第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


みさき (12/57)
  


浮浪者の風体については誰も記憶しておらず、ただ古墳の周遊路で
ニワトリを飼っていたということだけは皆が覚えていた。
この浮浪者はある時期を境にぱったりと姿を消しており、それと前
後して吉野美咲ちゃん失踪事件が起きていることから容疑者ではな
いかとも目されているが、それは単に古墳への警察の出入りが多く
なったために居場所を失っただけだろう。事件との因果関係は薄い
と思われる。

美咲ちゃん失踪の翌日に吉野家には一本の奇妙な電話がかかってい
る。
電話を受けたのは妻の美幸さんだった。電話の主は美幸さんが何か
言う前に話し始め、不思議なイントネーションの言葉で意味の分か
らないことを一方的に話し、最後に「もしもし」と告げて電話を切
った。こちらからの問いかけにも一切応答しなかったという。
警察ではこの謎の電話の主を探したが、発信者の特定には至ってい
ない。
この時吉野家では、美幸さんが電話を受けている最中に玄関がどん
どんと叩かれた。インターホンを鳴らせば済むところをわざわざ門

第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道