#目次

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田中恭平 - 2015年分

選出作品 (投稿日時順 / 全7作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


#01

  田中恭平


昼、蜩が啼いていた
今日私は遂に夏を認める
昼、蜩が啼いていた、と、私は日記に記さなかった
だから、昼、蜩は啼いていなかったことになるだろう
しかし私は今日、遂に夏を認めた
明日、もし昨日蜩が啼いていたことを忘れていたなら
そして明日、蜩が啼いたなら
私は明日、蜩が啼いたと認める
わくわくして
少し動機が早くなって、バラバラな扇風機を組み立て
扇風機のプラグをコンセントに差し込み、「中」のボタンを押し
扇風機を、私が信仰しているロック・バンドのフロント・マン
カート・コベインのポスターが一枚貼ってある、
白い壁に向けた
夕方になると、昼、蜩なんて啼いていなかったことになっていたし
しかしまだ遂に夏を認めた私がいたので
抗不安剤カームダンを含むと
多分、昼、蜩が啼いていたので、しっかりと書いておかないと
理由も曖昧なのに、遂に夏を認めた私は
孤独になる
私を、助けて下さい
と祈った
姉の買ってきてくれたフライド・チキンを頬張りながら
「愛しています。」
と、一言だけ、携帯電話のメールに
未だ意味の知れない「愛」という言葉の一語を書いて、パートナーに送った

人参果が欲しくてスーパーマーケットで捜したけれど
スーパーマーケットは全焼していた
全焼したスーパーマーケットは初めて見たので
それが全焼したスーパーマーケットだと気が付かず
真っ黒な灰の瓦礫の上で
ポケットからゴールデン・バット、210円の安煙草を取り出して
別売りのフィルターをつけて火を点けて座った
そして、「人参果、人参果」と呟きつつ、ふらふら
瓦礫のなかをさまよった
水たまりに油が浮いており、虹色に光っていたので
ずっと水たまりの光りを眺めていたら
茶色の毛だらけの野良猫が来て、
水たまりの水を舐めはじめた
懸命に、懸命に、毒を舐めていた

ピアノの音が聞こえ
音楽室に向かうと
ピアノが溶けはじめていた
T先生は、ちらと私に目をやると
ピアノが溶けているのは嘘なんだ、と仰った
確かにピアノは溶けていたので
先生の仰っていることが、私には解らなかった
そのピアノで先生は
正確にエリック・サティのジムノぺティを弾いた
梅雨ですね、
先生に告げると
そんな大雑把な季節把握はしてはならない、と仰った
ここまで書いて私が思慮したことは
私に水平に流れる時間というものは
感情がないということだった
意味なんかない
先生はピアノから離れると
白いくしゃくしゃのコンビ二の袋から
おにぎりを二つ取り出し食べた
感情のないこの時間にあって、おにぎりを頬張っている先生
振り返ると、ピアノはすっかり影になっていた
携帯電話にメールが届いて
パートナーから「私も愛しているよ。」という一文だった
私は少しずつ鬱になりはじめ
或る手段を使って
先生を殺害した
動機なんてない
こころの闇なんてない
動機には興味がない
大体何故
動機が必要なのだろうか
カート・コベインは「魚には感情がないから食べていい」と歌った
先生は殺すことができたのに
私は私自身を殺すことができないでいる


「ハロー、ハロー、どれ位ひどい?」

メロディを反芻しながら
夜の郊外の道をまっすぐ歩いた
精神科で処方された薬をコンビニのトイレで含み
ポカリ・スウェットで胃へ流し込む
遠くパートナーの足音が聞こえてきたと思うと
現れたのはファースト・フードの食い過ぎで
肥満したイエス・キリストだった
トイレの洗面所が備えているスペースで
キリストの鼻筋をガツッと殴った
右側でも左側でも、頬ではなかったので
キリストは混乱しながらその場にうずくまった
洗面所を備えているスペースを抜けて
レジに向かい
ゴールデン・バット二箱
百円のアイスコーヒーを購入した
どうせ地獄へと行くのだ
兎に角、今は煙草を喫って良い気分になろう
コンビニの前に置かれている灰皿に入っている水が
自然ドンドン水かさを増して
ついに灰皿から溢れ
ジー
ジー
蜩の声が頭いっぱい広がった
そう
確かに
蜩は啼いていた

 


#03 

  田中恭平

 
百日紅の花は寒に縮みつつ
その先 蕾を遺している


静かにするんだ──

先に服した薬が内側でそう告げた

硝子戸を開け、じっと寒を見つめる

茫洋とした視線へ
孑孑の
騒ぐ声が挿入され
目は
眼となって
百日紅の花の赤さを
正信する
否 
眼が
目となって
百日紅の花の
神の
生成の
妙が知れると

私は陶器の
灰皿を、縁側に置き
煙草を嗜み

静かにするんだ──



舌で転がしてみる

この戦時下
 
パラパラと
舞い落ちるのが
百日紅の
花弁であって
中華人民共和国の降下爆弾

なくて良かった


一弁
一弁
灰皿に詰め
灰皿の灰と
花は
互い
形を失っていく

明日から米の
供給は終わり
煙草屋へ寄ったら
読売新聞しか
置いていなかった

家を引き払い
薬代に換えて
駅前ベンチで眠ろう

左派の私を
雇ってくれる
映画会社を捜そうとも
しかし
東京は灰燼か
郵便は止まった


最後の煙草に火を点けて


静かにするんだ──


しかし

百日紅の花は寒に縮みつつ
その先 蕾を遺している

たとえ
私のこの両目が
義眼であったとしても

 


#04

  田中恭平

 
 
それは東洋的でない
甘い桃の匂いもせず
渇きと
病に苛まされてきた
西の町から
彼女は船の看板に立ち
哀しい話している間
船と
港とを
カモメは
アルコールのダルさと
薬の副作用とに
苦しんで
笑ったように
飛び交っていた


四月の十四番目の日に
私は生まれておらず
ペンを持つことはできなかったが
十月の一番目の日に
彼女の語ったこと
頭に入ってきたことを書きとめていけば
波へ彼女は乗馬したということ
黄金時代は予告され
黄金時代は予定されていた
神がサイコロを
カップからはじき落としてしまうことは
予告も予定もされていなかった


夜は星が栄えるよう漆黒を増し
そもそも ディザイア
 欲望 とは欠損語を冠した星のことであるが
この夜のお膳立ては
神の落としたサイコロが
悪い数字を出したということだった


海が鋭く船を刺せば刺すほど
人は
とおく在る星の栄光を
確信してしまったのだった
渇き
病気
それらが星の
つめたいあたたたさに癒えるころ
約束の刻は近かった


神は
ゲームのツケを払うために
人をさけながら清算しようと向かっていた
ライトはしかと船の進路の前方を照らしていた
少しおかしなことがおこっても
船は確実終わりへと向かっているので
問題なく滑っていた
ひとは笑いながらいろいろな船の娯楽を愉しみ
神は
金に代わる清算方法を考えざるを得なかった
警備員が神を見かけ驚いたが
警備員は毎晩夢で見ていた神は
神じゃなかった と
勝手に安心してしまったので
また船の中を
にこやか歩みはじめた
オーケストラの指揮棒が止まり
乗客は拍手した


病気と同じ名前の青年が
スケッチブックにデッサンしていると
船が傾斜していることに気づいた
青年は己の眼が傾斜しているのだろうと
勝手に安心してしまったので
デッサンを続けたが
彼のデッサン帖には女性のデッサンがない
これも「つづいていかない」という
警告だったかも知れない
そして神は
ゲームの失敗を金ではなく
ひとの命で清算するしかなくなった
青年は己の眼の傾斜が酷くなり過ぎ
ついに己の心象を書き留めていたが
おかまいなしの騒がしさに眼を開いた
青年は
後甲板から滑り海へ落ちた
後甲板に既に深さ3フィート冷たい水がたまっていた


煙突が倒れた
倒れた煙突の重さは乗客の足をくじきくだいた
船は沈んでいた
沈んだ分だけ漆黒の宇宙は広がった
各廊下の下のライトは安心していた
ライトには命がなかったからだ
しかし鈍く明滅していた
エンジンが爆発した
プロペラははじめるために回る筈だった
プロペラは回りつづけたが嘲っているようであった
過負荷をかけられるボイラー
船の弓が
割れてしまった
乗客はためらったり海に飛び込んだ
はやく
おそく
時間は
人間のものでなかった
神は
それを隠しきるに金が足らなかった


それは東洋的でない
甘い桃の匂いもせず
渇きと
病に苛まされてきた
西の町から
彼女は船の看板に立ち
哀しい話している間
船と
港とを
カモメは
アルコールのダルさと
薬の副作用とに
苦しんで
笑ったように
飛び交っていた


タイタニック号は沈んだが
青年のペンは浮いていた

 


忘備の三行詩 3×100

  田中恭平


2015年10月12日(月)


#01

書くということは、記録するということだと
記録しておく為に
キーボードを叩いた。


#02

デイケアで私の画いたイラストに── Why Me?
と画いたら 或る女性は──Way Me? ってどういう意味かと訊ねてこられて
やりくち私?・・・私のやりくち?・・・とにかく卑怯なテクニックをもちいたイラストでした。


#03

或るサイトへ登録するとき、勇気が必要だったから
今日もあの人が私の部屋に来ないで、眠っていたのはよいこと
勇気が必要なとき、私は物を壊すので、あの人が壊れないで済んだ。


#04

椎名林檎の「丸の内サディスティック」を拝聴すると
毎晩寝具で遊戯するだけ、という歌詞が 毎晩シングルで忠義するだけ、と聞こえる。
私にとってはどちらでもさいわいなこと、のように感じられる。



#05

生きているなって常に感じるように、私はできていないけれど
死んでいっているな、というのは常に感じているような気がして
──神は死に、ロックは死に、お前はもう死んでいる、と又、売れない楽曲ができました。


 
#06

コミックスの「ソラニン」の一巻のラストで「ホントに?」って疑問の声が
種田に入ったけれど、これ、もしかしたらロバート・ジョンソンの声か?と思った。
私の中へ「ホントに?」って声は聞こえないけれど、ふさわしい暮しを営んでおります。



#07

日本人のメンタリティーに於いて、その最大公約数=最低水準である、と
自覚したらば、詩でも、詩歌でも、文学でも相当変わっていくと思うのですが
ペスト氏の英詩を読んで、先に行かれたな、と考え、中学生向け英語テキスト眺めた。



#08

0は無である。
−1も又一つ無いのだから無である。
0と−1の違いは、インターネットで調べるよりも、本を読まなければならないだろう。



#09

小学一年生から畑作を教えるべきだと思うのだけれど。
種を蒔く→枝豆が成る、たしか宮沢賢治の「春と修羅」の冒頭で、「因果」という仏教語が効果的に使われている。
そして枝豆をにこにこ食べた夏があって、秋は少しさびしい。

 

#10

詩誌「空想」の同人ということになっていますが、ことし発行予定の「空想」がでない。
しかし、私も「空想」サイト上の投稿板に品載せます、とコメントしつつ載せていない。
ことしは「あいこでしょ・・・」で、暮れるかもしれない。



#11

A5 C5 G5 F5 ×2
F5 C5 F5 C5
F5 C5 D  D



#12

ユース・カルチャーと商業主義とを嗅ぎ分ける、その正確な鼻をもつと
不幸になってしまうような気がするけど
なにもキナ臭くはないよ、という声は、天使のふりをした悪魔だと思う。


#13


あなたの為に生きようと思います。
と、書くことに飽きたので
あなたの為にカロリーを燃やしていくだけです。にしようと、ペンを握り直した。



#14


「今日の夕飯、なに?ラーメン?」 「トンカツ」
「えっ、ラーメンじゃないの」 「トンカツ」
「トンカツのったラーメンがいちばんだな」



#15


itunesで、レート(★)をつける、暇つぶしをしていると
ボブディランの「マギーズ・ファーム」へ、星いくつをつければいいのかわからず
いつも曲名の横が真っ白だけど、それはこの曲にふさわしいような気がする。



#16


愛ゆえパートナーを信頼し、電話をとる。
「田中さ〜ん、わたし、いま、どこにいると思う? 火星です」
万歳! 彼女はついに火星に到達できたんだ。



#17


九日、デイケアでの、Mさんのおはなしの会で、Mさんがその日、私がいないことを確認したらしい。
前回のおはなしの会、私はMさんに宮沢賢治の「やまなし」の朗読をねだったからだ。
「やまなし」は少し手を伸ばせば読めるけれど、Mさんの「やまなし」は二度と聞けない。


#18


パートナー「田中さん、絵本は見つかりませんでしたが、代わりに大量の下着が見つかりました」
私「それ、絵本のお姫様のとちがうか?」
詩と、おっさんギャグの近さよ。



#19


お金がないので、煙草の銘柄は250円のエコーである。しかし460円のマルボロよりもエコーの方がおいしい。
しかし250円のエコーより210円のバットの方がおいしい。
しかし匂いがキツく、要・別売りフィルター。世は、煙草も例外なくフクザツだ。



#20


「アメリカ人がネットで一番検索する単語、GODだって」「ワイアードとヘブンズ・ゲート勘違いしとるわ」
「ヘブンズ・ゲードどころか羅生門だよね」「羅生門、羅生門、醤油なことな」
「君、ネットで堕落したものね」「堕ちきったんや、あとはニュルニュルのぼるだけ」


 
#21
 

「マリアさんが神を生んだんだろう?」「違う、神といっても、神の子や」
「じゃあ、神がマリアさんと」「違う、パワーみたいなもの送ったんちゃう?」
「マリアさんの両親はどういう立場だろう」「だから、神さんとマリアさんの親御さんやろ、複雑なんや、マリアさんとこは」



#22


「言いたくないけど気違いって卑語あるだろう?」「気が違っちゃったってことな、おれや、それ」
「君だけど、キティ・ガイって可愛くしたらどうだろう」「なるほどな、キティちゃんのTシャツ着たおっさんな」
「・・・・・・」「おるな、原宿に、マイケル、西海岸から来た52歳とかな」
 


#23


 今日はよく書いた。さすが体育の日だけあった。パヒュームの「ポリリズム」が流れていて、あなたは踊っていた。
ポリリズムは複合拍子をさし、だから拍子の分だけ、パヒュームのメンバーは増え、あなたもメンバーのひとり。
ゼロ年代の、残響のような夢さめるまで。



#24
 

詩人よりも、芸人の方が、言葉のことわかっている気がする。詩人より劇団員の方が言葉を知っている気がする。
お金とか報酬とは別に、詩人は言葉を使っている。それは言葉に対する侮辱のような気がした。
底辺のとこで、言葉の力を信じていない。胸がさわいで、それがずっとつづいた。


#25


煙草を喫ってしまった所為か、睡眠薬の効きが悪くて、ノートパソコンを開いて、またタイプしている。
空を仰いだら、星は比喩が要らないくらいうつくしい。
ほんとう、比喩の要らないものすべて、それらはうつくしいのかも知れない。



2015年10月13日(火)



#26


「痴れ者夢をみる」というけれど、本当のことなのだろうか。
 しかし病が酷いとき、とても生々しい夢を毎晩見ていて、床に就くのが怖かった。
 今朝、夢をみなかった。



#27


税金を多く納めていた方が、立派だと思っていたけれど
税金を少額でもかえしてもらった方が、賢い、ということになりそうだ。
私は立派と思われるのも賢くあるのも目標にしていないけれど、熱心「軽減税率」について、新聞を眺めた。


#28


今朝はしずかなので、ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を聞いた。
「十代の魂のような匂い」、嗚呼、うつくしいタイトルだと思っていたけれど
「ティーン・スピリット」っていう制汗剤が存在すると知って、ロックのお家芸で、意図はない歌なんだろう。



#29


どこでもないってことは、あらゆるところで、ってことだ。
なんでもないってことは、たくましい、ってことだ。
英語の歌を聞きはじめて、言葉の裏口を見つけるのが、たやすくなったような気がする。



#30


冷えるので、お気に入りの灰色のカーディガンを出して羽織った。
以前、煙草でやってしまったのか、左の袖に穴が空いていた。
今日、デイケアのメンバーに言われるな、と思っていたら、言われた。普遍性とは、煙草でやったカーディガンの穴だ。



#31


まだデイケアへの出発までに時間があるので、ネットのトランプ占いをしたら
今週を暗示するテーマは「誤解」であって、嫌だな、と思ったけど
私は愚かだけど、めちゃくちゃ賢い人に見られる誤解もあるだろうから、良しとした。



#32


「しかしなぜ、太宰は芥川賞とれなかったのだろう?」「太宰は、或る阿呆の一生、をずっと自己バージョンで書いてたようなものかな」
「いや、でもちょっと明るい作品も書いていたよ」「川端康成に懇願しても、落ちたんだろう?」
「正直、芥川より太宰の方が文章巧いよな」「だから落とされた、というので合点いくな」


#33


きみたちがいて僕がいる
は、チャーリー浜だったろうか?
この詩があって僕がいる  チャーリー浜に勝てない



#34


いただいた命だ
かえすなら命をかえす
そのやり方は、死ぬことでない



#35


墜落は仕方ないけれど墜落はいけません
ダラク ハ シカタナイケレド ダラク ハ イケマセン /ツイラク ハ シカタナイケレド ツイラク ハ イケマセン
ツイラク ハ シカタナイケレド ダラク ハ イケマセン/ダラク ハ シカタナイケレド ツイラク ハ イケマセン



#36


いま、お金があるから、言葉が書けるのだけれど
言語がないから、金(きん)が必要になったのであろう
貨幣制度をばら撒いた英国人が、文献の中で批判されつづけるとは、皮肉が効いているね



#37


マイナンバー宝くじ
紅白歌合戦の途中おこなう
景品は詐欺を考慮して松坂牛など地域特産品にする 紅白が視聴率とりかえし、地域広告になる



#38


考えない方がいいよ、とよくいわれるので
なぜ考えない方がいいのか、と
考えてしまうひとと、今日もすれ違ったのでしょう



#39


二日目にして、三行詩は理屈っぽくなってきていますので
三行目は絶対に モーレツ清掃員 にします
モーレツ清掃員



#40


東海道中膝栗毛も好きだけれど
上方落語の方が好きだ
喜六と清八はどこも旅しなかったから、あらゆるところにいたのだろう



#41


主語を消して詩を書いても、どうしても自分が滲んでしまうので
三行目に主語だけを書き置いてみようと思います




#42


ここです(→「 」)
ここにパソコンのウィンドウの染みがあったのですが
一行書いたらなくなりました 報告終わり



#43


「ムラカミハルキが、もしノーベル賞候補にならず、ネット小説家になっていたら、とか
 やっぱりワイアードの夢は、残酷過ぎるかも知れない」
「現実だってあんがい、こころの中を歩いているようなものだよね」



#44


 もし、あなたがプリンターとライターと水のたっぷり入ったバケツを持っているなら
 この詩をプリントアウトして、一番近くの路上で燃して消火しなさい
 (オノ・ヨーコ、いまいくつ?と思った方は、ウィキペディアでオノヨーコを検索しなさい)



#45


いきつけの床屋の親父さんまで
ゼロ円スマイル・サービスはじめたなら、その代わり
マクドナルドで煙草喫わせてほしい。ゼロ円スマイルが郊外潰しています



#46


明日、職業安定所へ行くと予定していましたので
明日、髪を切りに行くと予定していましたが
明日は十四日、そもそも散髪代が、十五日の年金支給日にならないと頂けないのでした
  

#47


「なんとなく、クリスタル」は最初、読む気が起きなかったが
なんとなく「滝川クリステル」の数枚の画像を眺めるだけで、読了できるという凄い小説だった。
人が読んでいないのに読了できる凄い書籍にほか「ジム・モリスン詩集」がある。


 
#48


 ネット詩人、ペスト氏はベスト氏ではない。
 英語にすれば一目瞭然である。Mr.Pest notequal Mr.Best
 英語にしないと大変に誤解することがこの世にはあるようだ。おやすみなさい。



#49


「望」という漢字を分解すれば、「月」を「亡」くした「王」である。
 欲望を指す英単語 「Desire」は 欠損を指す接頭語「De」を冠した「Star」である。 
 月、星を失った状態が、望むことであった。

 

#50


 煙草を喫うことは絶対忘れない。
 服薬することはときどき忘れるけれど一日通して飲めた。
 でも眠る前になると、何か、忘れている気がすることも、忘れている。


2015年10月14日(水)



#51


携帯電話が、メールを着信した(音)。
目覚めれば、いつもの天井のプリントの(柄)。
携帯電話を開けて、メールを眺めれば(言葉)。



#52

 
中島らもが「大麻より煙草の方が旨い」って言っていたらしい。
不味いものは禁止されて、旨いものは合法化されたのではないか。
2015年、郊外の、朝の空気は不味いから、郊外が禁止されるかもしれない。



#53


2ちゃんねるの「煙草板」のぞいたら、みんなどうやって煙草やめるか書きこんでいる。
詩のサイト、現代詩フォーラムの作品を少しずつ読んでいるけれど、多く「現代詩」でない。
現代詩を書いてほしい。



#54

 
ザ・ビートルズの「ハピネス・イズ・ウォーム・ガン」という曲が好きで
ブローティガンの詩も、読んでいてさいわいになるから、「ハピネス・イズ・ウォーム・ブローティガン」。
あたたかいブローティガンは、お風呂からあがった後か、酔っています。

  
 
#55


日本で「バンバン」というと「ビリー・バンバン」である可能性が高い。
「GOD」の語を反対にすると「DOG」だが、「DOG」が柴犬である可能性は低い。
「神」の語を反対にすると「みか」だが、現在、これが「中島美嘉」である可能性は割と高い。



#56


右翼でも
左翼でも
どちらか翼を失ったヒコーキは飛べない。



#57


ニュースショウを観ているが、芸術を越えているのかもしれない、とすら思う。
「運が悪かったですね」
と表現する為に、CGまで駆使している。



#58


昼は、うがち過ぎる私であった。
 鯛鮓や一門三十五六人 子規
三十五六人、に、勝手、のちの夏目漱石が加えられていないかと。



#59


自動販売機の前に二人
「きみに、缶コーヒーをおごりたいのだけれど
 お金を貸してくれるかな?」



#60


自由ヶ丘の書店でフーコーを立ち読みして、書いてあることを知ったひとと、わかったひと。
知ったひとは自分は 不自由ヶ丘 にいるような気になるかもしれず、
わかったひとは自分は どこにもいる ような気になるかもしれない。



#61


けちであるということは、お金に対して嫉妬しつづけていることか。
断ちきるか、独占した方がいいのか。独占を結婚といいかえるならば
私は生まれる前から、お金と結婚していて、見捨てたり、裏切られたりして、けちしてる。人が虫になるのも無理はない。



#62


三人で会話していて
「大貧民」と「大富豪」が同じゲームだと知って驚いた。
「呼称はどうあれ、人はみんな死んでしまうからね」と言って、知ったかぶった。


 
#63


会話していて、自然
「おれが死んだら、その先には何もない方に命を賭ける」と言ってしまって
 リスク・ゼロだ、失敗した、と思って、どうじ、命がなくなって、かつ命を賭けられた世界があった?できた?


 〇死亡確認の男性、検視直前に覚醒で大混乱に インド

【AFP=時事】インド・ムンバイ(Mumbai)で、死亡が確認されたホームレスの男性が、検視台の上で目を覚まし、検視を始めようとしていた病院の職員らを仰天させる出来事があった。地元当局が13日、明らかにした。

 警察によると、氏名不詳のこの男性は11日午前、意識不明の状態で発見された。さまざまな感染症を患っており、病院に搬送された。

 AFPの取材に応じた地元警察幹部によれば、公立ロクマンヤ・ティラク総合病院(Lokmanya Tilak Municipal General Hospital)の医師が男性の死亡を確認し、「遺体」は検視に回された。だが、「検視を始めようとすると男性が目を覚ましたため、大混乱となった。その後、医師たちは私の部下から死亡証明書を取り上げ、破り捨てた」という。

 一方の病院側は、ミスが起きたのは警察のせいだと述べている。同院の院長によると、警察はナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相の到着に備えた警戒措置に追われており、同病院の医師らは、病院の外の路上で男性を診断するよう頼まれたという。

「警察は一刻も早く、首相の警備に戻りたがっていた。屋内での診療が許されていたら、うちの職員もちゃんと診断できていただろう」と院長は語った。



#64


ポケット・モンスターは発売されて、すぐ買った。お婆ちゃんにねだって。
僕がリザードン、レベル100で、四天王と闘っているとき、みんなトレーナー・バッチ二個位しか手に入れてなかった。
マスターボール、四天王のとこクリアすればするだけ、貰えるものだと思って、テキトーなポケモンに使っちゃったんだよ。



2015年10月15日(木)


#65


文字の入ったTシャツはいまでも需要あるらしい。
助けてほしいひとは助けてって書かれたTシャツ着て、助けたい人は助けますってTシャツを着よう。
──「俺の背中に助けてくれって書いてあるのか?」(映画「グッド・ウィル・ハンティング」より)



#66


図書館の本を返しそびれている。
返却カウンターに本を出して去っても
本は頭の中に置かれたまま。


#67


断酒六年になった。
 酒止めようかどの本能と遊ぼうか 金子兜太
お酒を飲むのは一つの本能であり、業ではないことをわかって、救われた。



2015月10月16日(金)



#68


国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
私は自叙伝を書きたいとずっと思っている。
生前の長い無を抜けると私であった。 でも抜けたときを覚えていない。



#69


良識はけっこうだと思う、
しかし、それをかいくぐるものではなければ
他にかいくぐったものの撒いた、悪を知れない。



#70

 
──温かく見守って頂けたなら最わいです。
──最わい? 私は辞書を開く。
幸い、という字を知らない者同士、付き合っている。



#71


「こころをなににたとえよう」「ねぇ、何で眠らないの?」
「眠らないんじゃなくて、眠れないだけなんだ
 だから薬を含んで、眠れるようにするんだね」


 
2015年10月17日(土)



#72


「今は面白くないけれど、昔
 覚醒剤打たないで、ホームラン打とう ってコピーあったんだって」 
私は、覚醒剤打って、バンバンホームラン打っているひとを想像した。



#73


彼女は、こどもっぽいことを嘆くより
こどものままで
口紅を塗る。



2015年10月18日(日)



#74


露伴を読みながら橋を渡り帰路をいくときも
パートナーとサイゼリヤで安すぎるピザを分けあって食べているときも
こころの桶が コンッ、と鳴る。



#75


「その話は忘れているよ。気にしないで
 感謝したいよ
 忘れることは、一つの幸せだから」



#76


「あっ、かわいい赤ちゃん、赤ちゃんが欲しいな」
「ああ、かわいいな、スーパーで買ってくるか」
 すると、空から天使が下りてきて、女性は受胎告知を受けた。



#77


腕時計を外し、宮沢賢治コレクションをひらく。
第四次延長の中へ腰をおとすとき
時間は無視されなければならない。

 

♯78


夜の縁側に立っていたら
鶏頭の目が、私を見つめていた
私は白い両手で、己の目を覆った



2015年10月20日(火)



#79


カタカナはカタク
ひらがなはひらく
漢字は、日本語の中で、息が詰まりそうになっている。



2015年10月21日(水)



#80


昨晩、ジミヘンみたいな味のカレーを頂いた。
やっぱり、胃が荒れている。
E9thを孕んだまま、秋日の下をふらふら歩く。


 
2015年10月22日(木)



#81


弛緩した身体の波へ
身体は乗り出して、──果て、燃される。
身体は分子となり、秋の夜の中空を更に進んでいく。



2015年10月24日(土)



#82


ギターは死んだ木だが
死んだ木はギターではない。
私は人間だが、人間は私ではない。



#83


汚い言葉、知っているよ──カート・コベイン
汚い言葉、知っているよ、嗚呼、とてもうつくしい言葉。
きれいな言葉を書き連ねようとするのは、虚栄心でしかない。



2015年10月27日(火)



#84


笹のふるえは心臓のふるえ。
急がなければならないか、は竹を見つめていればわかる。
急がなければいけない、と考えつつ、縁側ずっと秋日浴びていた。



#85


読む、という行為は封印をとくこと。
過去 という言葉が過去に書かれ、過去にあるままの
未来 という言葉も過去に書かれ、過去にあるまま。



2015年10月28日(水)



#86


私は毎秒生まれ変わり
年齢は数字でしかない、しかし
亡くした祖母の思い出が、今年も疼く十月の終わり。



#87


「何を読んでいるの?」
「言葉だよ」
「ワイセツな言葉、よね」



#88


神無月になったら
神さんがいなくなるから(このからだからも)
私は、私の言葉を書けるだろう



#89


人間は意味する存在
意味することは生きること
だから、今日も私は、雑巾を絞っている



#90


「野ざらしの」を上五において、俳句、一句創ろうと思ったけれど
野ざらし、なんて見たことがない。
見えないのか、隠されているのか。



#91


High(ハイ)になったまんま
天国までいってしまった奴を知っている。
僕は努力しつづけよう。地に足つけて。


 

#92


文は人なり──マルクス
暗喩に頼る私は、仄暗い言葉の海に於いて
水母に夕餉だと出されたカレーライスへ、日章旗を立てた。


 
#93


サルスベリの花びらと、煙草の灰と
白い陶器の灰皿のなか
お互い、形を失ってしまった



#94


眼は、ただの目だった。
何も、視えていなかった。顔に、はりついていただけだった。
思い出せば、哀しみがやさしく包む。ポケットが一杯だったころ。



#95


不安だったので、てのひらに「デパス」って書いて飲み込んだ。
「理由のない不安、であること」が
不安の原因であることが多く、缶コーヒー握りしめて立つ。すると秋風。



#96


夢は終わった、ってジョン・レノンは歌っていた。
僕は千円札をポケットに突っ込んで、原動機付バイクで急ぐ。
僕たちの夢は、外食産業だよ。平日、ガラガラのサイゼリヤだよ。



#97


これはまことに自惚れるようですが びんぼうなのであります (山之口獏)
という詩が、ブックオフで四百円で、叩き売りされているのは
ふさわしいような、むしろ、グッとくる。


#98


楽しいことは少ない。だから、急がなくちゃならない。
言葉は何度でも読める。だけど、ロック・ショウは一回きり。
このセンテンスを読むのは辞めて、ライヴ・ハウスに電話を掛けて。


#99

ホームズがワトソンに電話を掛けた。ワトソンがホームズに電話を掛けた。
残念なことにお互い、通話中だった。
ホームズはワトソンと通話していたし、ワトソンはホームズと通話していた。



#100


この三行詩も、100回、300行で終わろう。
次に詩を書くときは、もっとやさしいことを書こう。
ごめんね。罪人なんだ。詩じゃなかった。正確な冗談ばっかり、書いてた。


#05

  田中恭平


This is a pen.
そう
これは、This is a pen.
おれの握っている物は、ペンなんだよな


当たり前のこと
それが、間違っていないことに
慄いてしまうようになった


病院の敷地を、超境することは
毎晩、ギターフィードバック・ノイズと
ガナりと
餓鬼への挑発で
──超越していたから
さもないことだった


はじめて
ギグを見にいって、夜更けまでねばって
テキトーにジャムってるロッカー達を
眺めているときは
さいわいだった
火のように熱かった、──感興!


「おい、そこの餓鬼、観てるだけでいいのか?
 ギター貸してやるから、ジャムってみろよ」
「ああ、ぼくが弾くと、ジャムのレベルが下がりますから」
  謙遜して、そう答えると、今度は随所から
「そりゃ、そうだわなぁ」

死にてぇ、って
常々思っていたつもりだったけど
ほんとうに死にたいと、思ったのは
それが最初か

でも

当たり前に死にたい
と思うことが
──間違っていないこと、
それは怖くないな


林を抜けて森を抜けて
白い患者服を脱げば
グラッジな、レッド・ネックスタイルで
くそロック・スターだ
くそロック・スターであるということだけで
病棟の外、喫煙所に行かせてもらえたら
逃げだすことは、容易いだろ

病院は、少し考えた方がいいな
皮肉屋
ゴシップに書かれた通り、おれは皮肉屋なまま
林を抜けて森を抜けて


クリス、

クリスをおもっているけど
クリスが、クリスであることは当たり前で、って
考えてしまうことは、さいわいだよ
はじめておれがマリファナを喫ったと
きみへ告白したとき
きみは、どんな顔をしていたっけ
悲しみの果て
何があるかなんて
おれは知らない
見たこともない
ただ、あなたの顔が、浮かんで消えるだろう、と
 ハハッ、
浮かばないな

また降下していくのか
わからない
おれは、他者ではないから


深夜テレビで、仏教漬けになったっけ
いま、落ち着かない
印税で買った、家のテレビを点けても
もう、仏教講座はやってない
まあ、ヘロインキメて悟るのと
苦行して悟るのと
それは、同じ悟りかな
悟る、って何か
わからないだけ、体がふるえる
存在する、
当たり前のことが
間違ってない、ってことが
怖くなって
怖いのは、救われないからだ
だからまた
血管へ針を射す
ツメタサ、
カンコウ、


This is a pen.
そう
これは、This is a pen.
おれの握っている物はペン
当たり前のことが
間違っていないことへ
慄きつつ
筆を走らせる
走らせた筆はころぶ
丁寧、抱えてやって
立たせてやって
また、筆を走らせてやる
背中を押してやる
筆の走りの速度が
わからなくなってきてしまって
ああ
時間の概念がなくなった



仏陀へ

これは明らかに弱々しい、幼稚な馬鹿の言葉だ
だから、理解するのは簡単だろ
何年もの間
パンクロックのすべての警鐘は
独立心
コミュニティーを、受け入れることに関係していた
いま その論理へはじめて入門して以来、ほんとうであったと感じるよ

おれはずっと長いこと
音楽を聴くこと
曲を作ること
何かを書くことに
喜びを感じなくなってしまった

ステージ裏へ戻って
照明がすべて消え
熱狂的な聴衆の、絶叫をもってしても
聴衆の、愛と崇拝を喜び
楽しんでいたフレディ・マーキュリーが感じたように
喜び、楽しみを感じることはできなかった

フレディ・マーキュリーみたいにできるのは
本当に立派で、羨ましいと思う

おれは、みんなに嘘をつくの嫌だ
ひとりも騙したくない
おれが考える、最も重い罪とは
百パーセント、楽しい、と嘘をつき
ふりをして
ひとを騙すこと

ステージへ出ていく前
タイムカードを押しているような気分だった



愛してる



間違いなく
それが、銃口であることに慄きもせず
銃口を
口に咥えた

銃口は
鉄の味がして、冷たかった

それは
当たり前のことなのに
間違っているような気がして
すこしだけ、笑ってしまった








※ロックバンド、エレファントカシマシの楽曲「悲しみの果て」より歌詞引用あり。
 しかし句読点を配し、厳密な引用ではない。
※カート・コベインの遺書より引用あり。訳は筆者に寄る。

 


#06 (冒涜)

  田中恭平

 


  郊外から、眺めることのできる「富士の山」も、十月十九日の初冠雪から、かなり積もり
 現在白いペンキを山頂へドバッ、とぶちまけたような、かくたるべし「不二の山」となりました。

 
  冬来たりなば春遠からじ、と言いますね。私はこの言葉を、季感を意味する言葉であると思っていましたが
 「今は不幸であってもいつかは幸せがやってくる」という意味なのですね。
 春も、夏も、秋も、常々冬来たりなば春遠からじ、といいましょうか。
 しかし、あなたの乗車しているであろう汽車は、きっと時間や、空間さえ無視したところへ到達していることでしょう。


  はて、季節、とは、時間軸の中に納まるものではない、のでしょうか?
 地球には、季節が一つしかない国もあるそうですが、それは季節のない国といえそうです。
 私はお金がないものですから、旅行はできません。日本は、ガラパゴスと呼称されていますが、つまりはヒキコモリ日本人で生涯を終えそうです。
 しかし季節のない国について知っても、行かなければわかりっこないですね。
 ヒキコモリではなくむしろ活動的過ぎたあなたが、パラサイトと揶揄される書籍を読みました。
 あなたをダシにして、現代のパラサイトたちを煽りたいのでしょうか。癒したいのでしょうか。
 私はパラサイトとして、少し声を漏らして、笑うことのできた本でした。ほんの一瞬、だけですが。
  人類全体が幸福にならない限り、個人の幸福はありえない
 しかしそもそも
 どこまでもいける切符はたった一枚しかなかったんだ。そうでしょう?


  すいません、嫌味に読めるでしょうか。
 いいや、私はあなたに常、感謝しているのです。
 人にはそれぞれ立場があり、あなたは人を越えて、動物や虫、植物、石にさえそれぞれの主張があることを知っていた。
 そして、わかっていらっしゃった。
 話は飛びますが、次の米国の大統領選で共和党党員から大統領が選ばれたらば、やはり戦争がはじまるのでしょう。
 わたしはわたしの幸福の為に、米国を応援するでしょう。
 そして、米国は、米国の幸福の為に他国を撃つ。
 それでいい、それでいいんだ。人が死んだ、としてあなたは
 その死を死人の幸福の内に、勘定するでしょうか。


 苦々しい独り言も書いてしまおう。唯脳論はどうなった。
 マヤ暦の、あの世界の終わりのカウントダウンは。暦は。世界の終わりは。
 皆、それぞれ、自分の世界しか生きていなくて。同じ「眼球」をもっていないかぎり。
 同じ「脳」をもっていないかぎり。
 等しい「身体」を持っていないかぎり。
 等しい・・・・・・かぎり。等しい・・・・・・かぎり。等しい・・・・・・かぎり。
 等しい世界に生きていないですね。





雲はちぎれてそらをとぶ
お日さまは
そらの遠くで白い火を
あたらしいそらに息つけば
ほの白い肺はちぢまり


まことのことばはうしなわれ
けふはぼくのたましひは疾み
たよりになるのは 
陰気な郵便脚夫のやうに
ほんたうにそんな酵母のふうの
くらかけつづきの雪ばかり



風の中から咳ばらい
あくびをすれば
そらにも悪魔がでて来てひかる
青ぞらは巨きな網の目になった


ほんたうに
けれども妹よ
けふはぼくもあんまりひどいから
二つの耳に二つの手をあて
喪神の森の梢から
ひらめいてとびたつからす
烏さへ正視ができない
あやしい朝の火が燃えてゐます
水の中よりもつと明るく


たしかにせいしんてきの白い火が
水よりたしかにどしどしどしどし燃えてゐます



いかりのにがさまた青さ
唾し はぎしりゆききする
はぎしり燃えてゆききする
立ち止まりたいが立ち止まらない
寒さからだけ来たのではなく
またさびしいためからでもない

電線のオルゴールを聞く
(ひとつの古風な信仰です)



これらなつかしさの擦過は
日は今日は小さな天の銀盤で
朧ろなふぶきですけれど
吹雪も光りだしたので
ひとかけづつきれいにひかりながら
四月の気層のひかりの底を
ああかがやきの四月の底を
そらから雪はしづんでくる


もう青白い春の 禁慾のそら高く掲げられていた さくらは咲いて日にひかり 
さくらが日に光るのはゐなか風だ
黒砂糖のやうな甘つたるい声で唄ってもいい


 まことのことばはここになく
 けらをまとひおれを見る農夫
 ほんとうにおれが見えるのか
 風景はなみだにゆすれ
 修羅のなみだはつちにふる
 ぶりき細工のとんぼが飛び
 雨はぱちぱち鳴ってゐる


いかりのにがさまた青さ
唾し はぎしりゆききする
はぎしり燃えてゆききする
立ち止まりたいが立ち止まらない
寒さからだけ来たのではなく
またさびしいためからでもない
おれはひとりの修羅なのだ


青ぞらにとけのこる月は
やさしく天に咽喉を鳴らし 春は草穂に呆け
うつくしさは消えるぞ


笹の雪が
燃え落ちる 
燃え落ちる


みんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ





PS.あなたの南無法華経して、書かれた物語に於いて
   しばし散見される浄土真宗のロジックにあたるとき、私の顔はほころぶのです。


   2015年12月02日(水)  田中恭平より





(注・途中、宮沢賢治心象スケッチ集「春と修羅」の「春と修羅」のスケッチ群より引用し、構成した。 )


 


#07

  田中恭平


二〇一五年十二月二日に、人間は考える葦なので、私の目は勿論、節穴でした。
一日は煙草ではじまる。ソフトパックに煙草が十一本。昨日、九本喫ったということ。
昨日の、九本目の煙草は、昨日で去るべき一本。今朝の一本目の煙草は、今日まずあるべき一本で。
火を点け、その火へまた、更に火を点け。それは人の感涙に対する、涙だったりするもの。
路上に、缶が転がっていて、缶は、寒の中に転がっていて、十二月の月間、缶は、寒の中に転がっていて。
沁みるのは、何ですか。水ですか、痛みですか。想い、書きつける為の、ペンのインクですか。
ともかく私は、縁側で煙を吹き、それは浄土へ届かないとわかっている。今朝は、朝陽が目をうるませて。
こんにちは、ニコチン。そしてポケットから出す、リボトリール錠。すこし、清い水でもって含んで。
ピンッ、と、唇が水の冷たさに切れ。血は、智とならず脳の報酬系に訴え、私は出血を笑ってしまいます。
おはよう、おはようと、すべての神経に訴えようと、もう一本分エコーの煙を含みます。


あなたは、スクランブル・エッグの、スクランブル交差点を渡らずに立ち止まり。こころはどうしている?
こころを、フォークで突けば、やはり冬のフォークの冷たさ。両手で覆った両耳の端も冷たい。
言葉が、耳へ挿入されないのが救いで、周囲の人はみんな黙している。ノイズはあなたに加害する。
周囲の人。父親、母親、兄弟、ペット。そこにいても、非在であったとしても、みんな黙している。
そんな朝にも慣れてしまって、スクランブル・エッグを平らげるに、黙々、フォークを動かす。
あなたと、周囲の人みんな、とに疎通はない。孤独という自由はあっても、息を深く吸い込むことができない。
あなたはスクラングル・エッグを平らげ、「いただきました」と告げる。しかし言葉は返ってこない。
寝室に戻り、ノートPCを開き、詩のサイトの詩を読み、家族関係に、呪われている人の詩を読む。
読んだ詩は、家族を称え、感謝しているのだが、あなたは呪いを念じ、書かれていると、かんじてしまう。
スクラングル交差点を渡らないまま挙手をして、しかし、何を口から発すればいいかわからない。


私はエコーをジュッ、と水で火を消して、吸殻を、ガラス・ケースに詰めると縁側から寝室へ戻る。
楽しいことは少ない。楽しいことは、この世のダイヤモンドだ。八千円そこらのギターを抱える。
音楽は数学であり、ギターはパズル・ゲームであった。録音機の電源を入れ、RECボタンを押す。
譜面はなく、あったとして、読むことができない。パズルに解答は不要だ。解答があっても答えは私が決めます。
今、という言葉を書いても認識するときそれは古い。い・ま、の「ま」を書くとき「い」は過去にある。
今を追いかけ、指を動かし、今を追いかけ、指を止め、静かに音律は脳を、溶解させていき――――ピンッ!
パツッと、ギターの弦が切れ,頬にアタり傷をつけ、私はその出血を笑ってしまいます。
ち、が、見えますか。ち、が見えますが、血は、皿の上に乗った、小さな点です。
調子の悪い腕時計が二本、デスクの左端に置いてあります。彼らの蛍光灯の数字、鈍く、光り。
共鳴しているのは、時計の盤上にない「13」の数字。それはどこにあるのかと、少し窓を開ける。


オハヨウゴザイマス、タマカワサン、イラッシャイマセ、モウシワケアリマセンデシタ、タマカワサン
タマカワサン、オソレイリマスガ、ハイ、カシコマリマシタ、タマカワサン、ショウショウオモチクダサイマセ
シツレイシマシタ、タマカワサン、オマタセ イタシマシタ、アリガトウゴザイマシタ
マタオコシクダサイマセ、あなたは十の言葉のくりかえすにつとめる。鏡の前。
オハヨウゴザイマス、タマカワサン、イラッシャイマセ、モウシワケアリマセンデシタ、タマカワサン
タマカワサン、オソレイリマスガ、ハイ、カシコマリマシタ、タマカワサン、ショウショウオモチクダサイマセ
シツレイシマシタ、タマカワサン、オマタセ イタシマシタ、アリガトウゴザイマシタ
マタオコシクダサイマセ、あなたは十の言葉へ身に浸す。トイレの鏡の前。タマカワサンは多摩川でした。
退社の時刻となり、あなたはオフィスを出て、少し歩いて東横に乗り、東京方面に向かった。
多摩川は暗く、あの夏の、夕焼けに栄えるうつくしさはなく、恵比寿で下りれば、そこは明るかった。


私はライヴ・モニターを通して、夜の郊外をさっさと見ている。ライヴ・モニターはこころでした。
スーパーマーケットの前、365日、朱い風車を吹き回しつづける、初老の男を越えて、北進する。
枯れそうな、鶏頭花の頭には目がついている。目は瞳となり、瞳は眼となった。無視して進む。
風がつめたいのは、こころが冷たいからだと思う。コンビニが明るいのは、こころが明るいからだと思う。
トリスのあたらしい瓶を買い、古くなった体へ少しながしこむ。喉から胃までを、すこし燃やして。
胃も、こころのシニフィエに過ぎない。血管も、弛緩する体も、やられる脳も、こころのシニフィエに過ぎない。
寒椿も、落ちた葉も、葉の先よりこぼれる露も、月もこの雪も、すべてこころのシニフィエに過ぎない。
強い父も、賢い母も、やさしい姉も、頭の良い妹も、飼い猫も、野良猫も、野犬も、あの初老の男も。
現実は、こころのシニフィエに過ぎない。だから私は白いこころを吐きつつ、こころを踏みしめて、歩く。
嗚呼、しかしライヴ・モニターにノイズがまじって、鶏頭花の眼が、ゴロリと落ちた。


あなたはほろ酔いで帰宅して、やはり言葉のやりとりのない家のキッチンで水を飲む。水は美味しかった。
昨日、ほろ酔いで帰宅して、言葉のやりとりのない家のキッチンで水を飲んだ。水は美味しかった。
一昨日、ほろ酔いで帰宅して、言葉のやりとりのない家のキッチンで水を飲んだ。水は美味しかった。
変わらないことは、素晴らしいことだよ、と、スクランブル・エッグは、多摩川は、伝えてくれたような気がした。
変われないことは、素晴らしいことだよ、と、スクランブル・エッグは、多摩川は、伝えてくれたような気がする。
変わらないことは。変われないことは。どちらも、等しい意味のことに思えるけど。
変わらないあなたは強く、変われないあなたは弱かったので、あなたは椅子に体をくずし黙した。
あなたは確かな足取りで、鏡の前に向かった。コンバンハ、タマカワサン、と鏡に向かってニコリと笑った。
じっくりと愛着のある髪を眺め、でも、変質を加えたいんだよね、と鏡の左側の棚を開いた。
次の日、オフィスのあなたの髪の色はショッキング・ピンクだった。カワリマス、タマカワサン。


私は歩きつかれて。青いベンチに腰掛けて、ベンチの上に、トリス瓶と、鶏頭花の眼球を置いた。
黒い夜は、漆黒の夜となり、そして星冴え冴えとして、私は体を楽にして、天体を楽しんだ。
そして、チラと鶏頭花の眼球へ目を向け、この眼球をじっと見つめた。そして下を向いた。
思考する。ポケットから煙草を一本取り出し、ハートに火を点けて。―― ハートは脳の報酬系?
まず鶏頭花は、花ではなかった。鶏頭であって、そして鶏頭は、ニワトリの頭部であった。
ニワトリの頭部だから、眼球がついていて、それはくり貫かれた。くり貫いたのは、私だった。
溜息と共に煙を吹く。わからなかったんです。やはり私の目は節穴でした。
オリオン、人間は、考える葦であるから、勿論、私の目は節穴でした。
ポケットから、ナイフが落ちた。ナイフに、血がついていた。胸がくるしい。
トリスの瓶を開けて、グビッと景気づけに飲む。山は静かで、煩いのは私の胸の内で、「ウルサイ、」と言った。


オハヨウゴザイマス、ブチョウ、イラッシャイマセ、モウシワケアリマセンデシタ、シナガワサマ
ハセガワサン、オソレイリマスガ、ハイ、カシコマリマシタ、ヨシダサマ、ショウショウオモチクダサイマセ
シツレイシマシタ、オイカワサマ、オマタセ イタシマシタ、アリガトウゴザイマシタ
あなたは、アア、あなたは、社会に順応してしまって、脳が腐らないように、気をつけて下さいね。
私は、時間も、空間も、人間も、そして労働も、その概念も知らず、ただ何かをしていただけだった。
何なのか。何かは、とおい記憶の向こうにあって、もう、それを見ることはできなくなってしまった。
休むことは知らず、眠ることはできず、ついに脳が腐って、あなたのようには、一生なれないだろう。
だから、哀しいほどにあこがれる。郊外に身を隠しても、自分がまだ、オペラ座の怪人だとでも思うよ。
沁みるのは何ですか。水ですか、痛みですか。想いを書きつける為の、ペンのインクですか。
自然公園の水は身に沁みて美味しい。帰って、また、正確な冗談書いて眠ります。トリスの瓶は空だった。


re:re:re:re:re:re:re:re:re:re:re:re
こんにちは。こんばんは、かな?久しぶりの連絡になります。御無沙汰です。
あれから色々あって、といいますか、何もなかったんですけど、会社辞めてしまいました〜〜(笑)(笑)
そしてやっぱり、会話のない家族ってつまらないじゃないですか〜〜。実家出て、一人暮らししています!!
寂しくないですよ、実は障がい者就労移行施設のスタッフしてまして、利用者さんにガンガン元気貰ってます!!
送迎バスが白じゃ、いかにも、でしょう?だから勝手にショッキング・ピンクに塗装しちゃいました〜(笑)(笑)
利用者さん「やさしいね、仏さんになるのか?」って冗談言うから、思い切って坊主にしちゃいました〜(笑)(笑)
なりますよ、私、仏になりま〜す!!色々愚痴読んで頂きましたが、理屈とか、もうどーーでもいいって感じ。
ああ、でもここは、静岡ですけど、時々やっぱり桜木町と、あと多摩川のこと思い出しちゃいますね〜〜。
夏の多摩川の夕方の雰囲気って、ほんとこころをうつものがあるんですよね。浄化されてました〜〜(笑)(笑)


二〇一五年十二月六日、携帯電話をパチンと閉じて、私は縁側へ煙草を喫いに出る。
一日は煙草ではじめる。外はまだ暗かった。ライターで着火すれば、そこだけ明るくなった。
あたらしい時、私は存在できるだろうか。存在は、ただそこに存在することではなしに。
何を話し、語り、伝え、書き、そして何する。そして私の世界は、変質し、変色するか。花のように。
昨日買っておいた久々のゴールデン・バットは美味しく、私は久々のこころを吹く。空が、少しずつ青く。
ポケットから取り出すリボトリール錠。清い水でもって含んで。冬なのに風はやさしく。
沁みるのは何ですか。水ですか、痛みですか。想いを書きつける為の、ペンのインクですか。
はい。沁みるのは、フラスコやビーカーといった透明なこころにハジける光の、その音です。
煙草の灰を灰皿へ落とし、私は、多摩川を通過する電車の音を、想起する。
庭の隅へ捨ててあった、ニワトリの眼が、それを見ていた。


 

文学極道

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