うなだれた手をのがれて
川にほどかれてゆく薔薇の花束
水面に散りしかれた一度きりの庭が
つめたく流れてゆく
よろこび、純潔、そして愛の色づき
身体の熱が高鳴るほどに
すこしずつ、
すこしずつその美しい想いは夢と流れてゆく
行き先をしらない旅びとの夜にも似て
そして、降りはじめた
雨の光に灯る岸辺に
時と風に傷めたその羽ばたきを
うつろに束ねる一羽の鳥
その瞳の水面に
遠く流れてゆく薔薇は
薔薇はしずかに燃えている
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丘 光平 - 2006年分
選出作品 (投稿日時順 / 全5作)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
流れる庭
ひととき
生まれたばかりの花の額にも
その枯れてゆくしるしが淡く灯っている、そのように
わたしたちは始まったのだろう
ときおりわたしたちは
語り合うことばの雪片におののき、そのために
重なり合うまなざしに
まだ熱のあることを悟るのだ
そして街を、野道を、あるいは道なき道を歩みつづけて
わたしたちはわたしたちに触れる、その静けさ
その静けさのなかに
かつて思い描いていた幼いあこがれや
ただ美しさを装う嘆きの
本当の姿を垣間見る――
たとえば、わたしたちのそばで物言わぬ一本の枯れ木
その澄み切った沈黙にこそ
彼のすべての声が
高らかに暗示されている、その慎み
そして
立ちつづけてきた彼は
じっとわたしたちに耳を澄ませて
わたしたちのひとときを
他に取り替えようの利かないこのひとときを
せめて祝福してくれるのだ
よろこび
きおくをしめらせた
しずかなぶどう酒のように
あかるく枯れてゆく このひととき
耳をすましています
うす化粧の
夜あけというやわらかな庭に
すずしく散りしかれた小鳥たちのうたに
耳をすましています、
わたしのなかで またすこし
あなたが大きくなってゆきます
月光
秋のおわりを告げる夜空へ
あかるくかざした手のひら、
枯れ葉のくきで
きつく結わえた誓いを
私らは忘れてしまうだろう、
しずかな黒髪に
降りそめる雪のように
ああ、私らは
なにを持って来たのだろう、
人生という
ほの暗い冬へ―
愛をつましく灯しては
散りいそぐ夢のひとひら、
枯れ木の背なで
こまかにふるえる歌ごえを
私らは忘れてしまうだろう、
月夜の黒髪に
降りつもる光のように
そして私らは
ひとり、
またひとり
なにを持って出て行くのだろう、
人生という
冬のひとときから―
あなたがいる
そしてすべての昨日が
無数の羽のように降り続けている
ますます積み重なり
高まりゆく闇の真白へ
時があなたを投げ放つ―
記憶の水底に散る花よ
その額に灯る孤独のように
ひとつの火種がかすかな響きを立て
やがて
燃えうつる朝の波間で
しずかに始まるあなたがいる