((("ハンムニ"《ハンムニ》は山が好きだった。一度だけ、二人で登った烏帽子岳《えぼしだけ》(*8)。
頂上付近のちょっとした難所の岩場が、大好きだった。"ハンムニ"は僕
のてを引き。見晴らしの良い岩場で二人、休憩しよう。突然、一匹
の雷鳥(*9)が、西の方角に羽ばたいてゆく。目で追うといつの間にか、
空には巨大な暗雲がはびこり。いつだって突然、なんだ。一瞬、世
界が真っ白に、ひかり。山全体が匂う。すこし遅れて、絶望的な空
は大きく震えいななき、激しく山を打ち鳴らし。降り出した雨は、
あっと云う間に僕の、"ハンムニ"の視界を、コマクサを、色彩を、深く、
落下させ、Bebop(*10)する。木造建築が、炎上する速度で、雨は、世
界を濡らし。緊/張が走り、"ハンムニ"のかおは、すこ/し、強張った。
「「ア・ハ・ハ、バ・バガヤネェ、ユ・・"ユギオ"《ユギオ》(*11)・・・ハ・ハ」」
わ ら っ た ?
断続的な明滅と、終わることのない、落下を繰り返し、闇を抜ける。
いつも僕は忘れてしまう。"ハンムニ"のくれた写真のこと。僕の名前の
こと。「「た、多分、目の前で・落雷した・・んやないかな。と思う。
林、林檎の木ぃが、ねも・根元まで裂けて、ぜ・ぜんぶ、何やよぉ
わからんけど・ど・兎に角、ぜんぶがそこからめく・めくれてまう
ような気がしたねん。その・裂け目から臓物みたいな"ハンムニ"の散文
が溢れて、そ・それだけは、絶対忘れんようにしよ、そうおも・思
て、ち・ちっこい白い花、ひろて、し・栞の代わりに挟んどいたん
やけどなあ。」」もう、遠くへ行かなくていいよ。一面が夜、僕はち
いさな蟻になる。穴のあいた亡霊よ、腕のない修羅よ、輪を描く鳳
凰よ。僕は黒くちいさな。ひかり、僕は )))わたしは、
飛 び 越 え て 、
額《ひたい》から流れる。
流れ出る赤黒い少女はぬるい。
おりものの匂いをて放す。
わたしのてには意識がない。
冷えたアスファルトをほほに感じる。
喘《あえ》ぐ少女のほほに虹が架かる。
橋の向こうに鳳凰の描く輪。
濡れた蟻が白い花弁のうえを歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて歩い
て歩いて歩いて歩いてあるいて、アルイて、ある、いて、あるいて
アルイテいてアルイテある いて、ある い、て、 と、 ぶ、
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