさき (37/57)
  


 人間にもええ人とわりい人がおられるように、魂にもええ魂とわ
りい魂がおるんで。
 先生は常々言うとられた。柱にするんならわりいのを柱にせえて。
 ほうは言うけどわしは納得できんで、先生、わりい魂じゃええが
にならんのじゃないですかて尋ねてみたんじゃ。ほしたら先生は言
いんさった。柱になってしまえば魂にええもわりいもない。それは
単なる魂じゃけえ、おんなじものなんじゃ、いうて。
 人間は時間がたつといろんなことを忘れていく生きものじゃが、
それは魂になっても変わらん。柱になった魂は、人間じゃったとき
のことをゆっくりと忘れていって、そのうち安らかな赤ん坊に戻る
んじゃと。ほうで、そっからさらに色んなものが抜けていって、い
よいよなんものうなったときに、その魂は神さんになるんじゃ。
 わしらの仕事いうんは、そういう神さんを人の手でこしらえる、
業の深い仕事なんじゃけえ、いつなんどき逆にとられるか分からん
いう覚悟はしとかにゃあいけん。
 もともと人じゃったもんをええように使うて、それでただで済む
思うとったらえれえ目にあうんよ。
 人の恨みつらみはそりゃあ深えんじゃけ。中途半端に掘り出した

第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道