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匿名

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


(無題)

  匿名

僕はスキージャンプをしていた。大会だった。
坂のてっぺんから勢いよく下り、反り返ったジャンプ台を目前に緊張感が走った。
飛んだ。
風を薙ぐスキーボードと僕の身体が非常に鋭利に思えた。
着地だ。
着地した瞬間、僕の世界が輝いた。物理的にだ。
瞬間、誰かが言った。
「りんごと子供用のビールもどきだ!あれはいつも子供を馬鹿にする大人の仕業に違いない!」
僕は意識を失った。
目が覚めると見知らぬ光景が辺りに広がっていた。
僕は崖の上に立ち、下界を見下ろしていた。
世界には雪が降り積もり、下界には小さな木造の小屋と、藍色の海が有った。
僕は小屋に行かなければならない気がして、この断崖絶壁を下る決断をした。
命綱などない、正真正銘の命懸けだ。なんてダジャレを言いながら。
足場らしい足場もないのに、僕は苦なく崖を下っていく事が出来ていた。
不思議だ。
崖を下る途中に白い髭を長く伸ばした仙人の様な人と会った。
彼は小石としか思えないところに、つま先立ちで立っていた。
彼は笑いながら何かを話しかけていたが、僕はそれを覚えていない。
気が付いたら彼は居なくなっていた。崖も、下りきっていた。
小屋が目の前にあったので、入ろうとした。
だが、扉が開かず入る事ができなかったのだ。
そこでふと、僕はスキージャンプをしていた事を思い出した。
元いた場所に帰りたくなったのだ。
仕方が無いので海を歩く事にした。
崖沿いに海の中を歩き、向こう側に見える岸へと歩こうとしたのだ。
最初は膝までの水深だった。
段々と水かさが増えてきた。
腰までになった。
どれけだ歩いても向こう岸に届く気がしない。
崖沿いに歩いているのだから、道を間違える筈が無いのに。
振り向いてはダメな気がした。
気付いたら水かさは鼻の上まで上がっていた。
呼吸ができない。
死ぬのだ。
何故帰りたいのかと声が聞こえた。
「愛しているから」
そう答えた。
気が付くと僕はスキー場にいた
誰かが言った。
「りんごと、子供用のビールもどきだ!あれはいつも子供を馬鹿にする大人の仕業に違いない!」


(無題)

  匿名

そういえば、彼の者は阿呆であった。
いや、それは。

明け方の真冬というモノは未だに鬱蒼とした暗さに支配されているものだ。
吐き出す息の白さといったら、そこにのみ雪が積もっているのではないかと錯覚する程だ。
挙句、震える拳をどうにか鎮める事すらかなわないときたら、この苦痛をどうすれば良いのかとうとうわからずじまいである。
駐車場には今にも消えそうな柔い光を出す街灯が設置されている。
夏ならば蛾でも群れているのだろうが、今やそこには空しかない。
着込んだジャンパーの中には申し訳程度の温みを持ったカイロが入っていて、だがしかしそれすらも酷く頼もしく感じる程の冷たさを外界は発していた。

そうして、暫く歩いていると、ふと奇妙な物が目に写った。
蜜柑の木である。
何が奇妙かというと、そこに青い実がなっているのだ。
普通、この寒さでそのような光景に巡り会う事などありえないだろう。
なんだかとても不吉な事に思えて仕方ない。
極寒に実る蜜柑の果実。
アンバランスさに反吐が出そうだった。

有給を消化する為に私は昼間から布団の中で眠っていた。
昨夜、調子に乗って呑み過ぎたせいで帰ったのは早朝だ。
酒のせいであやふやな記憶の中でも、あの蜜柑の木の事はハッキリと覚えていた。
のっそりと布団から起き上がる。
ポストに溜まった郵便を取りに行くついでに、あの蜜柑の木を見に行こう。
何となくそう思った。
私はジャンパーを着込み、袋から出したばかりのカイロをポッケに入れた。


(無題)

  匿名

機械的機械的機械的機械的
メメント・モリ。或いは、シグニフィカント。
先天性の弁護は言うなれば刹那に於ける最終結論の発火、死してなお紡ぐベロニカの…。

曼荼羅は笑った。総数を奇っ怪な双曲線が表す意味の無い言葉の羅列。
淘汰されたは誰の事か。
申し申し、キャンディーの缶を耳に当てるワタクシ達。
空に浮かぶは我らが雷電!正に、世界システム!
今や哲学は思考実験に成り下がった。
脳みその電気信号はココロを定義した。
無限に広がり続ける極限を我々は構成している。
ならばこそ……。



蝉が、雪の下で鳴いている。

文学極道

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