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浅井康浩 - 2005年分

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


No Title

  浅井康浩

いまゆっくりと、散乱する光が微粒子の浮遊している器官を通り抜けるのを、眠りはじ
めた触覚をとおしてからだのどこかに感じながら、わたしはふっくらと水を包み込みは
じめていた。すると、透明な上層鱗によって花蜜の内部へと沈められた幾重もの無色の
光線たちは 澄みきった一瞬のみだらさに色付いて、紫、青や黄色へと幾筋かの束へと
結ばれることで、光としてみずからを散乱し、その向こうにある黒色鱗粉へと吸収され
てゆくのだった。この反復を繰り返し、色彩をなくした透明な光線の幾筋かをからまり
あわせながらわたしは網状の構造をつくっていった


蝶の翅に張り巡らされた器官としての気管支になった気分ったら、ないよね
こうしてとめどない充溢によって輪郭をもつことのない寒天質、その内部に閉じ込めら
れたBlue Lineを見ていると きみのなかで分泌されている羊水が、なによりも青くそ
して甘い蜜だとおもいこんでいたぼくの翅脈が透けはじめてきて、水溶性のひかりへと
なってゆけそうな気がしていた


Vivi、球根を踏みながら きみは いたずらに歪曲を拒みはじめた あの、交差路の
死体を覚えてはいないだろう おとぎ話にも似た いつでも「そこ」へと消え去る
ことのできる被膜が いつだって きみの語り口を心細さのうちに約束していたの
だから きみは 服飾というもののもつ色彩や その手ざわりの細部から 起こっ
た出来事の背景や そのすべてを読みとろうとするだけでよかった いまでも 
きみはあの物語を話したくはないのだろう 互いにわけあたえてきた、そんな甘い
芳香のもつひめやかさを軸として 何ひとつ痕跡を洩らさないまま 経験したこと
のない過去の中で輝こうとする そんなきみのゼリー状の夢のなかへなかへと 
流れ込む鱗粉の薄明るさが 仮象の翅脈となって ぼくたちの官能を満たしつづけ
てきたのだが

Vivi きみの 網膜へと降りつづく ゆっくりと侵されはじめたフォルテの感触が 
ほの白いばかりの残響に書き換えられようとするたび きみの 希薄さと静けさだけ
でつらなる 水明のような一面の空白は どこまでも不安で満たされていったというのに


わたしたちが満たされている、青をふくめた薄荷の匂う空間で、あなたはとろけながら侵
蝕しあう形態としての座標。

きみたちは言語の意味の転覆を、鮮やかな転覆として転覆の痕跡を残さないままに
語彙の反復として実践しようとするのだが、

(どのような地点へ行きつこうとも)
あてどない液状化へとたどり着いた、そのような言葉たちの漂っている都市へと
Vivi、きみは記号となって還ってくる


ゆるやかに水中を浮遊する、水沫を痕跡とした翅膜が、
ガラスの内側で満ちているかなしげな青の色にひたされてゆくとき、
つつまれる翅はポリフォニー
語り尽くされるということをしらない。
液体の総和としてもつ 透きとおっては散乱してゆくみずからの形状としての不安の記憶が
言葉として、花の器官として
表面のしなやかさへとなじむことのないひとつの仮象となって
触れることのない別の器官へと みえていたはずの終わりをずらされては
吸いこまれてゆく
その ほのじろくながれている水の微光のなかへと溶けこみはじめてゆく


No Title

  浅井康浩

わたしは添い寝をする あなたの
あどけないくちびるへと 甘酸っぱいやすらぎが染みこんでゆくように
わたしは添い寝をする あなたの
黒目がちの眼にかぶさるまぶたに 香ばしいほどの夢が降ってくるように

あなたはどこまでもどこまでも透明になろうとして
カーテンを閉めきったり 部屋の明かりをぜんぶ消したりして
誰もしることのできやしないどこか底の底のほうへと
カラダのすべてを使ってしずみこもうとしている そうやって
あなたは眠りこもうとしているのだけれど
あなたの横たわっているベットのまわりが暗ければ暗いほどわたしには
あなたのカラダの輪郭が人恋しさをともなってほの白く
この深いよるに 浮かび上がってくることを知っていのだから
いま、はじめて、
わたしはあなたの輪郭だけをすすり それが 今夜 あなたとちがう夢をみる夜の合図となって 
はじける 何かが、はじまるために、まず、
ほつれさせてゆく夢というものがあって、いま、わたしは添い寝をはじめる
もしかしたらあなたの
そのまぶた まつげ 頬 わたしの視線がなぞった先に
あなたがゆるやかに起きはじめてゆくのではないかとの不安はあるけれども


骨格捕り(習作)

  浅井康浩

いつの日からか やわらかな微光にとけこみはじめていたあのみなそこで
みずからの殻を閉じていったあなたの 透きとおっては満ちはじめた繊維質のその稀薄さを 
透過性がそのまま一面に降り散ってゆく青となって 見送っていたような気がした
水質とのどのようなかかわりでさえ あやまった動きとしてくりひろげられてしまうあなたの身体にあって
甲殻類の殻の一片としての 殻の成長、脱皮などにより分裂してゆく微細なものとしてのわたくしの響きを 
あなたに感じ取られることなどできはしないのだけれど。
かすかに残されたあかるさの痕跡に反応しては気泡にくるめて消し去ってしまう
ただそのためだけの存在であるわたくしは
あなたののぞんでやまない内骨格さえかたちづくることなどできはしないのだけれど





甲殻類、甲殻類、
切ないまでに正確に、あなたの甲殻をかたちづくってゆくことだけを
みずからの細胞質の運動に接続されたものにとって
甲殻という形態の痕跡をうずまき状に透かしだしてゆくあなたではなく
形態とその循環性が析出される前段階から消去していってしまうあなたを
記名する物質としての やわらかなむねのふくらみですらもつことはかなわないのだから
わすれちゃってゆくのだけれど
あなたがその先にみすえたままのみずからの肢体そのもの
のもつ内包性のカテゴリーのなかに
ザラザラって硬い甲殻なんてものはふくまれてはいないみたいだから
わたくしたちのもっている被膜性なんかももういらないみたいだから





蜜に包まれてゆくものたちの、そのエッジ、その突起や溝をみていたら
満ちはじめ、やがて消え去ってしまうようなみちすじが
そのさきのはじまりにかすかに、見えてしまった気がしたから
やがてあらわれてくるはずの隠喩としての水域を
そこにいるものすべてに絡み合う蜜の半透明な明るさに浸されてしまう水域を
ほぐれはじめることでなにものでもなくなってしまうような口ぶりで、はじめから語り始めようとしていた
でも いつだって
お互いにより添いながらながれてゆく液体は
拡がることで 触れ合うことで 織り合わさってゆくものだから
いまはただ
水世界/蜜世界というそれだけではまだうすあおいままの世界に身を浸しながら





ときとして、
かなしみのために透きとおってしまう指先があるように、
また、その桃のようにあまく伸びきったつめさきへと潜りこんだあたたかな予感が
とめどないほどの蜜の香りをしたたらせてしまうことがあるように





どこまでも蜜そのもののやわらかさのなかに溶けいってしまっては
しぃん、としたうすあおさにくるまれてしまう
くるまれることで
避けようもなくはじまってしまう中性化にあやかってしまうことの
その気はずかしさにほてっては
頬をそめるほどの微熱でもって蜜との結び目がうるんでしまう





けれども どうしてあなたはそんなにもやわらかに
零れはじめて とけだすばかりで
かなうなら
みずからのなかに血脈をこえた本能を隠し持ちながら
くるおしく繰りかえされてきた連鎖を生きはじめてしまう甲殻類たちへ


NO TITLE

  浅井康浩

                        RIRI SWITZERLAND Style

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                                   充さ
                                   溢さ
                                   しや
                                   てか
                                   しな
                                   まう
                                   うる
                                   こみ
                                   とで
                                   のも
                                    っ
                                    て



                                             NO TITLE NO SCENE




繊維質の輪郭       わたしが「蜜につつまれていった」という文字でしめくくられるはずの言葉を記すために
をどこまでも       これから書きはじめようとしている序章でありまた中間にも位置する言葉たちの成立をお
なぞってゆき       もえばどうにもいたたまれなくなってわたしたちにとって甲板とよばれる場所へとたどり


あいつ おそら
がぽう く記号
ぽうと では下
鳴きだ 降線状
すのは にあら
決まっ わされ
て夜に るだろ
なって うシラ
からだ ブルの
とよう 内部へ
やく重 と滲ん
い口を だその
あけて マッス
しゃべ はここ
りはじ ちよく
めるた 耳にな
めのプ じんで
ロロー ゆくか
グとし とおも
ての船 えばす
長の話 ぐに浸
のその 透しは
とっか じめる
かりの のだけ
断片を れどふ
たしか わふわ
に聞い ぷにぷ ところどころで起こってしまうある種の変質をみとどけようと
たはず にとい 描写をこころみようとすれば
だった う質感 たちまち記述の線はみずからのゆびさきの指紋のきれはしとつながり
がその として あとはするするとあなたが指の先っちょのほうから内側へとなだれゆく変質そのものと
声とも しかあ なってしまってしまう
つかな らわす ときおり、
い語尾 ことの 
の発音 できな 
の余韻 い形態
だけが が固有
妙に耳 の名詞
の内側 という
になじ ものを
んだか 名付け
とおも えない
うまも という
なくわ 不気味
たしは さをじ



                    かこいこまれるためにあるものとしてうまれ落ちるあなたたちの
                         安堵ともあきらめともつかないあのさわやかな感謝は
                                           わたしたちを
                  つつみこんでゆくためにあるものとしてうまれさせてゆくこととなり
                                              同時に
                        うまれてくるわたしたちのうぶごえのひとつともなって
                                        わたしたちのなかに
               つつみこまれているものたちのもつ胎内のあおい羊水のなかへと静かに響き


さながら  
     あまい蜜  
          を体内に  
               ひめたる  
もののよ  
     うにふる  
          まうこと  
               ではから  
ずも溢れ  
     てしまう  
          液体によ
               ってみず  
からの身  
     体へとふ  
          るふるふ  
               るえるみ  
ずみずし  
     さが浸潤  
          するにま  
               かせてふ  
くませて  
     ゆくこの                    
          誘惑に。
                   



ささやかなうるみでもって充溢してしまう





中性化された地形図は
ふりかえられることない水脈で満たされ始めていて、よかった
拡張してゆく輪郭は
疾走し、直交して、あらゆる領域を座標化していって、好きだった
いつものように
夜明けともなれば、森林管理署の砂礫地から軋みの音が聞こえはじめて
あたりいちめんを湖沼の記号へと変換してしまうはずだった
ぼくたちの街の、あの地形図の白にまぎれながら
空間のなかの堅牢を記号として、液状の空隙へと写しかえているものがあるとすれば
それは灰色のオオカミだから
とめどない流出にさらされている地形図の
色彩を抹消することで全体の記号を溶解してゆく手際を見てしまう前に
[記録[分類[表象[配置[切断
析出という部位に隠された現実の繊細な手ざわりを受け止めながら、ぼくは、
あらゆる建築的質量を奪われてしまうだろう地点へと、
立ち戻ってしまわなければ、ならなかった

文学極道

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