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田中智章 - 2011年分

選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


万華鏡の風景

  田中智章



遥かの山の上空に
広漠な思念のような霞雲
体が浮いていると錯覚させられる
点在する緑の隙間に風の蛇腹が見える
季節という定位が不似合いだと言う
小さく分離した雲の無言
私は今はむしろ
曇った万華鏡のようなものであって
覗く者などもちろんいないが
ただむらのある反射に身を明け渡しているばかりで
同時にそのすぐ脇で
訳のわからない必要に駆られて言葉を並走させている
しばらくの間 大きな音が訪れないことを期待して
目に見える世界が 常に微細に振動しているのだと気づいた
気づいたように思えた
それは自分が振動しているからだろうと
自身の血液の震えを想像した
ぼんやりとした決して広くもない筒を覗くと
白色灯のように 遠くの雲だけが清冽に眩い
 
 


みずうみの、

  田中智章




洞窟の中は星が咲き乱れる秋だった。
呼吸を止めて止めて止めて、それでも息を飲んだ。
鳥が一羽また一羽と、架かっていく。破裂を含むように、孕むように。
断層の線を睨んで、暗い夜に、昼に、頭骨の中に。
指先で引いた蛍光の輪郭でみずうみは、
息をするように潜ったり沈んだり。
そのリズムは秋の一部で、
ゆっくりと落命したり弾けるように笑ったり、
気配のような影を映す。
映して誂うように笑顔。つめたいな、
水面が、そうして冷たい日時計をつくり、
鳥の羽が、いびつな螺旋を描いて、
陽溜まりが水滴となって、
ぽつぽつと道が浮かびあがるなかを、
潜って、泳いでいく、手足の、
化粧が湖底に零れ落ちていて。
 
 
 

文学極道

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