わたしたちははしるあのひとは
死んだので皆もとにもどる
(かたあしを
踏みそのあいだにかたあしを
曲げ踊っていましたいつまでも
踊っていなければ)
わたしとわたし
とでわたしたち
もうひとりはしまっておいた
けれどもとうに失くした
あらされた家の
墓土を踏みかため
階段のしたのとおい
海
(枯れた木の
まわりをぐるぐる
と眩暈もせずいつまでも
まわっていなければ)
しめりけをもつ
草千里をはしりぬけ
わたしたちはもう
生きなくてもいい
(階段の
したで眠っていた誰か
を誰も起こさなかった
あのひとの死を知らしめよ)
最新情報
軽谷佑子 - 2006年分
選出作品 (投稿日時順 / 全8作)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
green
佇立
陽がさして
暮れて生活するひとの
せなかは満足して
いる
夜のとばりが
おりてうつくしい夢ばかり
みる遠景はどれもおなじ
かたち
火はあつく
わたしたちは鎮火する
小春日和のために最も
古い方法をつかう
鎮めるわたしたちは燃えながら
夜のとばりが
おりて内がわは明るく
外がわだけ暗く
なるこわいものはこない
遠景はどこまでもおなじ
ゆるされなかった
小春日和に近づいていく
境界をおかす
花風
ともなわれ手を引かれて花畑
を転々としたわたしはこちらがわ
でありむこうがわ
手をしばり
つなぎあって死んでいく互いを
さしてばたばたととりが死がいをついばみに来る
いっせいに開いた
中心に立ちかこまれる顔は
ののしりのかたちに裂けて
後列から引かれいちまい
いちまいが回転をもつわたしをするどく
のける花風
手をしばり
つなぎあって死んでいくからだは水浴び
のあとのかたちとりが死がいをついばみに来る
静止
野を更地に剥き
木をたおし眠っている
こどもはたおす木の
もと
知らぬことをみずにつみあげる
鳥がわずらわしくひどく気にさわる
またたきのうちに
うばわれる日踏み
つぶすはなふさ
縛りをはずし
切り刻みわたしはよく
うたう知りながら吹く
風
野を更地に剥き
身をもどせ眠っている
こどもは木の
もと
土底浜で
わたしはきちんと
めをとじてよこたわっている
かおにはぬのがかけられ
うえをひかりがすぎていく
うみはしずかにひき入れ
ではいりをじゆうにしはいいろにしろく
あおくさやく
かつてわたしをはずかしめたひとの
手が近づいてきてすこしこわい
土底浜のくいはゆうがたを苦しく呼吸する
うみはしずかにひき入れ
とりは一日中鳴いて
まだ鳴き足らない
ほんとうはなにも
こわくはなく手はすこしも触れずに
わたしのうえをすべる
帰宅すると
寒さがなくなっていて
知らすべき終わりもすでにおわっていてほんとうに
なにもこわくないとおもいながらほのおがいくつもまわる
ほしをみている
別離
長いあいだ見えなかった
逆さまに走る
ばらばらに散る
波頭に跳ねてとんで
いくたびのうつくしい夢
月日に身を投げて
遠くまで見通せる
場所に立っていつまでも見ている
髪を伸ばすことに躊躇しない
人のいる寝床を欲しがる
すこし温かくすこし熱い
だんだん崩れていく
おおぜいの水辺に立ち
腕はもうとうに
自由がきかない
挽歌
人が死んだらしい
日めくりの薄紙には
書かれなかった
挽歌、と書こうとして
漢字を知らないことに気づく
あらゆる制約のなかで
途方にくれる
車は牽かず
見送りもしない
死んだあとの暮らしは
冬のさなか
ただつめたい風の吹く
捨て野
王は野原の王
歩き続けたので
野原も際限なく続いた
刈りとった束を
引きずって歩く
あんまり引きずるので ああ
とても重い音がする
麦わらのようにギシギシ、
切りわらのようにギシギシ、
むすめたちは旅の中
先頭は動物の群れ
しんがりは生きていない
たくさんのものたち
野原はいちめんの実り
上着にも下着にも
べっとりと残滓がつく
噛みくだいても
麦わらのようにギシギシ、
腕が何本も
からだから生えてくる
切りわらのようにギシギシ、
噛みくだいても
王は野原の王
いつも誰か一緒にいて
嬉しかった
嬉しかった
川をまたぎ越す
動物の背にはみな
むすめたちが乗って
実りが道を汚す
しんがりのまた後について
麦わらのようにギシギシ、
触らないまま
切りわらのようにギシギシ、