六月を雨に少女の祈る
森下 ひよ子
いちども日を抱かない。少女に抱かれたことのない金色《こんじき》の。あたた
かくない。あたたかいものに触れたことのないゆびでめくり。めく
られる月の温度を想像してから、水たまりにゆれる、それをめくり
かえそうと、しゃがみこみ。ふくらはぎは、夜風に駆けあがられ、
めくれるスカート。紺色のスカートはやわらかくめくれて、制服の
少女のふとももは真っ白。真っ白に、夜は、
(((壊れた街灯に照らされ、終わらない雨の、夜に、不規則に浮か
びあがる、僕。みえないくらい細/分化された『Bird and Diz』(*1)
を iPod(*2) で聴きながら微笑んでいた、ふるい六月の写真を。煤《すす》け
た背景には雨が降り、灰色の林檎《りんご》の木のした、誰かに摘み捨てられ
た花に、ピントが合わせてある。ひざを抱えるように、しっぽりと
濡れたからだをふるわせて。とても愛おしい。花弁のうえには、一
匹の蟻。)))
・・・この世界を変貌《へんぼう》させるものは認識だと。いいかね、他のものは
何一つ世界を変えないのだ。認識だけが、世界を不変のままそのまま
の状態で、変貌させるんだ。認識の目から見れば、世界は永久に不変
であり、そうして永久に変貌するんだ。・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
世界を変貌させるのは決して認識なんかじゃない。世界を変貌させる
のは行為なんだ。それだけしかない。(*3)
何一つ世界を変えないのだ。認識だけが、世界を不変のままそのまま
の状態で、変貌させるんだ。認識の目から見れば、世界は永久に不変
であり、そうして永久に変貌するんだ。・・・・・・・・・・・・・
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世界を変貌させるのは決して認識なんかじゃない。世界を変貌させる
のは行為なんだ。それだけしかない。(*3)
水たまりの。底で抱かれている。消えてしまいそうな、水溶性の月。
ゆびさきでふれた瞬間、雨がはっきりと、匂い。濡れたままのアス
ファルトが、ぎいぎいと喘《あえ》ぎ。黒いなき声。わたしのうすいひふを
周遊する、半世紀とすこし。うまれた星/星は、穏やかにつきつけ
る。つきつけられた、修羅《しゅら》。少女は修羅を食み、不意に立ちあがり。
銃痕《じゅうこん》が底に。めくれた制服を元に戻そうと、水たまりを跳び越える。
とぶ。飛び立つ、かみ、のけ。わたしの、かみ、は夜よりも真っ黒
で、少女のように、ただ、祈りだった。
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