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服部 剛

選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


呼声

  服部 剛

夏の涼しい夕暮れに 
恋の病にうつむく友と 
噴水前の石段に腰掛けていた 

( 他の男と婚約した女に惚れた友が 
( 気づかぬうちにかけている 
( 魔法の眼鏡は外せない 

( 僕等の前に独り立つ 
( 大きい緑の木だけが 
( 風に揺られながら 
( 孤独者の知彗を唄っていた 

一途な恋をする友と 
恋を忘れた僕の間の 
寂しい隙間に 
夕涼みの風が吹き抜けた 

目の前を流れる無数の足に紛れ 
若い妊婦と手を繋ぐ夫が通り過ぎ 
父の背中を追いかけ走る少年が通り過ぎ 


首筋にぽつりと雨が落ちる 

僕の鞄に入った折り畳み傘は穴が開き
役に立たない 


( 隣に座る友の胸中はスコール 
( ずぶ濡れのまま愛する女を探し 
( 暗い森林を彷徨ている 

( 遠い木々の隙間に 
( うなだれ歩く姿を見かけた

( 平凡な日常への出口に立つ僕は 
( 大声で、友の名を呼ぶ


夕暮れの並木道

  服部 剛



春の陽射しに 
紅い花びらが開いてゆく 
美しさはあまりに脆く 
我がものとして抱き寄せられずに
私は長い間眺めていた

今まで「手に入れたもの」はあったろうか 
遠い真夏に手を伸ばした酸味のある果実は 
皮だけを手元に残した幻

やがて秋を迎えると 
胸の空洞から浮かび上がる淋しさは
透明な雲となり
いつも傍らに浮いていた

夕暮れに照らされた
うっすらとした雲の輪郭を横目に 
私は往き過ぎる 

路面に枯葉の舞う 
秋の調べと共に 
無人の冬の夜へと続く 
夕暮れの並木道を 

文学極道

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