◇ No.322 , '12/05/31 14:21:16 作成

6044 : 49 ‘til Infinity  澤 あづさ '12/04/23 20:25:14 *4

 エルニーニョは神の子だから、その呼応が悪魔であっては事であるからラニーニャと呼ばれた、少女は誰でもない。なんでもない、
 エルドラドのラスドラダス。ケンタッキーへ行くと言いつづけて結局行かず三十年の蔵で、バーボンふうに内側を焼き焦がされたオークの樽に、まだ溜めこんでいるウィスキーが、南のトウモロコシのせいなのか黄色すぎて売れない。時おり某のスコットランド人が、内側の焦げ目の黄ばんだ古樽だけ買いつけに来るが、やつのスコッチも売れてはいないスラーンチェ・ヴァーアンナンバー、レピンチレアンマシェドホレ、

“Hey, miss, who’s there? I'm through there.” *

 某のスコッツ氏が放つ th は時おり、強すぎる息で舌のわきから t を跳ね飛ばしいっそ gale 語。西へ至った貿易風が東へ帰ると、町はずれのりんご園の、春にはあかない直売所のわきの、日本の「ふじ」の木からのぼる、ひらききった中心花の白い香り。どうせ間引かれる側花どもは、まだ赤らんでつぼみのまま。
 どうせ用がなくとも、やりもしないブレンドのためのテイスティンググラスへ、十二年の熟成を注ぎだすと、
「How mellow my yellows are!」
 立ちのぼる黄ばみ。あから頬の小さな鼻に年を埋めて童顔を、蜜のいろの (O Fuji apple!) もやから剥きだし (my fair bananas!) 足はない。地につかない、
「Too pissy truly,」
 つぶやくと黄ばみが、
「YOSEMITE am I,」
 名のるので、こいつはミウォクに違いないと決めこんだ。ほかのアメリカインディアンを知らなかったからだ。ミウォクのことももちろん、知らなかったからだ、

“Time to get prolific with the whiz kid.” *
「Nip Nip’s Nipple lol」

 町はずれのりんご園にもハングタウンの坑道にも、つらなる森の脈はもう白けたんだと亡霊がささやく。少女の震えを駆る西でうねる風へと跨れば、黄ばみすらブリトルブッシュが打つ砂漠の一点でしかない。点でしかない。49年、だったか45年だったか、それからずっとこんな感じさ。



<*付きの英文は、Souls Of Mischief "93 'til Infinity" の歌詞から引用しました>

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5995 : 蒸発  ゼッケン '12/04/07 16:45:11

おれと彼は
おれが身代金の引渡し場所に指定した地下駐車場で
まだ名前の知られていない団体に拉致された
おれは彼の3歳になる息子をさらった誘拐犯で
彼はおれの嫉妬の対象となった父親だった
おれは後ろ手に縛られ、布の袋をかぶらされると数人がかりで車の後部に押し込まれた
おれは男たちを彼の手下だと誤解し、移動の最中ずっと
彼の復讐を恐れて過ごしていた
硬い木の椅子に縛り付けられてから頭部の袋を外されたとき、隣の木の椅子に縛られた彼と目があった
彼はおれを見ていた
彼もおれの仲間にさらわれたのだと思っていたようだった
おれと彼はコンクリートの小部屋に監禁される
先生に導かれてきみが目の前の扉から入ってくる
きみはまだ幼い
今年の春から小学生になる
それから、きみはおれと彼のどちらを殺すかと問われる
きみは孤児で
生まれてすぐに病院に投函されていた
きみを引き取った孤児院を運営する団体の名前をおれは知らないが
その存在は予感していたものだった
孤児院で生活することになったきみは同時に兵士として育てられている
きみの傍に寄り添った先生が
きみに拳銃を握らせながら言った

どちらが悪い大人でしょう?

おれと彼は黙っていた
何を喋るべきかまだ見当がつかなかったからだ
悪い大人は
あなたたちの将来をあなたたちより先に
消費してしまう害虫です
だから、あなたたちが大人を選べることを
悪い大人たちに教えるのです
彼らを恐れさせ、従えるのです

きみの瞳がおれと彼の間を往復し始める
おれは覚えた安堵を表情に漏らすまいとこらえた
おれは勝利を確信している
おれはおれが誘拐した彼の息子の居場所をまだ彼に教えていなかったので
おれが死ねば彼の息子もどこかで衰弱死するしかない
彼が彼の息子を守るためには彼はおれをきみに撃たせてはならない
彼は彼自身をきみに撃たせなくてはならない
彼ならできるだろう、美しい父親なのだから

さあ、お手並み拝見といこうじゃないか

隣から女々しい嗚咽が聞こえ始め、彼が震える声で命乞いをする
お願いだよ、撃たないでくれよ、そうだそうだ、撃つなら隣の男にしてよ、そうしたら飴あげる
ひどい大根役者だ、彼にも役者の才能だけはないことを知っておれの気分は爽快だ
なぜ彼が若くして親切と経済的成功を両立させえたのかおれには理解できないだろうが
もう、いまはいいんだ
おれは彼を赦せる気がする、このまま
彼がぶざまに死ねば
きみの焦点が徐々に彼の眉間に合う回数が増えていくのをおれは数えていた
実験では
被験者が意志を決定したとする認識の時点より先に
意志というものの身体的な決定はなされているそうだ
たぶん、おれの口元がわずかに歪んで
笑いの存在を暗示したのもそのせいだろう
見逃さなかったきみの焦点がおれの眉間に固定された
彼は叫んだ
殺すな!
おれは吹き出した、いや、失敬、
どちらを? おれをだろうか? 彼の息子をだろうか?
おれは山奥の廃校になった小学校の名前を言った
アスベストの埃が降り積もりつづける教室の教卓の下で彼の息子は丸くなっているのだが
はたして、銃声で彼に聞き取れただろうか?
発射された銃弾がおれの眉間を通って、しかし、きみはまだ銃を撃つには小さく、
見上げるような角度で発射された銃弾は眉間から入って脳幹ではなく前頭部を抉るように抜けた
おれは思考を失ったがしばらく生きているだろう、失血死するまで2、3分だが
ピュウ、と頭のてっぺんから血の筋を噴いた
きみが本当は彼を撃ちたがっていたのは知っている
間違ったことをしたい、おれと同じように
なのにきみは正解を選んで
おれを撃った

あほう

気休めにもならない手向けの言葉とする

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6065 : 私はトカゲ  右肩 '12/04/30 13:58:12 *1

 三錠分の言葉を呑み込もうとしていた。言葉の内実がそっくりえぐり取られて、喉を下っていく気配がある。言葉の内実をそっくりえぐり取って、喉を下していったので。
 まず一錠、のど仏のあたりがコクン。
 食道を下るものの、食道を下る様子をよく見ようとしたら、山崎さんの手を握ったまま、私の視界は内側へ反転し、山崎さんに、
「あら、三白眼。ん?白目。白目剥いてるよ、八重ちゃん面白い」と笑われてしまった。
 二錠め。三錠め。
 そんなことを言われたって、山崎さん、山崎理恵さん、あなたの内側だって、わたしが見ているものとおんなじ。こんなふうにピンクでねとねとして、うんと不愉快にしめってる。
 わかる?
 何かが身体に入る、それは頭を貫通する銃弾のようにはスマートに入り込まない。ダン、パパッ、プシューッとはいかないの。

 三白眼をくいっと渋谷の白昼に戻す。
 視界を取り戻すと物や現象を束ねる意識の箍が緩む。緩んで動く。
 くいくい。くくいくい。
 つまり、巨大な掌で揺すられるような感じで、街の構図も比喩的に振動したってわけ。うん。
 だからね、私ね、山崎さん、あなたに縋り付くようにしてずるずる崩れ落ちてるでしょ。いやん。何か色っぽい。あなたの柔らかいお腹に顔を押し当てて、下腹に向かってずるずるっといくと、股間から微かにあなたの尿の匂いもして。私は気持ちよくきもちよく内と外の刺激を反転し、やや攻撃的にそれを受容して山崎さん、あなたとあなたの渋谷を、ピンクでねとねとして生暖かい暗闇へ力任せに突っ込んだんだ。と。ゴトン。アスファルトに頭が落ちました。柔らかくありません。あいたた。
 とても赤みがかって、そして真っ暗。
「八重ちゃん、ヒトしてないよ。ヒトと言えないぞ、今。あの、もしもし。死ぬの?あなた死ぬことにしたの?」
 違うな、山崎さん。主観に死はありません。自分自身の死は神話的に創作されたもので、個人の中で不断に再創造されなきゃなんないから、つまり概念として存在するにすぎないんだ。知らないでしょ?理恵さん。
 死なないよ、私。死ぬつもりありませんから。

 身体を置いたまま、理恵さん、山崎理恵さん。あなたを残して私は渋谷の匂いを歩いてます。
 カレーの匂い、鶏肉を焼く匂い。それから麺を茹でるふわっとした湯気、その匂い。まだある。牛革のバッグの皺の寄った匂い。真っ新な衣服の匂い。もちろん人間やそうでない生き物の皮膚と様々な分泌物、排泄物の匂いも濃厚だ。都市の下水網、そのさらに地下にある水脈、地殻の下にもやもやと予感されるマントルの灼熱も。みな匂う。
 それらがまるで水彩の染みのように滲んで入り混じっている。聴覚もない視覚もない、肌触りすらない世界だけれど、私は確かに地表にいるし、私は確かに数万メートルの気圏の果てにいる。わかった。広大な出来事の総体が私でありました。
 改めまして、こんにちは。みなさん。

 私はトカゲです。目を閉じたトカゲ。目を閉じたトカゲの魂。目を閉じたトカゲの魂の、そのしっぽにあたる部分。
 私はこんなにわかりやすい神話として生まれたんだ。
 イザナギは今、天の御柱にじょうろで水をやっています。はしけやしまだきも小さき御柱に雨は降りつぎ風やまず陽はそそぎつつかげりつつ春の真ひるとなりにけるかも。
 空の高みまで湧き上がった砂塵。砂粒が水蒸気の凝結を身に纏い、地へ向かって鎮められていく。鎮まっていく。時間はトカゲの背に乗って、無明の湿地を進んでいます。
 泥の中に浅く浸るしっぽ。S字形に曲がったしっぽ。振り上げられてすぐ落ちてちゃぽといいしなまた動く。
 私の性欲は造山活動で隆起し、低粘度の熔岩を吹き上げながら愛している愛していますと泣いています。山崎理恵さん、あなたを。あなたのことを。
 愛していると。
「八重ちゃん、八重ちゃん。あなたここにいるじゃない。よかった。よかったよ。八重ちゃん、もうここにいないかと思ったよ」
 山崎さんは泣いている。
 私の頭を膝にのせて、体を深く折り曲げている。幾筋もの長い髪の毛が夜の扇状地に広がり、鼻をすするあなたの表情は歴史の彼方、朧に紛れて見えない。
 いいんだよ、泣かなくて。

 でも私はトカゲのしっぽ。
 渋谷は緩やかな谷間に身を潜めた極ささやかな建築物の時間的不連続帯でしかありません。
 理恵さん。あなたも私も。

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6061 : チワワ  大丈夫 '12/04/30 09:17:56  [URL]


「あの家に貰われたチワワは本当に幸福なのだろうか?」

知っている様にチワワとは、犬の種類で一番小さい犬種だが、その犬は原型を留める事もできない。それは妊娠しているかの様に丸々と太った腹をして、眼も虚ろでどてっとふんぞり返っている。その貫禄ある様子は、まるで童話の赤ずきんちゃんを食らって眠り呆けている狼の体を思い出させる。きっと贅沢な食事をたらふく食らって、良い調子にウトウトとしているのだ。その腹はピンク色をして赤い血管の筋が浮き出して、薄やわらかで今にもはち切れそうだ。踏みつけたならお腹の中から、血なまくさい肉汁が出てきそうだ。否、押さえつけるだけでも、あっという間に苦しんで死にいたるだろう。

父は「こんな幸福な犬はないだろうな。」と言った。母は「この子ったらすぐに欲しがるものね。私の食べる分が無くなっちゃうわ。」と、呆れかえる様に言って返事をする。
見るに見かけて、彼女は「少しだったら良いけれど。やり過ぎはいけないよ。」「だって食べさせるのも、いい加減にしないと太る一方で、体に悪いよ。」と、不安げに言ってはみる。だが「ウルサイワネ!」と返事が返ってくるのがおちだ。だから彼女は見て見ぬふりをしながら、テレビを見ては気を紛らわしている。しかし、人間でも誰にも看取られずに餓死してしまうこの時代に、この犬の過食症は許されるものなのだろうか。

「この犬は果たして幸福なのだろうか?」
まずは、この家はみんな自分の立場を譲ろうとしないので、揉め事が多い。自ずと高飛車に揉める事など、一日に何回もある。それに精神的におかしな人ばかりだから、喧嘩の度に大声で怒鳴り合う。その度に、この犬は八つ当たりをくらうのを避ける努力をしなければならない。けれどそれにもまして、喧嘩を何とか止めて欲しいのだろう。堪らなくなり、その犬は人間の喧嘩の仲裁に躍起になり、吠えまくって「やめてくれー!」と大声で必死に訴えている。

「この犬は、絶対幸福なのだろうか?」

それにもまして、いわんや可哀そうに肥え過ぎで糖尿病と言う病になり、毎日、インシュリンの注射を父にうって貰わないと命に関わるはめになった。
厄介な事にその為、眼の玉が真っ白になり、白内障で盲目になるはめになった。だから、家の中ではどこに何があるのかは把握しているからまだしも、外では物にぶつかる為に、怖くて散歩にも行く事も出来なくなった。
自分の体重を持てあまし、のっしのっしと歩く姿は、茶色と白の毛が可愛い特徴のイノシシの子供のウリボーの様を呈している。

「本当にこの犬は不幸せなのだろうか?」

確かに冷暖房が行届き、床暖房もある。暑さ知らずの寒さ知らずで、どこで寝転ぼうが、人間の方が気を使っている有様だ。甘えたかったら、ポーズで、母の膝の上で抱いて欲しいと媚びる。そうすると母に首のマッサージをしてもらい、終いにはウトウトして、この上ない安心感と満足感で、この世の極楽と言っていい程、とろけた顔をして、リラックスしている。誰かがおやつを食べようならば、抜かりなく可愛い声でおねだりする。不味いドックフードには眼もくれず、美味しいささみばかり食べる美食家である。兎に角やりたい放題だ。

「この犬は果たして真に幸福なのだろうか?」

しかし、私は思う。
普通、人間と関わりが多くある犬の生きる喜びとは、人間と共に自ら働く事ではないか。生きる為に食べるのであり、だからこそ食事は、何を食べても美味しく感じられるのではないだろうか。

人間もそうだ。
働き、もしくは勉学する為に、食べるのである。決して食べる為に生きているのではない。あくまで生産的な働きの為に、私達は食べるのだ。食べる事は二の次なのである。                                                                    

大勢のペット達は人間を癒すという役割をして、愛されているが、一方では、犬の擬人化という問題が生じているのではないだろうか。寂しいから、癒されているから飼うのも良いと思う。しかし、擬人化し過ぎると何かそこに、大いなる錯覚が生まれやしないだろうか。

そして彼女の事を書くとなると、彼女は、金食い虫の買い物依存症という難問が浮かび上がってくる。何でも良いなと思えば大名買いだ。値段もそこそこに
欲しいなとなると我慢が出来ない。豊かな物質で空虚な心を満たそうと言う訳だ。生きているという充実感が食べ物や気にいった物なら何でも、買いまくる。
そうやっていかないと生きていると言う実感が湧いてこないという情けない話になってくるのである。お腹がすいたといって、ダイエットの事など忘れて我慢しきれず、過食している。生きている実感を美味しいものを食べる事で、用を足しているのだ。何が何でも生きているという実感が欲しい訳なのである。

「彼女は本当に幸福なのだろうか?」

生きているようで死んでいる。虚無ではあるが、生きている。その狭間であがいていると言えよう。精神科医によると境界性人格障害者だ。生きている事に嫌気になり辛くなる時に、卑劣な事だが時としてリストカットまでしてしまう。右手でナイフを握りしめ、左の腕を差し出して切り始める。血がポトリと落ちだすと彼女はもっともっとと、ステーキを切る様に噴き出た血の上にナイフを滑らしていく。血が凝固する前にもう一度ナイフで静脈を切っていく。こんな卑怯な生き方、こんな安易な逃げ道によって、彼女の左腕は醜く人目には出せなくなってしまった。彼女は自分で自分の首を締め付け、世間を狭くしてしまった。決して死にたい思いが無いというのは嘘ではないと彼女は言う。
だが、生活に困っている訳でもなく、優しい両親も彼女の事を大切にしてくれる。満ち足りた物質の日々があり、そして努力すれば這いあがれない訳でもない。やはり自分の弱さであり、甘えの極めなのだろう。
あくまで死ぬよりも誰かの助けを求めるサインを出しては困らせている。

しかし、北欧の社会保障が整っている国々の、自殺率の高さは何を意味しているのだろうか。
以前に人を殺す経験をしたいと言って、人殺しをした男性がいた。つまり、自分の存在感を、人殺しをしてまでも、追求しなくてはならなくなると、悲惨な結末に繋がっているのではないだろうか。生きている実感を得る為に私達は生きていくのであろうか。果てしない人生の中で、無力感に駆られるのは物質的な貧しさではないと断言できる。それよりも精神的な心の病が、私達をどん底の暗闇に押し潰していくものだ。生きる喜びは心の健全さが不可欠だと思いしらされる。この多様な価値観の世の中で自分なりの生き方、生きていく道筋を放浪しながら、探し見つける事、これが人生なのかもしれない。                                                                                                                                                                                              

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6064 : 古いギター  RetasTares '12/04/30 13:44:36




陰鬱な樟脳の
特異な芳香が

発ちこめた押入れの中

光と新鮮な酸素を求めて

雨戸を終い
窓を開く


踏み台の位置を
確かめた後

積もった埃を
ウォータータオルで拭った
黒いギターケースの
蓋を開ける

しばらく見ない間に
琥珀色の板に変色した
ギターを取り出し
金属製のスタンドに
立てる

とりあえず
赤い布でネックの
汚れをふき取り

銀色のフレットに
こびり付いた
指の垢などを
綿棒でコツコツ取り除く


   ケースの中から
   楽譜というより
   コードと歌詞だけの
   紙切れを見つける

   何気なく裏を視る
   電話番号が読みづらい
   数字で書かれている
   1と7とが判別できない
   程度に癖がある


ケースの小物入れを開け
音叉を取り出し

・膝を叩く

即座に骨に
音叉の小球を当て
イ音の響きを感応する


   共鳴する過去
   思い出した震動数

   有機生命体であるはずの
   ホモ・サピエンスとしての
   吾身の骨質が震える

   その無機物性を感じる時の
   自然に噴く苦笑い


   《俺の内部はイシである》



細い一弦は
あの時

切れたまま


   新しいゲージを張る


四半世紀も触れず
閉じ込めて置いた

重刑囚でもあるまいに


曲を弾く度に
怒鳴られた

五月蠅い父はもういない

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6062 : 落日  紅月 '12/04/30 12:27:26

鋭いふじつぼが覆う
防波堤に腰掛けては
水に平行に浮かぶ灯台と
水を垂直に貫く灯台の
交差点を横切ってゆく
ちいさな鴎の残響を聴いていた
坦々とつづく白砂のうえに
残しておいたはずの足形も
ひとつのこらず剥ぎおとされて
(硬い珊瑚だけが堆積してゆく、)


うねる波は朱色
風に遊ばれる
薄いカーテンのようだ
ね? と、
錆色をした明喩を拾っては
飛沫の先へ投げる
(押し返されては
ひとりでに戻ってきて、)


翡翠の原を砕きながら
いっせいに
対岸へと駆けていった子どもたち
彼らのいうとおり
ささめきながらゆれる鏡面から
顔を覗かせる幾つもの
にぶい岩礁の影は
尖った指先のようにも見えた
まさぐっているのは
こちらではなくあちらなのか、
問答の乾かないうちに
誰もいなくなった
あがる飛沫はやがて発火して、


あわいまどろみばかりが
白砂に打ちあげられては
代わりに浚われてゆく影を
追う影もなく、
熱のない炎上をはじめた島が
しだいに焼け焦げてゆく空へ落下する


やがてさかしまとなって
そそぐ夜雨のつめたさを、
いったいどんな比喩で語ればいいのか
この島に人は住んでいないが
それでも詩は書けた
(潮騒に埋もれた鴎のこえ、
それがもし
うつくしいメタファであったとしても
わたしには永遠に理解できない)
 

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6056 : 目覚まし時計はまだ鳴らない  ズー '12/04/27 21:03:24  [Mail]



きみのオデコはとがっている、おやすみと言うたびに、やだやだされて、それはちょうど夏の虫だったから、掛け違えたボタンが蝉のように、ポックリ病だ、ぼくはきみを目覚まし時計と間違えていた。
縞模様のパジャマだった、水墨画のようにきみをおもい描けば、薄くひかれた瞼が、ヒダリ耳までのび、そのまま赤道と交差して、光を帯びた、旅客機のかたちで、光のさきに、旅仕度はいらないけど、先ずは皺くちゃになった星空に手を伸ばす。きみの足をポークビッツだとばかりおもっていた、ぼくはかに座です。


海岸堤防の階段‐蹴込みの両隅は黒ずみ‐時々白く濁る‐ぐんぐん駆け登ると‐まだ誰も走ったことのない‐空まで続く巨大なハイウェイが現れる‐振り返ると‐せり上がった家並みに浮かぶ‐エンジンの搭載されていない‐六畳一間の小船の船底で‐大波に遭難したきみは眠っている‐今夜も夜通し救難信号を送っていた‐ぼくはひるがえり‐波打際まで一気に降りる‐砂のひとつも色を帯びずに‐でも、今はハイウェイを横切る玩具の漁船が‐どこかの釣り人に釣り上げられ‐岬の手前からふいっときえた‐しらみはじめた空で解体された‐星座群がその後を追う‐夜が溶け、墨汁のような海原に‐ぼくは飛び込んだ。


ずぶ濡れで帰る、未亡人の大家さんに見つかる、ぼくはブリーフ一枚、指先にひっかけたハイカットから点々と海岸まで続く海のにおい、きみのポークビッツをかじるイメージで、大家さん、おはよう、歯ざわりのよさに、振り返っていた、きみのオデコと息き絶えたボタンに触れる、EDWINと砂のついたTシャツを流し台にほうり込んだ、どこにも飛び立たない旅客機は疲れきっている、小船に溢れた七月に、息もできないかにが泡をふいて、船底をうろついていた。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20120427_432_6056p


6072 : 身体がどうして花に触れられよう。花に触れられるのは、たましいばかりだ。  リンネ '12/05/03 00:21:50 *7

ほこりっぽい多摩川沿いの砂利道いっぱいに、
平日の時間の無意識が失調し、
いたずらが行く手で陽炎めかして燃える。
ここは昼間ほかに客もおらず、
他人の醜悪な顔を見て不愉快な想像を掻き立てられることもない。
男でありながらその不思議な現実に耐え切れない世界は、
足元に存在した簡単な石を学生アルバイトのウェイターにみたて、
アイスコーヒーとシナモンワッフルをいつも通り注文する。
記憶の片隅からは一足先に、
シナモンのなまなましい実体が強烈な臭いとともに降ってくるが、
ウェイターが注文を聞き入れた様子は無論ない。
世界の目はだんだんと縮こまって、ぐっと、
目やにがはじけるような控え目さで男の存在を主張するが、
他に注文を聞いてくれる者もいないのだから張合いがない。
いや、確かにここには。
石ころにまぎれて今は陽炎のような内臓しか見えないだけだ。
初夏は辛うじて男のまなざしをまとい、
川は滔々と流れているがその先に、
信号が点滅するような、危うい光の言葉たち。

「昔の話だけど、女の子に、君は人間の看板だねと言われて、なるほどと感心したことがある」
「そう言ったのはその子の気まぐれ」
「百メートルも離れたところに、僕が背を向けて立っていた」
「それが歌でできたプラスチックのように見えたの」
「一目でそれとわかるように立っていたのさ」
「それって?セルロイドの人形と見分けもつかない」
「頬を火照らすことはできる」
「あら、自分で確かめてみて。ほらあなたはあっち、対岸にいるわ!」



男の歌はうんざりするほどの分かれ道続きだった。
笹藪の中の笹藪の足跡をたどって、覗かれた、
笹の口の中には、怪訝な表情をし、多摩川を眺める都市がある。
酒の席で、腹広蟷螂がアメリカのように膨れた腹を振った。
これは居酒屋から葬式用の死人を運んでいる。
死んだ人間は運ばれることを知らない。
知らないものたちが増え、いつのまにか、都市の感覚の上から、
死んだものたちがはたりと消えて、運ばれてしまった。
運ばれる前、多摩川は死者たちを流れていく。
流れるものたちの浮かぶ、波紋ではネオンが観音様のように光る。
傾斜という傾斜がいちいち病院に収容されていく。
平坦だけが残り、あぶれものの川が点となりとどまる。
逃げそびれた、文字のたましいが、
救急車のサイレンからこぼれる。
こぼれた手前、蝶のように逃げてしまった。
運ばれない、蟷螂たちの文字だけが歌になる。
ときどき多摩川は病院のカテーテルを流れる。
同じくして、歌は群れるものたちの悲しみを流れている。
鉛筆と文字のような遠い睦まじいかかわり。
川が分裂していく、点滅する死を流れるために、死を探しに。
あっという間、目が見えないところまで来た。
男のまぶたは多摩川を閉じた。

「君はつり橋の中に急に現れた林に潜れるかい?」
「つり橋なんて、どこにもありません」
「ないって、君は確かにそこで生まれたんだ」
「余りにも生まれすぎたわ、私をつなぎとめるのはあなたの視線」
「他人に見つめられて、それっきり固まっていたいのかい?」
「ナイフとフォークを頂戴。それで光を食べ続けられる」
「ごまかさないでくれよ。こうしている間に、ぼくは渇いてしまう」
「やめて、あなたは病気。自然に通り過ぎるのを待つのよ!」

光が人間に光らない。
雨におたまじゃくしが流れない。
八月の道が七月の道をくぐって。
何も主張しない看板が積もり。
子供の宿らない妊婦が閉じられる。
ほら比喩ばかりがそれらしく述べられて。

「きみは歌になった世界を見たことがある?」
「やめて、あなたは病気。自然に通り過ぎるのを待つのよ!」







*タイトルはタゴールの詩文より引用

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6074 : 今日?  ちーちゃん '12/05/04 02:25:12



何処へでも行け過ぎてやる気も無くなる様な
足元のインターロッキングの隙間のアミダ遊び
アスファルトの切れ間からずっと
そうだろ夜が明けるのはもうじき
それまでに寝た振りをしなきゃならないのは
お前だって同じ筈だぜ Oh baby

行方さえも知れぬ今日の日が
名前さえも持たぬ遠いあの場所へ消えて
カーテン越しに死滅するのを
見る筈の時間の中で薄暗さに揺れている
俺とお前ガラスのショーウインドウの中で
頭の闇に揺れている

断頭台に立たされるような
散髪の椅子に縛り付けられるような
ああ 兎に角胸に突き当てる
そのドリルの振動を止めて
誰の手でもいい
俺の腕でもいい

俺は誰

此処で出会った人が聞く

君は誰

俺が続けて言う

君は何処

一つの口が繰り返して言う

あの空の、

目をずっと閉じたまま

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6076 : 訣別  寺山修二郎 '12/05/04 21:01:41

掟がなければ罪はない
言い訳はいらない
闇より噴出する衝動が実行に移され
言葉、言葉、言葉
言葉の迷妄を自由にすりぬけていく

掟がなければ
きみに罪の意識はなく
天国と地獄とが結婚した自由空間、自由時間が漠として広がるのみ
この一点に異邦の者が去来し
次々についえて消える

枯れ果てた言葉
枯れ果てた妄念と想像力
枯れ果てた掟との訣別を

言葉、言葉、言葉
もはや言葉はいらぬであろう

彼らは帰ってこない
命綱を投げ捨てたあとの無限落下に身をゆだねれば
ニュートンの万有引力にさえ拘束されることのない
地球をも太陽をもつきぬける拒絶、訣別、全否定の極限にて
黒馬は蹄を鳴らし
裏の髑髏将軍、表の正義と成り現ル

<表>  0  1  2  3  4  5  6  7  8  9 10
<裏> 10  9  8  7  6  5  4  3  2  1  0
   (11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21)

  <表>
0、愚者(太陽)     8、正義(天王星)   15、悪魔(木星)
1、奇術師(水星)    9、隠者(海王星)   16、塔(火星)
2、ジュノー(金星)  10、運命の輪(冥王星) 17、星(地球)
3、女帝(月)        <裏>       18、月(月)
4、皇帝(地球)    11、力(冥王星)    19、太陽(金星)
5、ジュピター(火星) 12、刑死者(海王星)  20、審判(水星)
6、恋人(木星)    13、死(天王星)    21、世界(太陽)
7、戦車(土星)    14、節制(土星)     

呻く夢の果て、疼く死神の声
ワレワレの未来

               11、力(冥王星)

      14(R)、節制(土星)         17、星(地球)
            
                3(R)、女帝(月) 
           
      8、正義(天王星)            12(R)、刑死者(海王星)

               15(R)悪魔(木星) 

月の乱れが冥界と地上との不調和の原因
人は希望を求めるが、冥界は地上韻律に従うのみ
地上乱れれば冥界も乱れる
冥界、混乱の時
地上、節度を失う
全ては月の乱れによる

六芒星の中心に正位置の月をうがて
おぞましき蛔虫の群れは審判の空をあおぐ
わたし、わたし、わたし
自己、自己
己を語りたいならば語るがよい
おぞましき蛔虫の叫び、審判の空へ響かせよ

希望の裏側は絶望ではなく
星だ

〇一二三四五六七八九十
十九八七六五四三二一〇

うがて
なりふりかまわず

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6077 : mirai  New order '12/05/05 00:25:59 *2

ミライというケダモノ、
セカイの中心でアイを叫んだ、ケダモノ?
ミライクン、
君の手足は、光の中で、
自動的に収束しては、加速していく、
まるで、固体がその形質をたもてなくって、
崩れ落ちていくように、発光するんだね、

ミライクン、
ケダモノの多くは、愛もIも叫ばないよ、
口からでる涎の中を、ただただ這い進みながら、
飢えた腹を抱えて、僕らの背後のせまってきて、
いつだって驚かすんだ、

この部屋の質量は、すでに、
僕の体重よりも軽くなってしまった、
だから、早く、早く、

冷たい、土の、間に、
挟まれた「それ」を、
隙間なく埋める、
私たちの焚き火、

私たちの体は、
硬くならない、
やわらくなって、
破裂する、

バーン、って言うんだよ、
口を膨らませたって無駄ですよ、
一斉に、バーンっていうんだよ、
つまり、バアアアアンと、
伸ばすよりも、バーン、と、
書いた方が、いい気がするだけなんだけれども、
そいで、その後に、なぜか歯が少しだけグラグラするだろ?
抜け落ちてしまって、舌の上がザラつく、
プスプスと音を立てながら煙も、立ち上ってくる、
でも、苦くないよね、

「ああ、まったく苦くない」

そいでね、また、バアアアン、って、
音を立てながら走るわけ、
どこまでかしらないけど、
バーン、よりも今は、
バアアアンの方がきっと良い気がするから、
バアアアンって書くけどさ、
この、バアアアンの、間に、
夜と昼は入れ替わって、
どいつもこいつも、飛び跳ねて、
飛び跳ねられなくなって、
地べたに、ベトオオオオ、ってへばりつく、

ジョントラボルタが、
宇宙人をスキだって、知ったって、
僕にはかまわないのさ、
シュワルツネッガーの筋肉が
ヨワムシの証だってどうでもいいのさ、

ほら、口笛だよ、
バアアアアンって、
そして、ベトオオオオオオ、って
へばりつく、
壁、にも、床にも、
あっちこっちに、へばりついて、
ドカアアアアアア、って、
流れ出して、
そしてやっぱり、
バアアアアアン、って
爆発する、

「爆発する、爆発する、爆発する」

もう、何度目かな、かな?
カタカナかな?
ひらがなかな?

「破裂する、破裂する、破裂する」

どこまでも、破裂する、
こなごなだー、こなごなだー、
いかなごだー、

ミライクン
予想可能な、デキゴトクンの、
お宅の門を、昨日叩いたんだ、
そしたら、ヨソウカノウクンが、
青ざめた顔で、
「やっぱり、俺むりっす。Ifになれないっす」
とかいいながら、
「コノヤロウ、コノヤロウ」
って枕を殴ってた

「僕には出会うべき過去がある。ifと言う形で語られるような未来よりも
 出会うことができなかった、もうすでに、今の時点で、失われてしまった、
 過去の膨大な集積の上で、語られるような失われてしまった人々の過去の未来、
 未来の過去」

ミライクン、ぼくと君は友達だよね、
君のマブダチのヨソウカノウナミライクンと、
ヨソウフカノウナミライクン、
そのどちらとも、もし君が決別したら、
君は、ヨソウフカノウナカコクンか、
ヨソウカノウダッタカコクン、
ヨソウフカノウダッタカコクン
ヨソウフカノウナカコクン、あれれ?
よくわからなくなっちゃったけど
彼らと友達になるのかな、
でも、マブダチになれるかな?

やっぱ、バアアアアアンって、
バアアアアンンって、爆発して、
ベトオオオオオオって、
へばりついちゃうのかな、
あっちにもこっちにも、

涙なんか流すなよ、
ミライクン、
バアアアアアンって
バアアアアアンって
爆発すればいいんだよ、
それでやっぱり、
ベトオオオオオオオオオって、
あれ、また繰り返しだ、

ミライクン、ケダモノ、ケモノは、
イセカイの隅っこで、アイを叫ぶのかな?
どうやって叫ぶんだろう、
イセカイでは、君の言葉は通用しない、
まるで通じない、そして、君も、
イセカイの言葉が分からない、
それでも、アイを叫んだとして、
誰かに届くのかな?
そして、誰に届けたいのかな?

イーセーカーイ
キーセーカーエー

あーれ?
また間違っちゃった

背後で唸る様な、声は、
夜の森の中では、当たり前だった、
声は聞こえなかったが、
視線だけはあった
目の前に、
暗闇の中で、光る瞳、
それを僕は、大学の夏休みで
帰省していた実家で見た、
目の前のある瞳、
でも、声は聞こえなかったが、
背後から、何かが唸っているような
気がした、
あの暗い森の中で、
懐中電灯を途中で消して、
何かを考えていた時に、

ミライクン、
テーブルの上に、
お皿だけがある、
君は今何が食べたいの?
いまじねーしょん!いまじねーしょん!
かーねーしょん!
君の指は、フォークもナイフももたずに、
その、十の指で、何かを掴んで、
口に運ぶ、
でも、お腹は満たされない、
想像じゃ、お腹はふくれないから、
だからといって、
自分の指を食べちゃだめだよ、
そういえば、ミライクンの、
お母さんって一体誰?
どこにいるの?

一緒に叫んでみような、
おかああああさあああん
さんまのかばやきいいいいいい

やっぱり、バアアアアアンって、
バアアアアアンって、爆発する、
そして、ベトオオオオオオオって、
ベトオオオオオオオって、
へばりつく、

まるで、ケダモノ、ケモノ、
みたいに、何かを叫ぶ
君は、

 

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6068 : 取り戻すべき空   '12/05/01 19:58:29

その子どもは青空を見たことがない
だから瞳も鉛色で固定されてしまった
その子どもは誰とも接続されていない
だから心もフリーズして再起動を待っている
彼は夢を見ているという夢を私たちは見ている
夢の中では観客のいない劇が演じられている

男A「お前の舌先から零れ落ちた蒸気機関車が」
男B「ペシミストたちを蹴散らしながら疾走する」
女A「ネット端末がなければ何も出来ないクズ共を」
男A「道連れにして自爆するのが俺たちの役目」
男B「心地良いループに溺れることを肯定する奴らは」
女A「浴室の鏡を覗き込んで『お前は誰だ』と百万回言え」

 1969年製のラジオから流れてくる
 初老のDJの早口で薄っぺらい言葉

DJ「新しい靴を履いてご機嫌の自称天才たち」
DJ「吸収した知識がすべてだと盲信しているから」
違法CB無線A「この先の左カーブ手前でネズミ捕り」
DJ「ブレークインなど必要ないと高笑いしている」
DJ「テメェらこれから始まる長距離行軍でマメを作り」
違法CB無線B「はいはいアリガトさんですー」
DJ「『こんなはずではなかった』と定番の泣き言で」
DJ「俺の第一ステージを汚したら速攻でdisる」
違法CB無線A「法律守ってたら食っていけねぇよなー」

 母親たちが子どもを放し飼いにしている公園で
 制服の女子中学生が参考書の裏に殴り書きしている

死にたい殺してやる死にたい殺してやる死にたい殺してやる死にたい殺してやる
みんな消えろ助けてみんな消えろ助けてみんな消えろ助けてみんな消えろ助けて
出口はどこ呪ってやる出口はどこ呪ってやる出口はどこ呪ってやる出口はどこ呪ってやる
絶対許さない大好き!絶対許さない大好き!絶対許さない大好き!絶対許さない大好き!

 訪れる者がいないネットの掲示板に
 今日も書き込まれる未読メッセージ

(彼は午後の回廊を永遠に歩き続ける)
(故に彼の姿は光と影の点滅と化して)
(幼い子どもたちに教訓としてのトラウマを与え)
(取り返しのつかない過ちを直前で回避させる)
(俺たちに必要なのは彼のような愚か者だ)
(いまだにマリファナの匂いに包まれた聖者だ)

(見たものを見たままに)
(聞いた音をそのままに)
(お前の身体を貫いた刃の)
(苦痛に相応しい悲鳴を上げろ)

(古臭いとい言うのか?)
(それは何を基準にしている?)
(お前のすがりついている)
(そのメートル原器こそ過去の遺物だ)

その子どもは静かに目を閉じて
たどり着きたい青空を想像する
テレビでしか見たことのない蒼穹から
なぜか懐かしさを感じる声が聞こえる

(夜明け前にすべてが静止する瞬間がある)
(それはネ申と語り合える唯一の永遠)
(一瞬の油断がお前の喉笛を喰いちぎる)
(間抜け面のデスマスクをネットに晒して)
(笑いものになりたくないなら忘れるな)
(酔ったまま歩いていけるほど甘くはないのだ)

(分厚いマニュアルのページをめくる前に)
(状況は始まり進行し終わってしまう)
(だから躊躇わずに齧りつき引きちぎれ)
(卑猥な音を立てて噛み砕き飲み込め)
(気の利いたセリフを考えている暇があれば)
(体温が完全に失われるまで威嚇し続けろ)
(餓鬼の頃に貴重な小遣いで買ったミルクを)
(最後まで拒絶して死んだあの仔猫のように)

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6071 : 水葬  水野 温 '12/05/02 22:23:47




水葬という
ことばの碧さにしずむ街があるのならば 
その街のはずれにはいつも、だれからもみすてられた植物園がある

(みあげれば
そこには)
まとまりのない沈黙が
みずをせきたてるようにあおさをふかめ
こわれかけた噴水のまえにたたずむ盲目の少年のうえにひろがっている

みすてられたもののあえぎは
きこえない

あざとい夢のなかで奔流する風は
ゆりもどされて
そこにある。
せきする鳥の落下はぬれてゆくからすべてもまたぬれおちてしまうのだと
あらゆる葉脈にかきうつしても、やはりすべてはだれの記憶からも
はがれてゆくので
こんなにもあおざめているのだろうか、
みえない瞳でみつめられるものを
あやうい方位にはぶいて 
少年は石化するまでいつまでもたたずむことしかできない

窒息におきかえて
あざわらう雲の追悼はしろい
(とりかえしのつかない)みずへの追訴のように、子どもたちの歓声が
錯覚されて
みみをゆびでとざしてもせきとめられずに
こわれてゆくことば、
あるいは
葉音
(がある)

モノトーンのくるしみをみどりにおりかさねてふるえる」
円錐形の風のように
きっとなにかがそこなわれてしまっている
噴水台のテラコッタにからまる蔦はきっと空にもからまりながらすべては
石化してしまうのだろうかとあなたにきく

(その問いに
こたえるべき声もまた盲目)
植物園にかすかに反響するものはだれの声でもない

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6066 : 千切レタ耳ヲ拾エ。  田中宏輔 '12/05/01 00:00:43 *1



ベルゼク、ダッハウ、ビルケナウ。

このあいだ、阿部ちゃんの勤めてる旅行会社が
収容所体験ツアーを組んでた。

現地の施設で実体験できるなんて
とってもステキ。

ひとつに砕ける波。

ぼくんちのインコは
いくら教えてやっても、九九が憶えられなかった。

鼠だったっけ?
どんなことでも、三歩も歩けば、忘れてしまうっていうのは。
それって、いいよね。

前に、中国の刑法史だったか、刑罰史の本を読んでたら
宋代の宝典に、『金玉新書』というのがあると書かれてあった。

べつに、
ただそれだけのことだけど。

パプアニューギニア。

あっ、パプアとニューギニアの間に・が入るんだっけ?
入んなかったっけ?

吉田くんちは、首狩り族だった。
先週の火曜日に転校してきた。

べつに好きなタイプじゃなかったけど
たまたま隣の席だったから
いちばん最初に、ぼくが友だちになったってわけ。

ただ、それだけなのに
吉田くんは
ぼくがうんちするところを覗く。

家に帰っても
吉田くんは、ぼくんちに勝手に上がって
ぼくがうんちしてるところを覗く。

ぼくも鍵をかけないで
ドアを開けたまま
ぼくがうんちしてるところを覗かせる。

そういえば、ジミーちゃんが、こんなことを言ってた。
はじめに言葉ありき、ってあるでしょ。
光あれ、っていう、この言葉自体が、神さまなの。
旧約のなかで、アブラハムの前に顕われたり
ノアの前に顕われたりした神の言葉が
新約の中で、イエス・キリストとなって
ふたたび顕われたの。

そう?

ああ、目がチクチクする。

大きい蟻が小さい蟻を食べている。
それは禁じられてはいない。

インディアンの女たちが、子どもたちといっしょに
捕虜たちを拷問する。

バラバラのバッタが美しいわけ。

それは、きみの獲物じゃなくて
ぼくの獲物だ。

さ迷える口唇刺激。

空は点だった。

井戸の底で
マナイがつぶやく。

ひとりがぼくを孤独にするのか、
ひとりが孤独をぼくにするのか、
孤独がぼくをひとりにするのか、
孤独がひとりをぼくにするのか、
ぼくがひとりを孤独にするのか、
ぼくが孤独をひとりにするのか、

3かける2かける1で、6通りのフレーズができる。

まるで、シロツメグサのよう。
まるで、ケイちゃんの脇にできた良性腫瘍のよう。

新しい恋人ができたら
まず、はじめに、足で踏む。

いま、抽選でスペインに行ける。
スペインに行ったら、火刑裁判が受けられる。
異端審問で、いろんな拷問が受けられる。

そこで、神さまがいることを教えられる。

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6080 : 人間と人生  自然 '12/05/07 15:17:42

まず、子供の頃、父におんふしてむまてるころわ、パパとまんまにずっと目のまん中を、一日ずっと側にいてくれてくれて、幸せだったな、あ、それは休の間だきだったっけ。これまろ。

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6084 : 日傘で街へ  ちーちゃん '12/05/09 01:58:02


其れなりのファッション 其れなりのポーズで
其れなりのライフを営む
そんなのは嫌だ そんなのは芸が無いよ
散らかして歩く 脚を捕られながら
時間が来るのは嫌さ バスは待たないよ
裏通りに向かう 街を後にして

雨が降ればいい 土砂降りになって
ピンクの傘の出番が来ればいい
裏切りの太陽 カラカラの天気
アスファルトに未だ 馴染めない影
アドレナリンを切らして 座り込みそうさ
もぬけの殻の 道の途中

光線銃の光の中で 
ゆっくりと溶け出して消えるのだろう
足元の水溜りと共に
そして天へと昇った振りで
いつかこの傘に滴るのだろうか

雨が降って来た 土砂降りの雨が
赤い鞄から傘を静かに取り出した
スコールが過ぎて すぐに空は晴れ
濡れた歩道に 同化した影
ピンクの傘を 日傘がわりに
また街を行く 晴れたる道へ

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6045 : 夢のなかに生きる  天才詩人 '12/04/24 00:19:17



僕には出会うべき人々がいる。暗がりのマンションの一室を通り過ぎると、光がさんさんと差してくる。そこには道がある。砂利で未舗装の、木製の電信柱がポツポツと連なる、細い道。水溜りが、雨上がりのススキ野を映しだす、人里離れた村の農道。いや、それは郊外の原っぱに建設中の、建売住宅の用地から見た、田園風景なのかもしれない。とにかく、僕はその道を進む。空から光がさし、それはたったいま過ぎてきたマンションの一室の、子供部屋にも、たぶん届いている。場所は1970年代、北米の大都市の郊外にある、ショッピングモールに移る。そこには高速エレベータを模したフリーフォールという絶叫マシーンがあり、地上45メートルから降下する。階段を一歩一歩登ったとき、一段を踏みしめるのが毎時0.8秒だとすれば、このフリーフォールは170倍ほどのスピードということになる。しかし、このマシンは、降りることはできても、昇ることはできない。この州では、折からの経済政策の失敗で、人々は多忙になり家族に背を向けはじめた。町外れの、洪水制御用のトンネルにはホームレスシェルターから放り出された家族の家財道具が、運び込まれる。僕はモールから直接、南西へ向かうハイウエイに1990年代製のトヨタ車を乗り入れる。午後の日差しは雨水をかぶった稲穂の群れを、きらきら反射する。農家が、農道が、農村が、半開きになった助手席の窓から見える景色のなかを飛び去る。

これらの景色はすべて、僕が3歳のころ、乳白色に染まった午後の舗道を母に手をひかれて歩いたときに、見たものだ。母は私鉄線で一つ先の、駅前にあるデパートの洋品店へ向かっていたのだろうか。あるいは、昼食後の散歩だったのかもしれないし、デパート屋上のレストランで、外食に出かける途中だったのかもしれない。しかし、母親が、「体を鍛えるため」という新聞の謳い文句につられて、僕を週3回のスイミングスクールに入れたころから、僕は無口な少年になった。無口な少年はいつも床を這いまわることを好み、注意はモノ(object)に注がれた。そのころ僕はビキニ島核実験のあと雨に混じって降り注ぐ放射性物質のフォールアウトを、微細な注意をはらいつつ、分別するようになった。指先についた放射性物質の粒子ひとつひとつを、注意深くピンセットで取り除き、水で洗い流した。あのころの記憶は、いまでも「僕」という人間の奥底に、薄暗いトンネルのごとく、息をひそめている。車はハイウェイを出て、再び金色の稲穂が揺れる州道を走り始め、僕は窓を開けた。地平線の消失点へ向かい、頭上をゆっくりと南中する太陽と先行・前後しながらアクセルを踏み続ける。このイメージを幾度となく夢のなかで見た。だが、僕は、この終わりなく続くかに見える道路が消え果てるその先に、どんな景色や人々が見えるのか、考えたことは決してなかった。

時は再び、1970年代の、雨上がりの東京郊外へ戻る。その場所は、文学的な意味での「武蔵野」とは少し違っていた。この地域へ、都心から伸びるコミューター鉄道路線は戦後、5番目に開業したが、新興の私鉄線のなかでは利用者がいちばんすくなく、1970年代までは1時間に4本ほどの運行しかなく、通勤客を見込んだ快速電車も朝晩にそれぞれ2、3本ずつ通るにすぎなかった。1980年代、東西冷戦末期のバブル景気に乗り、この地区の高台に瀟洒な住宅地や高級マンションが建てられ、外国人が多く住むことになるなど、誰が想像しただろう。僕の生がその土地に書き込まれていたころは、そこは、まだ空無だった。住宅はすべて建売の看板が架かっていたし、住む人はなかった。道はほとんど砂利道で、蛙や、陽炎や、みみずくが、雨上がりの草地を、湿潤させていた。政治家たちは、この土地に無関心だった。彼らはマルクス=レーニン主義闘争路線の継続がが頭打ちになったことの悔恨を忘れるために、「指導者」のポーズをとったロダンの彫刻を、自らの身体に規律+訓練することで、この国の出自を忘れようとした。「切腹」や『豊穣の海』に関するデッサンは、すべて破壊された。柳田國男にあこがれた僕は毎年、1986年の夏になると、上野駅から電気機関車に引かれた長距離列車に乗って、東北地方へ向かった。だがそこで僕が魅せられたのは、国鉄型最新鋭気動車のまばゆいばかりの赤色だった。そのため、僕は再建法で建設中止になったローカル線を選んでは、縦に横に、車窓から、稲穂が金色の日差しに揺れる田園地帯を眺め、「東北」を発見していていったのだ。

宮沢賢治の「イーハトーヴ」という言葉の由来については、諸説あるらしい。僕は扇風機が淡い風を送る八月の夜、蛍光灯に照らされた畳の部屋で、白いタオルケットにくるまれながら、母が耳元でささやく、カンパネルラが灯篭を流す日に、空に大きな星の隧道が架かっていた情景や、『注文の多い料理店』の小さな鍵穴から猫の目が覗いている表紙の話を、まどろみのなかで聞いた。だが大正時代のロマンチックな雰囲気を考えたとしても、「イーハトーヴ」は首肯しがたい。イトーヨーカドーじゃないんだぜ(笑)と揶揄したくなるくらい。この記憶は、父と母の、週ごとに頻度を増す、毎週日曜日の私鉄線デパートへの外出と、軌を一つにしていた。沿線は、のどかな郊外から、保守派の政治家の大号令のもとで、高学歴、高収入を目指す核家族の殺到をさばききれず、コールセンターの回線が破裂するほど人気の、現代思想の用語で言う「郊外」へと変貌をとげていた。これら、すなわち「新武蔵野」の駅では、プラットフォームで、自動販売機のカルピスを買おうとした会社員が、ふと、電車が『到着する』ことの空無に耐えきれず、投身自殺し、朝の白い真綿のような郊外が血の海になる、という事故が頻発した。首都圏から同心円状に都心へ向かう私鉄各線は、都心に近づくほど倍加する身投げ事故のために、毎駅数分の遅れが累積したが、日本経済の勢いに、水をさすことはなかった。1980年代を通じて、タオルケットにくるまれていた僕は、無垢なまま、凪いだ海を行く船団のなかのとりわけ大きな一艘のいちばん奥の船室で、広い海に浮かんでいたのだ。

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6086 : 俺の言い訳  黒髪 '12/05/09 18:32:46

electric mudな俺の言い訳を聞いてくれ
ゆがんだ空気の中石をけりけり進んできたのさ
俺にとっちゃ御意見無用
沼の中から現れる
命を切り裂き頭を破裂させる
グレートな原子爆弾だぜ
久しぶりにあったあの子も口をあんぐり開けて眺めてた
グレーのスーツに身を包んだ世界の王様
さあ跪け
切り裂きジャックに身を変えて
気に入らねえやつぁ手当たりしだい
石、石、石
Oh I like you baby
In the house of the jail
夢の果てに何があるの
疲れ果てた誇示意外に意味があるの
あなたの腕の中温かい
俺が追いつくまで待ってて
全力でかけていくから

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6058 : 死者へ  森田拓也 '12/04/28 23:41:24 *1

今日も僕の隣では
地上の人類の運命をかけて
神々が双六ゲームをして遊んでいる。
そのことについて、僕は見逃そう。

「隣」という一文字に隠された隣人は
僕には永遠という意味があるから。
0から生まれた人間が
0という位置で処刑される。

なぜ、人は死ぬか?
なぜ、地にまで堕ちた使徒だけが生き残るか?
神々の嬉し泣きが今日も地上を洪水にする。

死体の目に翳された手に僕は問おう。
「おーい、死神よ、他人を巻き添えにするな、
 ひとりで死んでゆけよ。

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6088 : とある秋の日  笹川 '12/05/11 17:02:34

うちのお父さんが居ない。
しばし捜す。柿の木に登って渋柿をかじっていた。歯ぐきから血が滴っている。きっと歯
槽膿漏だ。
そして、冷蔵庫で冷やしていたユンケル黄帝液が空になっていた。
実りの秋だ。

お父さんはおれに向けて柿を投げる。暴力反対。稲穂がコンバインに吸い込まれていく。
紙おむつがキマッているね。おれは柿の木の幹を蹴った。渾身の一撃。クワガタが落ちて
きそうだ。

「おはよう」とお父さんが言った。

「ごくろうさん」とおれは言った。

長閑な田舎の朝。牛が鳴いている。お父さんの顔も涙にまみれていた。辛かったんだね。
もう、安心だよ。
孔雀石のように厳かな目で、おれは微笑する。今日は栗拾いに行こう。
お父さん、ごちそうするからね。


そんなおれの唯一の趣味は盆栽だ。20年物の赤松の鉢を所持し、珍重している。

深まる秋の夕暮れ、盆栽を見詰めながら、「うむ、あー、これに…… マツタケ、生えな
いかな……」と、くちばしった。

ついに、言葉に出てしまった。

おれの長年の夢であった。「町会議員になったわたくしが、盆栽からつみとったマツタケ
を炭火で焼く。うどんに入れよう、そうだ、マツタケうどんだ」

夢は、いつかはかなうもの。それまでは、素うどんで我慢しよう。
でも、天かすくらいならいいかな。うむ、良しとしよう。
盆栽に、マツタケが生えたら、日なたで干しておこう。

おれは甲高い声で、「ぴ〜ひょろろ〜、ぴ〜ひょろろ〜」とヒバリの鳴き真似をした。そ
んなこんなで、また一日は暮れていく。

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6060 : 風習  泉ムジ '12/04/30 03:24:30

 漂う部屋
 底に 横たわり
 行き着く先から曳かれ
 つめたい母の
 息が 透きとおるようになる

 瞼のそとは かぞえ尽くせない
 岸は火事
 カーテンを閉じても
 まだ 結露に濡れた窓の向こうで
 燃える

 +

 幾重にも
 折られ
 重なったしわをさすり
 丹念に おし開く
 若返らせようとして
 いるのか
 不明のまま 手はやめず
 一心にまじない
 めくれば不意に裂傷があり
 とび出した 舌が
 極楽、と
 よだれを吐く
 すでに
 母の目に 満月は移っている

 決められたとおり
 底をなくした舟の
 はらを蹴って 泳ぎ出した
 する筈がない声がしても
 聞き返さなかった

 +

 あけ方 庭へ
 灰ではなく 雪が
 ずっとふり続いている
 ぬれた裸足で 何を書いても
 自分では感じない熱が
 かたちを溶かして
 溺れてしまう
 としても
 ふたたび積もった位置へと
 つま先をのばす
 先から
 泥が垂れる

 +

 母と また亡父と
 血の繋がるものたちが
 寄せあう身を かざす火に
 細い白髪のひと房を
 放る
 かすかな音で
 水気が煙るなかから
 枝わかれを継いで 天に
 上ってゆく無数の腕
 仰いだまま
 遠くなる
 もう声がとどかないところ
 と、誰かがいう
 背中に
 かたい地面がぶつかり
 思わず 瞼を閉じると
 よく知った
 懐かしいものばかりが見えて
 このまま 開けかたを
 忘れてしまいそうだ

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- ealis -