第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


六月を雨に少女の祈る (2/5)
  森下ひよ子


((("ハンムニ"《ハンムニ》 (*4) が、家の二階から硝子越しに、街灯の下の僕をじっ
と見おろしている気がするから、朝焼けまで続く黒いアスファルト
を、軍靴の踵《かかと》で三回、踏み鳴らしてみた ―― 次の瞬間、ひかりは
一気に膨張し、僕を包み込む。そこから逃げるように、とぶ。黒い
僕は夜に、雨に。何だ?鋭利ないたみをはらみ、金色《こんじき》の。ひかりは
笑い。「あはは、馬鹿やねぇ、ユキオは」"ハンムニ" のくち癖。僕はい
つもそうやって、あたまを撫《な》でられた。美空ひばり(*5) と、 サザン
オールスターズ(*6) が大好きだった、"ハンムニ" の、懐かしい、匂い。
あ、ああ、ああ、あ。と、ぶ、とぶ、僕。巨大な、ああ。鳳凰《ほうおう》、あ
の、火の、燃える。鉄槌《てっつい》で、殺戮《さつりく》、の、砲弾で、ひ、た、すらに、
じめじ、めし、た陽気を打、ち砕き、破壊す、る。粉、々に、夜が。
湖面、に映る、金、色よ、雨の炎上す、る、匂いは打、ち砕か、れ
て、境界を探、す、頭の、も、げた、蟲《むし》のよ、うに、僕、は徘、徊
する。)))

  一九五〇年七月二日未明、鹿苑寺《ろくおんじ》から出火の第一報。消防隊が駆けつ
  けた時には、既に舎利殿《しゃりでん》から猛烈な炎が噴出して手のつけようがなく、
  四十六坪の建築物が全焼した。鎮火後現場検証したところ、普段火の
  気がない事、そして寝具が何故か付近に置かれている事から、不審火
  の疑いがあるとして同寺の関係者を取り調べたところ、同寺子弟の見
  習い僧侶であり大学生の林承賢《はやししょうけん》(京都府舞鶴市出身・当時二十一歳)
  がいない事が判明し行方を捜索した。夕方になり金閣寺の裏にある左
  大文字山の山中で薬物のカルモチンを飲み切腹してうずくまっていた
  林を発見し放火の容疑で逮捕した。(*7)

濡れた少女はわたし。わたしに置かれた。置いた夏山に、咲きみだ
れた、コマクサ。影を、おもいだしている、コマクサが、はびこっ
ている。あの人にひかり。はびこり。コマクサと、あの人の浮かぶ
水たまりは凍りつき、少女が薄氷《うすごおり》のように、月輪とかさなる。わた
しは抱けず、少女は。誰に抱かれることもない。(((少女の祈る)))、
わたしは、ひかりを、栞《しおり》を。くたびれた、散文に、/を開きなおし、
音もなく、こぼれた、うつくしい明朝体を、ひきずりながら、家へ、
家へと向かう。アスファルトには、金色《こんじき》に縁取られた銃痕《じゅうこん》が、不規
則に照らされ。狭いアパートには、煙が染みこんでいる。誰かに吐
き出された夢の/煙の匂いがする。その匂いが少女のびこうをさが
して、わたしは。次のY字路を左に曲がると、あしがもつれ、重心
が、コ::::::::::::マ::::::送::::::::::::::り::::::::で::::::
::ズ::レ::る::::::のを::認::::::::::識し::::::::な::が::::ら
ゆ::::っ::く::り::::と::::歩::::道::::が::立::ち::あ::が::::
る::::わ::::::た::し::::::::は::重::::力::::::::に::抱::き::
と::め::::ら::::れ::そ::::の::::::::ま::::::::::ま::::::::::

... 続き >

第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道