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老孫

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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検死

  老孫

わたしにはキミの静脈が特別あかるくみえるものだからわたしの検死によるとつまりわたしが爪先立ちになりステンレスに横たわるキミのこかんをそっとすくいとり300グラムですと録音しながら耳よせキミの子音はデキシ(あるいは母音アアアア)を泡と散らしたのか思い出せないが(覚えているわけがない)(しらないのだから)(たぶん)(みみをすませばきこえたかもしれない)(あるいは)キミのおそすぎるまばたきを知る由もない海を小さなこざかなたちが泳いでいる水音(シイイイィ)その環状にまざって走っていく小さなバイク(シッ)の後ろに乗り込んで冷えていくことを夜の窓辺でパソコンをいじりながらカーテンがさらさら冷たいあきらめがわたしの体温を決まって指先から奪って(1℃/s)なかで(わたしのなかのいきものが)月に煙を吐きかけて(1回/15日)からコーヒーを飲んで(CONST)少しだけ血がにじむぐらいに爪をかんだ後でキミの直腸に体温計をさしこんでグラフを書いていくことでキミが最後に残すものは曲線であり(キミだ)キミの死んだ時間はだいたいこのぐらいでキミの胃袋を切り開いて中身をビニールにあけると550グラムで緑のヘタのついたイチゴが完璧な形で保存されていて他にもキレイなものがあって並べていくと雑草が生い茂りだしフェンス越しに管制塔の赤い光が瞬いてそこをゆっくりと飛行機がランディングしてわたしは金網に指を絡ませてゆっくりキミを切りひらいたメスで骨にこびりついた肉をつまびきながら人間で楽器ができるような気がするんですよねという助手に相槌をうちながらわたしは宮沢賢治の詩を朗読しているのに気がついてキミの名前を書き込む前にレコーダーに低くこもるような音でささやきいれて二度と思い出さないような名前はいくつもあるから安心してテレビの砂嵐はやんだからキミはもう二度と雨に打たれることはないしタバコの臭いをかぐこともライオンの尻尾に触れることもなくわたしは切り散らかしたキミの胸をとじ糸を切ると手を合わせた手のスキマの闇からキミの静脈のひかりが助手のこぼしたフリスクにもおとるぐらいに消えていくのを感じる

文学極道

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