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選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


駅前

  


たくさんの後ろ姿が笑ったけれど
その古い服はいつまでも真面目な顔をしていた
腐ったポットを片手に持って
駅前であなたを待っている午後

地から天へ魚の破片が流れる
呼吸をし損ねた丸い跡
見えているのは多分
わたしが欠点だらけだから


その透明なくらげのような言葉で顔を洗う
バイオリンの斜光
春と夏のあいだで歌う白い人
ふいに訪れる区切れを追いかける


フラフープの中で死を指折り数える
無理したピンクが世界から浮いて泣いているように
わたしも駅と駅の間で割れそうだ

その罅が現実を映せたら


急行に乗って帰ってくるはずの季節
酸素も無いその空白の穴の中で
乾いたお湯を流し続ける


昔のレントゲン写真を見れば
胸のかたちは何も変わっていない
偶然と鐘が泣くときに
足元にぽつりと雨が降る

意味は神様が食べてしまったけれど
少しだけ保温しておくよ
もう一度生きたいと思ったときのために


水の瞳

  


デッサンされたあなたの瞳は
粗い鉛筆の跡が残ったまま
冷たくこちらを見つめていた

それはデジタルで不整脈を思わせ
何度も外人の声が響いては回る


細かい網目の罠は台風のごとく襲い
思い出の障害が引き起こされる


あのフィルムには確か
海を知らないイルカと
空を知らない天使が写っていた


水の流れる音が
音符に成り得ようと
している瞬間だった


わたしは震える手で
鉛筆を握り
鬱病の人魚を描き出した


水は上から下へ滴り
わたしもそれに従って息をした
命が流れた光景は
天のがわに似ていた
もう生きてはいられない


その端のほうで輝く瞳は
デッサンしたあなたの目の片方だった
わたしは見つからないように
優しく宇宙のくずになる

密かに持ち出したレッドの絵の具を
あなたの周期に加える
いつか美しい太陽が現れて
わたしを忘れて
しまわないように


ほんのう

  


毎月二十日は
わたしの子供が流されるころあいです
月に叩かれ伸ばされるままに
天球の中をぐるぐると周るころあいです


わたしはより一層裸になり
ぼやけて見えない幽霊の粒に触れ
過剰に気持ちが湧き立ちます
触れた部分は乾燥し
あまのじゃくな粉が飛ぶ
性を含まない花粉の旅立ち


あの人は未だに駅で待っているだろうか
無言の手紙が三日置きに来ているけれど
素敵なお母さんなら周りにたくさんいるわ
わたしはもう半分以上 魚になってしまったから


今夜ばかりはふるさとの
大きな川が恋しくなります
だからわたしは三合炊ける
すいはん器を抱いて眠ります


肌色の海のなかを
ゆっくりと旋回し
季節はずれのカーネーションを咲かせる
たとえ一人でも 独りでも

文学極道

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