第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


みさき (35/57)
  


とまで言うひとまでおってで。
 それで何日かした後のこと、松野の武さんが見たいう話じゃけど、
こげえなでっかい火の玉が川上さんの家の窓から入っていった言う
て、その日の晩に誰もおらん家の中から真っ黒い煙が上がって、消
防が来る頃にはとっくに川上さんの家は焼けてしもうとった。
 もうこうなったらどがあもならんけえ、わしらができるこという
たら、川上さんのためにお地蔵さんを立てて、拝むくらいよ。これ
でおさまってください言うて手え合わして、ほうでも何でこがあな
ことになったんかも誰も分からんのんじゃけ、やりようがないんよ。
今でもたまに川上さんを見たいう人が現れるおるで、あの黒いのん
がまだ歩いとるんじゃろういうて皆な怯えとる。家に鍵かけて用心
して、もう日暮れには誰も表に出んのんで。
 あんたもよう気いつけんさいよ。この話い聞いたらもう関わりが
ないとは言われんのんじゃけえね。余計なことは絶対にしんさんな
よ。あんたもいつとられんとは限らんのじゃけえ、もうこがあな話
には関わらんほうがええ。



第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道