第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


みさき (34/57)
  


もうた。
 そがあなの聞いたら皆な震え上がってしもうて、もう一睡もでき
んのよ。ほいで案の定、翌日になっても徹さんは来ん。もうどない
なったんかだいたい想像つくじゃろ。電話切ったすぐ後に家を出て、
田んぼに車ごと突っ込んで引っ繰り返って、そのまま重態いう話よ。
 結局、徹さんをあんな目にあわしたんはわしらなんよ。美代子さ
んなんか大泣きして三郎さんに食って掛かって、こないなきち×い村
に来たんが間違いじゃ言うて村を飛び出して、そっちもそれで行方
知れずよ。実家にも帰らんし村にもおらん。車も見つからん。それ
っきりじゃ。
 村は村でまた大ごとよ。夜明けに犬がえらい鳴きおる思うたらみ
んな泡吹いて死んどるし、井戸の蓋もずれて落ちとる。ほいでもも
う見るん怖いけえ警察に電話して来てもろうたんだけど、警察の人
は中に何もありませんよ、言うちゃって。恐る恐る見たら川上さん
おらんのんよ。警察の人は冗談もたいがいにしてください言うて帰
っちゃったけど、こっちももうどうしたらええんかわからんで、川
上さんはどこかへ消えてしもうたし、今ではほんまに死んどったん
かどうかさえ確かめようがないんじゃけえ。もうあれは夢じゃった

第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道