木の擦れる音だけがしばらく続いとって、わしらにゃあそれが何を
言うとるか見えんのんじゃけど、もう恐ろしいことを言うとるんじ
ゃいうのは分かるでしょう。川上さんはもう必死んなって、美咲ち
ゃん、もうええけ、美咲ちゃん、もう帰ってもええけ、言うて。私
も怖うてたまらんで般若心経一心に唱えおったんですが、突然耳鳴
りがきーんとして、ぴしっ言うてですね、カコイサマが真っ二つに
割れんさって、未だに忘れんですよ、それと同時くらいに美幸さん
が物凄え甲高い、笛を吹いたみたいな悲鳴を上げんさって、そりゃ
あもう、あげな小せえ体のどっから出おるんかいうような、家が震
えるくらいのえれえ悲鳴だったんですから、もうみんな儀式どころ
じゃないですよ。急いで美幸さん廊下に引っ張り出して、はよう救
急車じゃ言うて、美幸さんは白目剥いて、泡吹いてがくがく痙攣し
ておられました。その後はもうどげえもならんですよ。儀式も続け
られんし、わしらも身の置き所がない。病院まで一緒に付き添うた
んですが、旦那さんがそりゃあもう凄え形相でわしらのことを睨み
つけてから、あんたらのせいで美幸まであげえなって、悪りいがも
う帰ってくれ言うちゃって、そう言われたら私らもどうもできんけ
え、荷物だけ片付けに上がらしてもろうてから、挨拶もそこそこに