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蝿父

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


モノクロの領域

  蝿父


明後日に

折れ曲がった指
から産み落とされた
崇高なる覗き穴へ
はめ込まれた目玉は囁く
暗がりの向こうで
白痴夫人が
眼差しで沈黙を盗もう
と石像にヒビを入れてる

何層にも重なり
押し寄せるまばたきを
不規則なラシャきり鋏が
次から
次へと切り取り
塵箱に放り投げた

3分前の
髪飾りをイヂる女は
俺が
黒塗りのアルミ箱へ
丹念に
丹念に押し込めてやったぞ



赤色電球が
全裸で左右に臀部を振りながらニヤニヤ笑う
沸き立つ雲々の合間から
幼子の手が
一枚のネガを
あかねいろの大地に貼りつけた
世界を反転させた構図だ
出来栄えは如何なものかと
斜陽に透かして見れば

四角い柵に
囲まれた薔薇は
だらしなく
涎を垂らしていた

解脱しそこねた溜め息が
戸棚に隠れて
しおらしく泣いている

悠か

悠か
上空より
真白なシーツを
純潔の白地図を
凌辱する為に墨滴が投下され
大地は斑に染まった
裏切りの代償として

淡い花を一輪
欲しただけなのに


対話

  蝿父

 
小春日和に叫びたい沈黙が溶けだした琥珀のように木々のあいまから
わたしの体を塗り固め身動きがとれない幸せに肌をあわせて気付きました

寒空から見上げた
どしゃぶるの中
深々と鳴るの中
あなたは叫ばず黙々と
いつの日か空へ飛び立つために両手を広げてらっしゃる
長い年月をかけ悠々とした足取りで休まず歩いてらっしゃる
仏頂面に隠された
その胸のうちをなんぴとにも知られず今日も森々としてらっしゃる
幾世、幾月。当たり前のように今日も森々としてらっしゃる

ひとつの
はな房を芽吹かせる為に
どれだけの山を削り
悠かな大河を飲みこみ
眩暈のする億年の刻をかけて
何光年先の小宇宙から黄金律を捻りまげ観せたいの一心で辿り着いた蕾に震える両手
この日を迎えて頬を染めながらも仏頂面はやめないのですね
たまには慌てて飛び退いてみなさい!

わたしはわたしだ
この先、あなたが土塊になったとしても
わたしはわたしだ

と聞えてきそうな叫びたい沈黙は溶けだした琥珀のように木々のあいまを伝い
わたしの体にとめどなく降り荒び泣きじゃくる最初のひとしずくを戴きました

桜樹の下にできた真空地帯で

 
 


うらら

  蝿父

春の径でタタとはしる

待っての声は風にふかれ
さくらいろのワンピース
ひらひらゆらして
ふりかえると
はなびらがとまってみえるんです

ふりむいちゃいけないのよ
桜のしたには
おじいちゃんが眠ってるの
だから起こしちゃだめよ

頷くあたまから
ひらひらおちる春の死は
待って待ってと囁くようにわたしの喉元をしめあげ
小さな一枚は
すべての時間をのみこんで
わたしの膝でよこになり
たおやかな寝息

アダージョ

すこし空が低くみえます


月蝕

  蝿父


ただ
ただひろいだけの夜空を充血する程に
まなこを凝らしたら
はしっこの辺りに裂け目がうまれ
乳白色の貴方を呼んだのは紛れもなく私です


その仄かに薫る鎖骨は
芳しき母のようであり
ミルクのようでもあり
月長石を撫でてしまいたくなる欲望
貴方が血走って見えるのは私の気のせいでしょうか
勘違いでしょうか


潮騒が後退りをためらう海岸線で
まばゆく照らされた乳白色は心なしか青白く見え静かな寝息をたてています

私も添い寝したいのですが
なにせ寒さが身にしみるほど空気はうすく
不規則な口笛ばかりが貴方の眠りを妨げてしまいそうで
怖いのです

夕焼けが帰るべき後始末をそそくさと始めた頃に
乳白色だった貴方が大海原で漂ってるのが見えます

恐る恐る近づいてみました
どス黒いまだら模様から腐臭がして
悲鳴に近い口笛ばかり漏れてしまいます

そんなに哀願しないでください

私はいたたまれず針を刺しました
ガスが抜け深海へとゆらゆら沈んでいくさまは
あわれであり
ぶざまであり
この上ないせつなさ
おもわず手を伸ばした先に巻きついた情痴
あれよあれよと言うまに暗い其処へ
にやりと笑われたような気配に助かりたいと水面を見上げれば
バブルリングが昇っていきます
震える水泡は魚についばまれ
そのさまに
我を忘れて泣きました

みずの中で泣きました

文学極道

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