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守り手 - 2005年分

選出作品 (投稿日時順 / 全5作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夜明け

  守り手

水平線から真上の空へ
拡散した流星が逆巻いて
耳鳴りが垂直に降下していく
それは流星の核である小さな鈴音の軌跡

波をくぐり水跳ねて海を渡り裂く風
鈴音をさらい陸地を目指すさらにはその先にある都市へと
切る水に鉄錆びた旧夜の風景たちは眼を剥き
一斉に風の飛沫を振り返る

轟音は誰の眠りも覚まさない
街は保っていられる限りの輪郭線を残すだけ
風は疾駆する 風は呼ぶ 風が声を持つ
鈴音は少女のように鳴りながら
はしゃぎまわって笑った

星の落ちた丘がある
鈴音を乗せて風は向かう
最も高い場所に少女が立つ
鈴音の到着を待っているのだ
少女は水牛の頭骨を抱え上げている
水牛の虚ろが街の全景を舐めている

破裂そして破壊そして そして
鈴音は加速するたび剥がれ落ちていく風景に怯え涙が止まらない
呼ぶことをやめる はしゃぐこともやめる
けれど
疾駆する風

衝突の刹那には
揺れる惑星を受け止める立つ少女の細腕が軋む

星の落ちた丘で
少女の抱えた頭骨に全ては収まっていく
収縮する光があり風があり都市がある
ふたりの少女は出会い
出会うようにして別れた

立つ少女は眼前の水平線へ
いまかがやくものを手放す

鈴音は
頭骨のなかでは鳴らない
ただ胎動があるだけで
彼方へと望むのは
いつか流星になること

* 投稿時の名前は「ちづさ守り」


波状

  守り手

五月の草原は
見えざるものたちの管弦楽団
風の指揮にそって 浅い夜を音楽にひたす
草むらに埋葬された僕を 星の視点から僕が見ている
なんて滑稽な図式 しかしうつくしい夜想曲
滑稽な美しさに 視界が曖昧にされる
ぼやける もしくは とじていく

まぶたのうらで
水底は深く澄んでいた
川を 葬列が渡る 散った波状は音もなく
むこうがわへとかれらを渡す
波状は立ち消え 水面はまた流れだす 音もなく
僕の葬列は行ってしまった

ここで飛ぶ
鉄塔群 逆光 遠い八月
複製された空を 飛ぶ 街を抜ける
まなざしの先の運命を まばたきの裏の恒久を
うつむきの奥に流れるだろう見知らぬけもの その血で
残滅する 瓦解させる 崩落の声 どこかできいた
鉄塔群に棲む冬猿 潔白のために殺した

裂いて 薄い肩の平穏を 待って
目をふせた星たちがおとす きらめく影の中で
五月になった 季節が呼んだ 五月になれと 季節が云った
ざわめきつづける鳥たちは声をうばわれて
海は静謐な凪に犯されている
そっと夜になり 押し寄せた闇がまぶしい
世界は管弦楽にただよったまま
すべてを放棄した

少女 と呼ばれるたびに
壊れていく地平がある そこでは
雷が蜘蛛の巣のように増殖していく すこし薄まった空気
思い出してもでてこない 少女の名前
また どこかで地平が崩れる

たぶんそう きっと つけたのだろう名前を
僕は 告げたのだろう名前を あのとき
思い出すのではなく創造すること そうして
波状を描いて 交差する世界の静脈

また戻して
葬列が跳ねていった川の水
黒く澄んだその浸食を風がなぞる
たゆたうように回る惑星のだれもしらないかたすみで
音楽は鳴らされて 幾つかの夜に溶けていく
解体された牡牛のそばでじっと動かない僕は
やはり 埋葬されているのだろう

管弦楽に耳をかたむける聴衆
露草を滑ったちいさな色彩は透きとおって

星の流したなみだは
ひどくきらめいて消えた


かぐら

  守り手

凛、と鳴って しゃんと立つ 炎にまみれた夏神楽
舞っている、村娘 星雲 渦状 静寂も破轟もすべて突き放して
折り重なった夜の彩度をひとつにつらぬく彼女の咆哮、流星群
線で揺らして 地で壊す 影絵 反響 炎上炎舞

村祭
朝をうばって
乱雑に破滅する

彼女、輪郭 薄紅 体躯 中空に触れる 手でえがく
燐光 線描 夜に裂く花 呼んでいるのか殺しているのか
ただ待っている だれもが 彼女、ただ舞っている
彼女、幻想の幼生 妖精 光源がつよく明滅している それから
億千の願いのなかでかすりついた傷痕 彼女、痛苦 花束 それから
彼女、それから 花束 反響 光、はじけて、強くつぶって

古ぼけた冬
古ぼけた教室 なめらかな肌 
あの子、云って かみさま
薄いまなざし
それ、誰に言って そこには誰もいないよ 誰もいないよそこには 
窓枠、すすけた空 古ぼけた校庭
そこにはだれもいない 

燈炎、吹きあがって 膨張する影
獣の息吹に溶けた天幕 焦熱でふれる鼓膜 崩落、
彼女 同化している そのすべてを 統べて たとえば右手は大地を切る風
活きている いきている 吐音 強打、連続 咆哮再度 呼んではいない 殺すばかりで
形骸だけの音楽に、息をあわせて旋回点 塔炎、吹きあげて ひかりが囁く脈動しろと
なまえをなくして怒声になれと 彼女、融解、こころの氾濫 築かれた夢が破鏡していく
あらゆる星が彼らの限りに呼応をはじめる きづかれた夢を消すそのために
振動 邂逅 神楽の強打は音圧を、途方もないほど上げていくだけ 閃熱、包囲 夜にとどめて
朝をころせと吐く、声、とぎれて 流海にただよう季節のなかで 夏だけゆるして あとはつぶして
彼女、いつか死ぬよ

あの子
目を伏せて
白い呼吸が 幼い
うたごえ

あの子
薄紅なんかつけたこともないのに
似合いすぎて 夏神楽 彼女、凛と鳴って

音声 破裂 かえろう 還ろう きみはそこにいないよ それは終わらないよ
疲れたね すこし暑くて なくしていいから 壊してかまわないよ
茫洋 段階が散った海は遠く ざわめいているのは生物だけではなかった
剥奪された、朝 その夢 あの子が軋む海岸線は 残り香たちの暮れる場所

あの子
いつか死ぬよ たとえば右手
なめらかな肌 やさしい呼吸 ひかり

ゆるされた瞳、まなざしを
ふりほどいて
しゃんと立つ あの子 深い呼吸 白く ひびきつづけた熱源は
浅く、 りんとなって冷たい


花冠(一日を閉じて)

  守り手


早足でかける双子の、
颯爽を混声する朝陽
疾りあう幾つもの歌、


  姉妹、
    、律動
  遮光、
 

影向に揃えた爪先が、
次第に削られていく
穏やかな正午の昂揚、


  鋼鉄、
    、心拍
  少女。


夕映えの葬送のため、
すてられた幼い犬と
泣きながら遊ぶ花冠。


姉妹(星空の中で)

  守り手

私の妹は
天文学者ではないので
あの星と
遠くはなれた
あの星を
ひとさし指で結びます
何か、と聞くと
お姉ちゃんのおなかのあとだと云いました
ベッドに腰かけた妹に
そんなに広くないよと笑ったら
すこしだけ痕が
いたみました

私のいない夜に見つけた
気高いひとり遊び

妹の
想像した
星座群が
夜空を
うめつくして
いきます


私が星を見つけると
それをあかない瞳が追います

私たちは姉妹でした

昼も
また夜も

文学極道

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