第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


六月を雨に少女の祈る (4/5)
  森下ひよ子


((("ハンムニ"《ハンムニ》よ、僕を許さないでください。怖い。朝が、蟻が、ひか
りが、夜が、アスファルトが、歳月が、方位が、亡霊が、修羅が、
鳳凰が、わたしが、僕がめくれ、雨よりも、涙よりも前景へ押し出
される。花よ、少女よ、わたしが/僕がくちづけると、二人のため
の祈りが、潤《うるお》いを、色彩を取り戻していく。祖母の、しみだらけの
素肌。渇《かわ》いた体温。根菜のような匂い。"コチュジャン"《コチュジャン》 (*12)みたいな声。モ
ノクロームの写真。"ハンムニ"は、島の、星の胎内に還り、うまれ、ま
た分断され、もう一度、接続され、わたしの/僕の、ゆううつな少
女は/"ハンムニ"は産声をあげる。)))「あはは、馬鹿やねぇ、ユキオは」
朝の、ひかり。

                祈り。 を  聴かせてあげる。

  夫が兵士として戦っている間に郷里《きょうり》が占領された、というような離散
  家族が多数生まれた。両軍の最前線(今日の軍事境界線。厳密には北
  緯三十八度線に沿っていないが、三十八度線と呼ぶ)が事実上の国境
  線となり、南北間の往来が絶望的となったうえ、その後双方の政権
  (李承晩《イ・スンマン》(*13)、金日成《キム・イルソン》(*14))が独裁政権として安定することとなった。
  (*15)

虹になれ。僕は、

        僕は、

           僕は。

              少女は、

                  少女は、

                      少女は。はずれか
かった、デジタルの。音楽が/時間がにぎりなおされ ―― 失った
ものは!―― 聴こえる『My Melancholy Baby』(*16)その千分の一秒
を、少女は黒い。空の。月の溶けた、白い銃痕、その一点へ。無限、
へ。落ちてゆく/駆け上がる、わたし/僕。閉ざされた/ひらかれ
た瞳孔《どうこう》が黒く/白く、ひかり/闇。昇る月/沈む水たまりが、アス
ファルトに、僕の/わたしの、むくろを/嬰児《えいじ》をよこたわらせる。
花は/蟻は見下ろされ、認識できない行為は、小さい銃痕/貫通《かんつう》
た月の、黒い/真っ白な産声が、吐き出され続ける。むくろは/嬰
児は活字になり、しロクろが、ふとももをつたい、チのにおいをよ
びおこす。めくられ、しょうじょのスカートはさかしまに、ゴウオ
ンで、しずかに、めくれあがる。うらがえったわたしは/ぼくは
み み   に  す    る   、   き   こ  え   る   ま
 っ   し  ろ   な   ア   サ    に    
、       ア              さ             、       の 
あ       さ          を         、

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月刊 未詳24 × 文学極道