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一条 - 2006年分

選出作品 (投稿日時順 / 全9作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


nagaitegami

  一条

長い手紙を書いている途中に私は眠ってしまった。男は長い手紙を読もうとした。長い手紙はこの国の言語で書かれていた。長い手紙を読了するのには想像以上の体力と知力が必要であった。残念ながら男にはそのような体力と知力はなく長い手紙を読了することは出来なかった。私はそれでも長い手紙を書いた。書いている途中に眠ってしまった。テーブルの上には書きかけの長い手紙があった。男は首を傾げ書きかけの長い手紙を読んだ。長い手紙はこの国の言語で書かれてはいるが後半部分は空白と不可解な改行により読み進めるのには相当の我慢が必要だった。私は長い手紙を書いている途中に眠り男はすでに読み始めていた。男はひとかたまりの空白に出会うと息を飲み不可解な改行には奇声を発した。しかし長い手紙が書きかけであることに男は最後まで気付かなかった。あるいは男はこの長い手紙を読了してしまったのかもしれない。長い手紙を書いている私は眠り男には少しばかりの休息が必要であった。男は長い手紙を読み始め私は長い手紙を書き始めた。私は男の様子をうかがいながら時折筆を休めることにした。長い手紙は書きかけであるが果たして私以外の誰にとってその事実に意味があるのだろう。男は首を傾げ私が意図的に作成した巨大な空白は男を飲み込んだ。不可解な改行は繰り返され私は眠ってしまった。テーブルは倒れ同じように男は倒れた。長い手紙を読了するのには想像以上の体力が必要であったのだ。男は長い手紙を読み始めたようだ。私は長い手紙を書き始めた。いつものように私は眠るのだろう。私のそばでは知らない男が倒れている。男はきっと私の長い手紙を読もうとしたに違いない。私は長い手紙を書いている。知らない男が倒れている。テーブルは倒れ同じように男は倒れた。繰り返される不可解な改行は長い手紙を飲み込み果たして空白には意味があるのかもしれないが私は頭痛、奇声を発した男はテーブルと同じように倒れ仰向け、長い手紙のほとんどが空白であることを知り、この国の言語か、意味はあるのかもしれないが、長い手紙は、不可解な改行と同じように私は男は私は、読んだに違いない後半部分を、きっと眠るだろう、不可解な改行は飲み込み、テーブルは同じように倒れている。私は長い手紙を書いている途中に眠ってしまった。今では誰も長い手紙を書きたがらない。誰も書きたがらない長い手紙は私を書き始めた。仰向けのまま男の奇声を発した。さて、私を今から長い手紙は書かなければいけない。イッタイ長い手紙が誰なんて読むというのだ。書いてはいけない。同じように私を仰向け手紙を書いている私を眺めアイツハおかしくなったテーブル倒し改行、奇声と頭痛、ソレデハkochirakara連絡サシアゲマス


I can't speak fucking Japanese.

  一条

にっぽん企業が中国に作った製造工場の社員食堂でぼくは働くことになった。成田に向かう電車の中、真っ白な肌の青年がひとりでしゃべっている(だれかに聞いた話だが、ああいう連中はどうやら神サマとしゃべっているらしい)。ひこうきはぐんぐん加速して、にっぽんを飛び立った。日本料理のレシピを乱雑に書き込んだマイノートブックをめくりながら、ぼくは、にっぽんのことを考えた。だけども客室乗務員はこくせき不明で、仕方なく機長との面会が可能かどうかをかのじょに訊ねてみた。「機長はあいにく操縦中でして」。機長はあいにく操縦中で、客室乗務員のこくせきが不明である場合においても、ぼくたちを乗せたひこうきは空を飛ぶというのに。やがて、上映されている映画が終わると同時に、乗客は席を立ち踊り始めた。かれらがにっぽんじんであるかどうかはわからないが、かれらはひどく滑稽に踊り始めた。ああいう光景にも、神サマが介在しているのだろうか。いつまで経っても、ひこうきは空を飛び続けるような気がした。かれらの踊りが最高潮に達すると、こくせき不明の客室乗務員は「キチョ」「キチョ」とにっぽんごのようなものを連呼し、するとキチョのようなものがパーンと破裂し、その断続的な破裂音によって、かれらの踊りはいよいよ最高潮さえ突破した。そして、かれらの踊りに合わせてぼくの身体までもが勝手に動き始めた。中国に到着するまでぼくたちは踊り続けるのかもしれない、と誰もが思ったに違いない。相変わらず、キチョのようなものは破裂し、こくせき不明のかのじょたちは、にっぽんごのようなものを連呼している。踊りに熱狂しすぎたあまり、これはある種の乱交パーティであると勘違いした男と女たちが、互いの衣服を剥ぎ取りあい絡まり合っている。「これはある種の乱交パーティなんですかね」と白髪の老人が隣の席の女に尋ね、「これはある種の乱交パーティですわよ」と女は答えた。それにしても中国というのはひどく遠い国のように思われる。それは、ぼくたちが未だ踊りを止めず、そこから派生した乱交パーティへの参加者が徐々に増加していることと無関係ではない。そして、未だ機長が姿を見せず、かのじょたちのにっぽんごが反復され、このひこうきが操縦されているということと無関係ではない。ぼくたちは踊り続けた。踊りに疲れ眠りに落ちる者もいたが、ほとんどの人間は踊り続けた。はっきりとはしないのだが、ぼくたちを乗せたひこうきは、中国には辿り着けなかった。とにかく最後に機長が現れ、その理由を小声で説明し、興奮した乗客のほとんどがかれに罵声を浴びせ、こくせき不明の客室乗務員が泡をふき、にっぽんごのような罵声が永遠に終わらない、そんな光景だけを、ぼくは記憶している。


チャンス

  一条

あたしの学校に
チャンスというあだ名の男子がいたんだけど、
すっかり忘れてしまった
チャンスは男子からも女子からも
ついでに校長先生を含む学校中の全ての先生から
チャンスって呼ばれてたんだけど
それは蔑称で
だけどもチャンスってあだ名は
なんて素敵なんだろうって
今さら、あたしは思う

あたしの学校にはぺちゃんこのカバンで
必ず遅刻してくる子が何人もいて
オキシドールで染めた金色の髪が
なびいてやがんの
でもさ、あのぺちゃんこのカバンの中には
弁当箱が入る隙間もなくて
あたしたちは、
昼休みになると消えていなくなるあいつらの後をつけて遊んだ

チャンスは、裸にされて
廊下を逃げ惑い、
大事なとこの毛を燃やされて

本当にぺちゃんこなのは、カバンじゃなかった
もう、あたしたち全員ぺちゃんこだった
先生が忘れたのは

夏休みは、とても長くて
プールで溺れたら
助けてくれるのは誰かしら

あたしたちは、逃げ惑い
大事なとこの毛を燃やして

もう、あたしはぺちゃんこで
チャンスもぺちゃんこで
先生も校長先生もみんなぺちゃんこじゃんか

カバンの中には何が入っていますか
先生、カバンの中に何を入れたらいいですか
先生、カバンの

とてもとても長い夏休みがやっと終わって
これからだって
きっと
あたしたちはぺちゃんこで

あたしの学校に
チャンスというあだ名の男子がいたんだけど
すっかり忘れてしまった
助けてくれるのは誰かしら
チャンスは裸にされて
逃げ惑い
あたしはいつもぺちゃんこで
カバンの中には隙間がない
あたしたちのカバンの中に
あたしたちは
何を入れたらいいですか


サーカス

  一条


誰もが、いつかは、いなくなるのよ、
という言葉を残して
妻は蒸発した、わたしは、いつも仕事帰りに
移動遊園地に立ち寄り
サーカス小屋の裏で煙草をふかすピエロを見た、
冷蔵庫には大量のキムコが残され
妻がベランダに干したままのわたしたちの洗濯物が
風に揺らされている、


ピエロは煙草の火を象の尻でひねり消し
わたしたちのにおいはキムコが消臭する、
明日になると、移動遊園地は隣の街へ移動するのだ
と、わたしはキム子に言った
あなたも隣の街へ行けばいいのよ、とキム子は
冷蔵庫から冷えたビールの缶を取り出し
わたしの目の前に置いた、


  そんなに簡単に隣の街へ行けるのなら、とっくに行ってるさ


ピエ朗がパジャマ姿で居間に現れ
冷蔵庫を開ける、
翌年に受験を控えたピエ朗は最近、ますます無口になった、
未成年にも関わらずピエ朗は煙草をふかす
キム子が、わたしの顔をちらと見やるが
わたしは、ピエ朗を叱ることは出来ない
また停学になっちゃうわよ、
洗濯物が風に揺れ
うるさい、とピエ朗は部屋に戻った


サーカス小屋では陽気な団長が
いつものようにこどもたちを虐待している、
わたしたちの教育が間違っていたのね
わたしはビールの缶をキム
子に投げつけた
こどもたちは怯えている


  ぼくたちは、明日になると、隣の街へ連れて行かれるんだよ
  隣の街は、どんなところなんだろう
  この街より、もっと恐ろしい街に違いないよ
  だって、この街は、この前の街よりもっと恐ろしかったから
 

それがわたしたちの最後の夜だった
わたしは、仕事の帰りに移動遊園地に立ち寄った
団長は、幼いピエロを虐待し
ピエロは、助けを求めるようにわたしを見ている
このわたしを見ている

 
  もう誰もいないから、怯える必要はないんだよ


わたしたちは、もう、隣の街にいるんだ
そして、いつかまた、わたしたちは、いつものように
隣の街に行く


先生の道具

  一条

病院のベッドで死んだぼくの匂いを消す風に揺れるカーテンが原因不明の失踪を繰り返したにも関わらず病院側に落度はなくただ消されてしまったぼくの匂いを其処彼処に残しカーテンの行方は未だ判らないのだが面会謝絶という状態は続行しぼくを頑なに謝絶する肉親は花瓶を何度も落とし花を毎日新しいのに入れ替えそのような比較的軽度な失策を咎める医師を駆逐できなかったぼくと同じ匂いを持っているのは肉親ではなく担当医師かあるいは土曜日の深夜に隣室に運ばれた救急患者を治療するのが医師ではなくぼくでつまり全ての患者たちの消されてしまった匂いはこの病院という場所では永遠に誰かの脳に移植され保存され続けるのだがぼくは堪らず気分の不調を訴えつまり看護婦のユリコのへたくそな点滴が原因でカーテンは不明したのか風が揺れ花瓶が砕けた音はナースコールと混同され慌てて駆けつけたユリコは誰もいないぼくさえいない病室で点滴を繰り返し打ってみるが点滴を失敗したのはユリコではなくだってわたしたちは誰にも逆らえないのよと面会を謝絶しているのがぼくであるのだろうか花瓶の水を入れ替えてくれているのは本当は君だったんだねところでぼくの命はいつまで持つんだいこんなくだらないことを君に訊いても仕方がないんだけどさとぼくとユリコは学校の教室で病院ごっこをしている最中に先生に見つかってしまい先生はすっかり医師みたいな口ぶりでメスメスメスと連呼しユリコは言われるままにぼくは寝転がって寝転がりながらきっと全国の学校の教室では同じような儀式が行われ先生が出来損ないの生徒を無理やり治療しているんだろうなと想像し頭がくらくらしているきっとユリコは学校を卒業したら看護婦になるんだろうなと想像し頭がくらくらしている先生はぼくが死んでしまったらユリコと付き合えばいいのにと想像し頭がくらくらしている頭がくらくらしている頭がくらくらしている病室の空気は薄く窓際の花の名前を想像し頭がくらくらしているユリコはもう見舞いには来ないと思うと頭がくらくらしているぼくは担当医師を呼んで面会謝絶の続行を命じこれで誰もぼくの病室には入れない風はカーテンさえ揺らさない花瓶が落ちても音のしない世界にひとりぼっちだと想像し頭がくらくらしているやがてぼくに対する緊急手術はそそくさと行われ失敗し日曜日の朝に妻が駆けつけた時にはぼくたちはすでに死んでいたようだ


メアリー、メアリー、しっかりつかまって

  一条



ちょうど南の角を曲がって適当にうろついていると、何十周年だかを迎えた
美術館をかすめた。入り口脇に並んだ屋台の主人は、ひどく退屈そうだ。ず
っと西に戻ると通り沿いのクラブに偶然出くわし、店の中には入らず、そこ
での行列と服装チェックの様子をしばらく見物することにした。供述による
と、この時すでにぼくは殺されていたようだ。行列の中間では、若者同士の
小競り合いが始まり、それを仲裁するために低賃金で雇われたガードマンが
駆けつけた。やがて、低賃金で雇われたガードマン同士が小競り合った。彼
らに不動産を売りつける奴が後を絶たない理由が、これだ。入店拒否された
連中は、そのまま南下し、この街を流れる一番大きな川に架かる橋に集合し、
みな欄干に整列し、右から順に飛び降り始めた。ぽしゃんぽしゃんと続けざ
まに人間が吸い込まれる光景を眺めながら、誰が誰を愛しているかなんて今
は知りたくもないと思った。ましてや、この世の中には、おぼえることも出
来ないことがたくさんあるのだ。供述によると、このあと、吸い込まれるよ
うにぼくも飛び降りた。太陽はすっかりと落ち、ねずみ花火がシュルルルル
と夜の空を散らばり始めた。ちょうど、手を伸ばせば届く距離に、ひとつの
ねずみ花火が旋回していた。そいつは、一番シュールなねずみ花火だった。
一番シュールなねずみ花火がシュルルルルと旋回し、火の粉を散らしていた。
そして、そのまま垂直に上昇し、夜の空に吸い込まれてしまった。供述によ
ると、この時すでにぼくたちは、巨大なサークルを形成していた。それは取
り返しもつかないくらい巨大で、誰にも責任が負えないようなものだった。
サークルの中心にいる人物は、無垢に煙草をふかしながら、ただ南の方向を
狂いなく指差していた。しばらくすると、指の先っぽが二つに割れてしまっ
た。彼は退散し、彼の役割を他の人間が引き継ぐこともなかった。そして、
このまま朝までまっすぐ過ぎてしまった。目覚めたばかりの子どもたちが、
眩しい日差しがふりそそぐ街に現れ、ちょうど南の角を曲がって適当にうろ
ついている。供述によると、誰が誰を愛しているかなんて誰にもわからなか
った。ましてや、この世の中には、おぼえていないことがたくさんあるのだ。


バスケット・ダイアリー

  一条

夜が明けると、犬が放り込まれた。
顔馴染みのじいさんとばあさんが3人くらいいたが、結局どうしようもなかった。
女はレジ打ちの仕事をやっとこさみつけ、今日から、レジを打っている。
女がレジを打つ仕草というのは、なかなか魅力的だ。
男だったら果たしてどうだろうか、と男は説明している、
その傍では、何も起こりえない。

そしてどこへ行くのにも、
だいたい徒歩15分くらいだということに気付いてしまった時、
マンションのチラシなんかに掲載されている「徒歩10分以内」とかいう情報は
つまり、ほとんど意味がないということを知るべきだった。
実際計測してみると、徒歩12分を過ぎたあたりから、
だいたい3分後には目的地に到着してしまう。
だから男は、仲間には何も話さないことにした。

それから、ずいぶんと前に放り込まれた犬の何匹かが吼え始め、
それを駆除するために業者が駆けつけた。通報したのは、
犬とは利害関係を持たないマンションの住人だった。
そして右側のエレベーターが故障した。それは偶然だったが、その時すでに
左側のエレベーターは故障していた。ポストに投函されたマンションのチラシは
今日も新しい情報を提供しなかった。ずいぶんとひどい話だ。

犬は殺されないでいた。最近は殺すより殺さない方が面白いんです、
と業者の男。ついでにエレベータを直してくれませんか、と
犬とは利害関係を持たないマンションの住人が哀願した。
夜が明ける前に修理しておきます、と言って、男はいなくなった。
その傍で説明している男が、もう何年も仕事を探し続けているがみつからない。
商品の価値が値札に書いていると思っているタイプの男だから
仕方がないのかもしれない。今日も一日何も起こらなかった。

ポストに投函されたバイト募集のチラシを見て
もう何十年も働いてはいないけどレジ打ちくらいなら、
と女は軽い気分で応募した。面接で渡されたアンケート用紙のアピール欄には
ああ、すごく楽しいはずよ、レジを打って、打って、打って!
と書いてみた。夜が明ける前、目をこすりながら、
女は今度こそ採用されるかもしれないと思った。

もう何十年も男は説明している。いつ殺されても平気のはずだった。
しかし、最近は殺すより殺さない方が面白い。
レジを打つ女は、次から次へと新しくなったが、
だいたい苦情なんてものは年に数回程度しかないのだ。
マンションのポストには新しいチラシが投函されつづけた。
迷子の犬を探しています、
それは飼い主にとってのみ切実なものだった。

新しいマンションがどしどしと建設中である。
それは、ほとんどが徒歩10分以内の距離に集合していた。
男には、もう、そういうことのすべてに説明が必要だとは思えなかった。
しかし、世の中には、説明を必要とする人たちが
一定の確率でいることも既に知っていた。
今日はレジ打ちの女が欠勤だ。
きっと女は戻ってこないだろう。

つまり、こういうことだ。
ほとんどのことは、値札に書かれている。心配するな。


helpless

  一条



あたし、淀川大橋のど真ん中で
helplessって3回叫んでから
ヘルス嬢になってん

お店で、イチ子という名前もらって
みんなにイチ子ちゃんと呼ばれて
おまえ、いつまでも新人という設定って
店長に言われてん

新人のイチ子です、って言うてから
おしぼりでお客さんをきれいにしてあげて
おっぱいもんでいいよって
言うのが、あたしの仕事

あたしを指名してくれるお客さんもおって
うれしくて
サービスしすぎて
店長におなかどつかれるねん

この前、お客さんに
おまえ、十三ミュージックの踊り子さんやらへんかって
誘われたけど
あたしのこと求めてくれるのは
えげつない世界の人ばっかりやね

しんどくなって、あたし、田舎に帰りたくなるときあるけど
妹もよそで頑張ってるよって
かーさんが電話で言うてたから
あたしも頑張る

新人のイチ子です
おっぱいもんでください

真夏の淀川は、犬がしょっちゅう流れてんねんけど
あたし、犬もよう助けん女やもんなあ

あたしのおっぱいなら 好きなだけもんでいいよ


わたしは今日迎えます

  一条

裸木にからまった一万匹の赤ン坊のおくびが無名の荒れ野を
占拠する 一滴の唾も分泌しないほどに空は乾いてしまった
黄色い液を全部吐いた道の交差で美しい鳩の首がひとつひと
つ折れ曲がるのをわたしはずっと数えている おまえは世界
に突っ込むんだ 周波数のひずみには いよいよ明かりが灯
され わたしのなりたかったわたしが今日わたしの前で悄然
と立ち尽くしている



きれいに飛んでいた鳩をぐるんと巻き込むように動かなくな
った空の渦動の下では なにもかもが思い通りにはならない
内臓が破裂した建物があった ちょうどおまえの肘掛がわた
しのデリケエトな後頭部位を叩き 完全に折れ曲がった鳩の
首時計が遠回りする決して鳴り止まないサウンド・トラック
は不気味な吃音カシオの電気ビート 爆弾の内部へおまえは
向かえ



    母 は こ れ か ら 歌 い ま す
    時 計 は 狂 い ま す
    わ た し は 美しい 精 神 異 常 で す
    お ま え の な り た か っ た お ま え なんて 嘘っぱち
 
 でいた鳩はぐるんと空を巻き込んで動かなくなった私はど
うやら何もかもがうまくはいかないので このあまりにもお
かしな器官を建物の肘掛に置き忘れたわたしのデリケエトな
鳩の首のとても美しい放物線は遠回りするサウンド・トラッ
ク不気味な吃でいた鳩はわたしの向こう側はいつも無効でし
た向こう側にはいつも無効でしたいつも無効でしたいつもわ
たしは無効でした

文学極道

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