明後日に
折れ曲がった指
から産み落とされた
崇高なる覗き穴へ
はめ込まれた目玉は囁く
暗がりの向こうで
白痴夫人が
眼差しで沈黙を盗もう
と石像にヒビを入れてる
何層にも重なり
押し寄せるまばたきを
不規則なラシャきり鋏が
次から
次へと切り取り
塵箱に放り投げた
「
3分前の
髪飾りをイヂる女は
俺が
黒塗りのアルミ箱へ
丹念に
丹念に押し込めてやったぞ
」
赤色電球が
全裸で左右に臀部を振りながらニヤニヤ笑う
沸き立つ雲々の合間から
幼子の手が
一枚のネガを
あかねいろの大地に貼りつけた
世界を反転させた構図だ
出来栄えは如何なものかと
斜陽に透かして見れば
四角い柵に
囲まれた薔薇は
だらしなく
涎を垂らしていた
解脱しそこねた溜め息が
戸棚に隠れて
しおらしく泣いている
悠か
悠か
上空より
真白なシーツを
純潔の白地図を
凌辱する為に墨滴が投下され
大地は斑に染まった
裏切りの代償として
淡い花を一輪
欲しただけなのに
最新情報
蝿父
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モノクロの領域
対話
小春日和に叫びたい沈黙が溶けだした琥珀のように木々のあいまから
わたしの体を塗り固め身動きがとれない幸せに肌をあわせて気付きました
寒空から見上げた
どしゃぶるの中
深々と鳴るの中
あなたは叫ばず黙々と
いつの日か空へ飛び立つために両手を広げてらっしゃる
長い年月をかけ悠々とした足取りで休まず歩いてらっしゃる
仏頂面に隠された
その胸のうちをなんぴとにも知られず今日も森々としてらっしゃる
幾世、幾月。当たり前のように今日も森々としてらっしゃる
ひとつの
はな房を芽吹かせる為に
どれだけの山を削り
悠かな大河を飲みこみ
眩暈のする億年の刻をかけて
何光年先の小宇宙から黄金律を捻りまげ観せたいの一心で辿り着いた蕾に震える両手
この日を迎えて頬を染めながらも仏頂面はやめないのですね
たまには慌てて飛び退いてみなさい!
わたしはわたしだ
この先、あなたが土塊になったとしても
わたしはわたしだ
と聞えてきそうな叫びたい沈黙は溶けだした琥珀のように木々のあいまを伝い
わたしの体にとめどなく降り荒び泣きじゃくる最初のひとしずくを戴きました
桜樹の下にできた真空地帯で
うらら
春の径でタタとはしる
待っての声は風にふかれ
さくらいろのワンピース
ひらひらゆらして
ふりかえると
はなびらがとまってみえるんです
ふりむいちゃいけないのよ
桜のしたには
おじいちゃんが眠ってるの
だから起こしちゃだめよ
頷くあたまから
ひらひらおちる春の死は
待って待ってと囁くようにわたしの喉元をしめあげ
小さな一枚は
すべての時間をのみこんで
わたしの膝でよこになり
たおやかな寝息
アダージョ
すこし空が低くみえます
月蝕
ただ
ただひろいだけの夜空を充血する程に
まなこを凝らしたら
はしっこの辺りに裂け目がうまれ
乳白色の貴方を呼んだのは紛れもなく私です
その仄かに薫る鎖骨は
芳しき母のようであり
ミルクのようでもあり
月長石を撫でてしまいたくなる欲望
貴方が血走って見えるのは私の気のせいでしょうか
勘違いでしょうか
潮騒が後退りをためらう海岸線で
まばゆく照らされた乳白色は心なしか青白く見え静かな寝息をたてています
私も添い寝したいのですが
なにせ寒さが身にしみるほど空気はうすく
不規則な口笛ばかりが貴方の眠りを妨げてしまいそうで
怖いのです
夕焼けが帰るべき後始末をそそくさと始めた頃に
乳白色だった貴方が大海原で漂ってるのが見えます
恐る恐る近づいてみました
どス黒いまだら模様から腐臭がして
悲鳴に近い口笛ばかり漏れてしまいます
そんなに哀願しないでください
私はいたたまれず針を刺しました
ガスが抜け深海へとゆらゆら沈んでいくさまは
あわれであり
ぶざまであり
この上ないせつなさ
おもわず手を伸ばした先に巻きついた情痴
あれよあれよと言うまに暗い其処へ
にやりと笑われたような気配に助かりたいと水面を見上げれば
バブルリングが昇っていきます
震える水泡は魚についばまれ
そのさまに
我を忘れて泣きました
みずの中で泣きました