◇ No.321 , '12/05/25 22:25:43 作成

6040 : 海(うみ)に至る  泉ムジ '12/04/20 22:44:07

(女のにおいがする指を口にふくむ
 おぼつかないまま
 手繰りながら書きはじめる)
言葉は目印だ。名前も、墓も。灰に寝かせた線香の煙り。同じ姓が並ぶ小さな墓地にある祖父の兄の特異な名前。
ペットボトルの風車(かざぐるま)が潮風にからから鳴った。
ここでは、
耕人を失った畑(はた)に墓を植えていくのだ。
年の瀬の
昼に
ひとはなく、
(牛の糞と灰のにおい)
農道から林に逸れる。

(ベッドの中で女がこちらを向いた
 顔が触れ合うと気持ちよかった
 性交の間ずっときもちいいきもちいいと
 女は言った私は無言で動いたり止まったりして
 腹の上に射精した)
深く根を張ったまま
樹(き)は折れ、
先は
あやふやに土へかえり、
裂け目は
かわいた黒の空洞で、
何も見えなかった。
(蛇は冬眠しているだろう)
宙吊りの手の先でやみくもに掻きまわしても何も見えなかった。

(女の部屋でシャワーを浴びた
 ときの石鹸のにおいかもしれない)
農道から続く排水溝を飛びおりる。
砂浜は靴が埋もれるほどの骨片(こっぺん)のようだ。貝殻と穴だらけの軽石(かるいし)。色褪せた白が波に押し寄せられ
累積して。
私が子供のころ、
潮溜(しおだま)りから拾ったウニをかち割って食った。
とろけた精巣卵巣は
すすると舌で
海の味がした。
温(ぬく)められ冷やされ、
絶え間なく掻きまぜられた
海の。

(ふたたび口にふくむ
 指は女のにおいと煙草のにおいがまざる
 わかれるときいつも忘れた何か
 かけるべき言葉があった
 が手遅れだ)
小枝と新聞紙の燃え滓(かす)を蹴る。
ラベルが読めない
壜(びん)と、錆と日焼けで茶白まだらの缶は
どこから流れ着いたか?
ふりかえると遠く沖合に漁船が止まっている。祖父ではない。こちらは見えないだろう。
祖先たちへ
緩慢(かんまん)にのばした手を振る。
(宙吊りで
 私が揺れている)

ぷつり、
切れて落ちた。
(あなたとの結婚は考えたことがない
 と女が言った
 ときに
 例えば
 殺してしまうべきだったのではないか?)
煙草を
ひと月吸ってない
代わりに、
おまえたちの高い鼻を
噛みちぎる
ゆるしを得た、
気が遠くなるほどの孤独
で狂った
地軸に。
おい。
覚悟は良いか?

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6057 : ああ、文鳥よ  申師 '12/04/28 21:17:17 *2

私の心は、古老の船乗り。ただ行く当てもなく魂は漂流し、徘徊する。
今日は、何月何日か、私は、この島の監獄に投獄されている。
ただ、飲み、そして、食い、乞食同然のこの私の救いは、あなたの写真をみることだけ。
夜な夜な君は私の睡眠を襲い、夢魔と化すのみ。
ただ、救いは、文鳥の知らせを待つことだけだ。
君にはもう何年も会ってはいない。姿も現してはくれない。
君が姿をあらわすときは、私の悪夢、君の結婚。
何度写真を燃やそうと思ったことか。ただ、君を鴉と呼ぶことは出来ない。
君は、心の女神なのだから。女神ならそっと見守っおくれ。
私は、君の幸福を願っている。
私もいつしかこの島を離れ、君の住む都に行く事が出来ることを楽しみにしているよ。
その時は、あの曲を奏でておくれ。君のお父様はそれをお許しにならないかもしれない。私は、時の流れに身を任せることに不安を感じている。
ああ、文鳥よ、良い便りを。ただ、良い便りを。


前に書いたものに少し修正を加えました。良かったら、読んでみてください。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20120428_460_6057p


6053 : ほたる  山人 '12/04/27 06:14:06

川原に浮かんでいるのは
ほたる
闇の空気を纏い
黒い重みに浮かぶ
森の深遠のそばで
悲しみの傍らで
現実の重みから脱皮して
ほたる  ほたるよ
粘る闇が重い空気と連結して
夜をもてあそぶ
刹那な記憶がよみがえる
脳天へとしぼり出される激情が
はじけて点となって
光となって
それぞれが飛び交う
私の決断と記憶が
断末魔のように飛び交う
それはひとつの魂のようで
流れる時間(とき)は水のように流れ
その上を蛍が徘徊する
さようなら
さようなら
さようなら

ぽかり ぴかり
 ふわり 

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5996 : 非常にあいまいなあの人に関する記述 一   '12/04/07 22:21:33 *1  [URL]

窓からすりおろしたリンゴが、香って
風に流されながら祝ったのは、あの人からの
時間はもう擦り切れてしまいましたよ、って歌う看護婦さん
それは嘘です、っていつまでもすりおろすリンゴが香って。

リンゴの湖底ではしゃぎたつ入学式は、うっすら
ほの赤い子供たちが、ぷくぷく
ぷくぷくこっちに幸せを弾けさせているね、ってうれしく
空色のアーチを見上げながらくぐる仕草、愛おしくって
ありったけの幸せがふりそそいでくれればいいよね、ってくしゃった
笑顔が落ちたら、それは空色の三角形でした。

風にはためきながら泳ぐ空色の背びれを見つめて、もうすぐ
酔っぱらったジンベイザメが子供たちをさらってしまうの、って尖った
はてなマークを浮かべる頭に、やっぱり
擦りつけられた手があったかくってね、ふにゃけた
猫みたいにごろごろごろごろしちゃって、まぶたが重たいってぐずりました。

あの電車かもしれないわね、っていたずらな
耳言葉ですっと鮮明になったあかいリンゴ、うその
超特急は一途な背景でぐんと際立って、ばたばた
ばたばたベッドの中の脚が怒られている時、開いたドアの前で
あかいリンゴをすりおろすのを、細い体が
ゆっくりと夕焼けに溶けていくみたいだね、なぁんて言うから
空色が降り積もりだす時、いつもなんだかせつないのです。

いつしかあの人からの祝祭が、笑って
窓からすりおろしたリンゴは、狂った
ココナツミルクに包みこまれる、って叫ぶ
支離滅裂がそこかしこに散らばり、赤い
窓からすりおろしたリンゴが、香って
祝ったのはいつしかあの人からの。

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6036 : ひとの声  みつとみ '12/04/19 02:00:01

会うことのないひとたちの声
こころの輪郭(かたち)の外がわから
(空腹と眠気とにさいなまれながら
物をたたく乾いた風の音と
建物をきしませる低い空がおおう

ここから離れた場所
見知らぬひとの
(いや生まれる前にどこかであった顔かもしれない
その裾にふれてみる

ひびわれた街に
いく層もの
窓に映るひとたちの輪郭(かたち)
絶えまない車の列に
(これは現在(いま)であろうか、それともずっと過去(まえ)であろうか
寸断されては、また繋がっていく

枯れた枝先に空がささる
そのかたむく並木道に
茶色の手袋が置き忘れられて
ひとの抜け殻がうまれている

会うことのないひとたちの
それぞれの温もりに
そっと指をおいてみる
(その先にある駅の向こうまで

大きな翼の影に日が落ちて
(そむかれる、その白い顔に両の手をそえる

わたしは胸に手を置きながら
気づかないふりをして
会うことのないひとたちの声をまとう

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6047 : 白雨  紅月 '12/04/25 15:56:09



(dear L,)

 
西窓から
こがね色の蜂蜜があふれ
あけわたされた廊下を
遊び風が濯ぐ
木目の数だけ鈍くきしむ床に
罅割れた指を這わせて
(鳴いている?)
やまない久遠の
練乳のような午睡のうえ


文法的には
あやまちなどない
細身のあなたが横たわる
あわく宿る偽りの水のうえに
おおよそ嘘という語意の
あえかな名前が呼ばれ
遺品のために列をつくる亡霊たちの
さいごのひとりに加わる


寡黙な西日に浸された
青く茂りつづける畳の
ささくれを摘む
軟らかな風の抜けていくのに
ひとつも萎みはしない午後に
いつしか緩みきっていた廊下を
ひたひたと伝う蜂蜜
(鳴いている、)
かたくなに硬い
いやはての骨すらつらぬいてゆく
甘くながく滴る午睡の糸を
指でもてあまして
 
 

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20120425_387_6047p


6033 : 失われた、母の、  New order '12/04/18 15:40:32

ここは第三層の、
母の平原、
そして、父の焼かれたままの、
湿地帯の中で、
蠢いているのは、
かわいそうだった、
私たちの残滓、
と呼ばれたままの、
砂浜に打ち付けるような、
浅い幸福、

父と母の、
結び目に、
赤く伸ばされた、
目の中で、
翻ったままの、
娘という、
私たちが、立ち現れて、
あらためて、
こんにちわ

湿地帯が、禁止された、
言葉なら、それを、
優しく、描写すればいい?

留まった、水の中に、
手を差し入れるように、
泥の中で、多くの、
鳥達が、たち現れては、
飛び去っていくような、
もっと具体的に?
19世紀の、血みどろの、
戦争の中で、
取り囲まれた、地図上で、
滑り続ける、指の、
感覚だけが、
海を広げていくように、

「歴史は癒されることを、待っているのよ」
「ずっと遠い未来から、ずっと近い過去まで、
 あらゆるすべての、罪と祝福が書き込まれては
 投げ捨てられていった、記述の、間に、
 私たちは繋ぎとめられたまま」
「死者は僕らの父でなかった、母でもなかった。僕達の子供でも娘でも息子でもなかった」
「生者も同じように、私たちも同じよう」
「この都市は、死者たちの記憶で作られている。どこもかしこも、すで死んだ者達か、
 今、死に行くものの思想や空想で作られているのだから」
「死者が見た夢、または死者が見続けている夢に住む私達も、死者達の夢なのかもしれないわね」
「では、生者が見る夢は?」
「生者っていうのはなし!生きる者にしましょう」
「そこに意味があるとは思えない」
「意味があるとは思えないことがすでに、私たちが生きていることへの、乾いた欲求」
「歴史を癒すことで、私たちが癒される?」
「屋根に登る時に、はしごが必要なように、そして登った後、誰かに手を振っている間に、
 梯子は取り外されて、もう降りられないように」

土曜日に見る夢は、日曜日のための夢ではなく、
すでに過ぎ去った日々のために見る夢でありますように、
そう願うために、手の中で、皺が蠢いて、
体中を這い回る、
体を構成する、すべての、
原子が、私たちを通して、
衝突するような、席を、
石段を、

陽の当たる部屋には、枯れていく、植物達が、
眠れるように、台所に、置かれた、
花瓶には、茶色の、水が入っていて、
その中に手を突っ込む、
のは、私ではなく、昨夜、帰ってきた、
戦いを終えた人達、

「じゃ、凍えるような一言を
原発事故の比喩は、すべて死んでいる」
「お前や、私に関する、比喩も、すべて死んでいる」
「突然、何を言っているの」
「突然何を言っているの、と、言っている、貴方もすでに、
 死んでいる」
「オウムもフクシマも死んでいる」
「カタカナになったものは皆しんでるのかもね」
「記憶にとどめておこうとするればすルほど、忘れ去れて行く」
「バカ、も死んでいるの?」
「バカって言葉は、死んでいる奴に使われる言葉なのさ!」

動物を苦しめる父の、姿の、
記憶が、母の、苦しめた父の、
姿の、間で、私の、
始めての出産を、邪魔するように、
「貴方は知っているかしら?今は失われたふるい風習を」
「どんなの?」
「新生児が生まれる、くしゃみをするたびにその数だけ糸を結んでいった風習を。これは明治の頃まで行われていたのよ」
「なんのために?」
「タマ結いのために。私たちはタマ結いをする母の手つきをもう失ってしまったのよ。それは失われてしまった母。タマを結びとめ、魂が出て行ってしまう
 ことを防ぐために、母親が、結ぶ手つき。魂を繋ぎとめる手は、もう失われてしまったのよ。そして、魂を呼び止める手を持った母も失われた」
「なるほど。」
「そして、この死者の記憶でできた都市で、私たちは踊り続けるってわけ。そうしないと、私たちの魂は出て行ってしまう。」
「鎮魂祭だね。」
「そうね、私たちが、踊り続ける。ここが、世界の中心になるように。」
「とはいえ、この会話はここまでよ。私たちをしゃべらせている作者が考えている小説のネタの一部でもあるからね。秘密ってわけよ。」
「作者のトランス状態も少しずつ落ち着いてきたみたいね」
「そうね。こうやって会話させている私たちについては一切描かないのだけど。」
「描く必要性がないと思っているんじゃないの。」
「どうなのかしらね。」

私たちは、生き続けて、
あらゆるものに転移して、

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6032 : 水晶  yuko '12/04/18 06:43:47  [Mail]

さて、正面には
丸い机
中央の
銀皿にもられた
艶やかな葡萄と
止まったままの砂時計
どこからか
聞こえてくる通奏低音が
生きものたちの
瞼に影を落として、

りりり、と
電話がなって
振り返る
ここは人形の家で
(影のない、)
電話線の向こう側から
話しかけてくる誰か?(知らない)
誰もいない
食卓で音をたてる金属
うす暗い、
玄関から
蛇が入ってくる、
(床が落ちる、)


「父親と母親は双子で、
「地球儀を模る番い
「虹色の鱗粉を撒き散らす毒蛾
「産卵する、
「定点観測隊
「なにひとつ微分なんてしない、


歌う
唇を連れ去ったのは
ある
ひとりの幽霊
赤い
夕暮れを啜って
死んだ青魚、
テーブルクロスを引き抜いて、
君は
世界の
球形をけして
許さないといって
、消えた

屹立する電波塔
都市の抜け殻を
支える
平面
(ほどけて、)
しゅるしゅると
伸びていく尾を
呑み込む!


「生まれたときの記憶がない、
「転移した眼は見えない
「吃音
「色相環を指して、
「水面に飛び込んでいく
「離陸した心臓


窓際に
垂直に射しこむ影
泡立つ檸檬の午睡
視界の外れ
円卓が
ふくらんで
くらく、
同調していく旋律
(揺らいだ、)
休符
を求めては
絡まり合う足、
(電波!)

手を伸ばし
皮ごと
口に放り込んだ葡萄が
ぷちん
とはじけて、
食卓に並んだ
人形たちはみな
ぽかんと口を開けている
(逃げ出した、
(色とりどりの、
(たましい。
ひかりを追いかけて
伸びる蔦が
(帰って、
いつしか脊髄まで覆っていく
(おいで!

目の端を通りすぎる
彗星を追いかけて
気が
付けば葡萄畑の真ん中で
(燃えてる?
その
ひと粒ひと粒が
浮遊する
(ゆうれい、)
君のなみだで、
見えない、
なにもかもが
見えない
眼球に舌を這わせ
(しょっぱい、)
広がり続ける
きみの暗闇を舐めとって、
(だれ?)
(ぼくは、)
球体のなかに閉じ込められた。
(ゆうれい、)
なにもない!
朝、
(ぼくたちは、)
世界を
つつむやわらかな

どこにもたどりつかない光
(さよなら、)

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- ealis -