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前田ふむふむ - 2013年分

選出作品 (投稿日時順 / 全15作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  前田ふむふむ

 

ふかくふかく沈んでいく
ひかりが ひとつひとつみえなくなり
一番遠くのほうで白い水仙がゆれている
たびたび あわがすこしずつのぼっていくと
呼吸していることがわかる

鐘のおとがきこえる
まるで葬祭のように
悲しい高さで 眼の中にしみてくる
焼けるような赤い空が
野一面をおおっていて
たぶん こころのやさしい人が
世界を手放したのだろう

おびただしいあわがみえなくなると
透けるような肌の少女が
ラセン階段を昇っている
そして降りている
流れるみずを境にして

脂ぎった手で窓をあけると
言葉の破片が流れていく
それは、やがて雪のように
誰も知らないところで
積もっていくのだろう
数世代前の
胸に真っ赤な花を咲かせた先達は
他者の声をきいたというが
わたしにはきこえない

青白い指先にあたたかな
質量がともる
この心地よい場所は
陽光の冷たさをすこしずつ
なじませていくのだろう

ふかくふかく沈んでいく
そのなかを
ひばりが旋回している


かなしみ

  前田ふむふむ



               
夕日が地平に没しても
なお 街々の西の空が
かすかに明るみをおびている
足を止めて
やや赤みがかった
仄白いものを
見ていると
無性に泣きたくなってくる
そのかなしみは
わたしの影だ

      
あの明るさのむこうでは
花も木も風も
声をあげることはない
生きた足跡を
否定されて
泥のように 沈んだものたちが
ふりかえっている
そして
冬のイチョウのように
ざわめきもせず
なんの弁明もなく
清々しいほどに 立っている
そのまなざしは
わたしの影だ

わたしが
傷口を嫌い
捨ててきたしがらみ
無為に
置き忘れてきた
ふるさとの声
手にすることが
できなかったものにたいする
後悔と羨望
それぞれの来歴が
なつかしそうに
手を振っている
その姿は
いつまでも
わたしを引きずっている

たぶん
父も母も
わたしもあそこにいるのだろう
そして家族と親しく
夕餉を囲んでいるのだろう

直視するには
神々しいものを
見送るような
測れない大きさになって
しかも穏やかだ
わたしは
夜の先端で
影になっている

戯れる
海の波が引くように
その
心地よさを
受け入れて
わたしという途方もない
ものから
逃れるために
わたしは
仄白い空を見て
涙ぐむのだ



   


顔についての三つの詩

  前田ふむふむ



怒鳴る男

 
           
ひどい罵声が飛んでくる
いきなり物が飛んでくる
わたしも避けながら 投げかえそうとする
むこうでは 言葉が渦を巻いていて
次の言葉が 今にも襲いかかろうとしている
よく見ると 無精ひげを生やした
青白い顔の男が
喚いているではないか
わたしは余りにうるさいので
その男にたいして
反撃して 怒鳴りつけた
すると 歪んだ醜い顔は
さらに顔を歪めて
怒鳴っている
涙をいっぱい溜めて
そんなに悲しいのか
そんなに辛いのか
鏡に映っているわたしの姿は
惨めで 悲しかった
この世の中が
忘れ去った男の
最も愛する人が死んだのだ




一方の始まりから
終焉にむかう 
わずかな直線のなかに
仮面をかけた顔はある

わたしは
正直にいえば
ほんとうの顔を知らない
疑りながら
被っている仮面をみて
渋々納得しているのだ

そして
問われると
普段の顔は
いつも仮面をかけていて
カメレオンのように
そのときのこころの色に
染まるのだと
答えるだろう
ときに 微笑ましく
ときに 激情的に
ときに 陰鬱に

でも実を言えば
確かめずにいられないのだ
だから
わたしは
誰もいない
一ミリの剃刀も通さない
厳粛な場所で
夜の 
神もふかく眠るとき
ふるえる心臓の高なりとともに
仮面の下の
おぞましい顔を見るだろう

そのとき
わたしは
鏡をみて
鏡のなかの顔は
すでに仮面をかけていることを
知るのだ
ときに青く
痩せほそった病人のように
    弱々しく
ときに黒く紳士のように
     気取っているのだ

そして
誰も 仮面の下の
顔を見ることはできないと
公理を立てるのだ

でも
欲望に終わりはない
きょうも
この世界のどこかで
野心にみちた
若い
物理学者が
ひとり
仮面の下を見ようと
実験室の奥ふかく
神話の階段に
足をかけている


誕生    3.11に寄せて    

離別すること
それははじまりである
丸い空が
しわがれ声をあげて
許しを乞う
そのとなりで
友はしずかに
そして
激しく雨になる

空がにわかに
なまりを
たくわえてくれば
きみの来歴は
砕かれた壁の
内部に
雨とともに
刻まれるだろう

朝焼けのとき
こわれた水面を
きみを
称える
いくえの書物が埋めている
その紙のうえを
船が出港する

広がる波跡に
ひとはあつまり
ひとは散り
やがて
すこしずつ 足の先から
道ができ
新しい顔をもった
きみは生まれるだろう


蒼い思考

  前田ふむふむ

       
     1
                   
凍りつくような寒い夜である
沈んでいく 冬の街灯のひかり
ライトの下 くすんだ羽毛ふとんに覆われた あどけなさの残る 
少女のような女が ビルの脇で横たわっていた 透けるほど白い頬
 凍るかぜがふとんを叩いた 女は冷たい息を弱く吐いて うすく
開いた眼は 遠く来歴をみているようだった 路上で寝る女を見る
のは はじめてだった 未知の感覚を 母に話したら 不幸を呼び
こむから やめなさいと諭された 拒否した母の声から 少女のよ
うな女が流れている 柔らかな乳液のように

     2

雨が降ってきた
冬空がざわついている
こんなとき わたしの安閑を
破って それはやってくる
わたしはいつから薄光に揺れる塔を
意識しはじめたのだろうか
場所は全くわからないのだ
それは存在として
高くいつまでもあった
あの塔について考えることが 
わたしの命題として
いつも手の汗のなかに 狭い眼窩のなかに
あって その感触を忘れないことが
わたしの役割でもあるようだった
その塔のうえには 
無謬性のひかりの場所があって
一本のハクモクレンが
咲いているのだ
わたしは夢中になって
そのことを父に話したが
父は黙って壁のように立っていた
     3

父は家族が買いそろえた
白い羽毛ふとんのなかで
夏を待たずに死んだ
大きなあじさいの絵がかかった部屋には
羽毛ふとんがない以外に
何も変わっていない
たびたび その部屋にある
漆塗りの仏壇に線香をあげると
父がすぐうしろに座っている感覚が
からだ一面にひろがり
ほそい芯で灯っている胸に
父の視線が突き刺さってくる
夕暮れのような視線
心拍が激しく血液を流れて
わたしのからだは 殻におおわれた

     4

雨はやんだらしい
あれから梅雨のまんなかで
泣くのをやめたのだ
夜は静かになり
新しい羽毛ふとんをしいている

仏壇の鈴を鳴らすと
眼の前の
ロウソクが揺れている
そうだ
なぜ飛んでいるのか
わからなかったが
今思えば
あの塔を守るように
あたりを監視する飛ぶ鳥の群れを
もうずいぶんとみていない
毎日 飛んでいた空を 
燃やしているような 
ロウソクが 
やがて消えると
あたりは暗くなり
わたしは 座ったまま
白い羽毛ふとんに包まれて 
眠っていった

     5

背中のほうから 湿った呻き声が聞こえた ベンチで まどろんで
いたわたしは 寒さですくんだ手を口にほおばった 街灯のあかり
が ゆらゆらと眼のなか一面に泳いでくる ビル風がうずを巻いて
くる 禁煙 と書かれた看板が 無機的に貼られた公園で たむろ
している男の浮浪者たちが 鶏のようにたどたどしく動いている 
女が子を産んだらしい 透けるほど白い 少女のような女がタオル
を添えて 赤子を抱えているのだ 柔らかいいのちが 夜の冷気に
ひたり ふるえている なぜだろう 赤子の泣き声が聞えない 耳
のなかで砂あらしが吹いているようだ ひとりの浮浪者が壊れかけ
た電話ボックスで しきりに懇願をしている 他の浮浪者たちはあ
わてふためいている ぐったりと 地面に横たわりはじめた女の湿
った太股が あかりに浮かんでいる 傍らに 脈打つやわらかい白
磁のような赤子 鶏のような浮浪者が見守っている
公園に横づける 無音の救急車

    6

わたしはベンチから立ち 公園の門をくぐった
煌々と昼の顔をしたビルの電灯が いっせいに消えた わたしは大
通りにでて コートの襟を立てた ひとは歩いていなかった 塔の
ようなビルが断崖のように並んでいる でも あのむこうに いく
必要はないのだ それだけは わかるようになった いつからか 
そう思うようになった 少女のような女と赤子が吸う おなじ 空
気がとけて わたしのからだを流れている

耳のおくで ひとつ水滴が落ちた
わたしは寝返りをうった

 白い羽毛ふとんのなかで


透明な統計表

  前田ふむふむ

東日本大震災・死者・行方不明者数
            二〇十二年三月十日(警察庁資料)
 

死者 15854名
 宮城県 9512名 岩手県 4671名 福島県 1605名
 茨城県   24名 千葉県   20名 東京都    7名
 栃木県    4名 神奈川県   4名 青森県    3名
 山形県    2名 群馬県    1名 北海道    1名
行方不明者 3155名


      1

わたしは この数字を知ることはできない
むろん 死者にふれることもできない
さらにいえば 
死者の名前を呼ぶこともできないのだ

世界がどんよりとした空をはぎとり
彼らの出自を たんねんに訪ねると
彼らは すこしずつ色合いを際立たせるが
そうすることによって
彼らは ますます
かたく甲羅のなかに隠れるだろう

そして
記憶が老いて 地平線の底に沈むまで
限りなく
彼らの視線の高さで
一度も避けることなく
血のように
わたしをみているのだ

    2
    
そこにいる
眠れる数字を
アサガオと言おう
もし
それがアサガオでなければ
きみは誰だ

でも
アサガオにしては
蔓がない
葉もない
だから それを
なんと名づけるのか

アサガオだ
アサガオをアサガオと言おう
ほら
みずみずしく
赤い花を咲かせている
その花の名を


  3

これは数ではない
いかにも数を装っているが
実は肉体だ
そしていまも呼吸している
生きている肉体だ
その豊かな来歴は
真夏の森のようだ
仮に
それを数と捉えるならば
永遠に 
肉体をもつ
自分に会うことはできない


「 わたしの
眼のなかで
輝いている
一組の家族である
稲を刈る人たち

そのふむ土に
青く塗された
草は
セイヨウタンポポ
一面
夕日にむかって
繁茂している 」       

「 耳の中で沸騰している
熱気をあげて
海の
魚を待つ人たち

その市場を
通った
冷たい風が
だれもいない
街の
剥がれかけた
バス停の
時刻表を
ゆらしている 」

「 木棺のなかの
きみたちは
いつも
熱狂的だった
あたたかい血は
雨に
すこしずつ
冷やされて

小学校の
体育館で
片づけそこなった
椅子が
山積みにして
置いてある 」


「 それは切望の声だっただろうか
かつて
希望と安住の地であった  
川面に
身体を休めている
老いた水鳥の群れ

やがて
空に一羽ずつ
飛散する
皮膚を斬るような
声をあげて
世界の冬に
翼を
むけている

いくべき場所には
数字を
ひとつひとつ
背負っているだろう 」

   4
   

これは記録に過ぎない
ここに真実などほんとうにあるのだろうか
敢えていえば
ここに書いていないすべてが
確かなことだ
だから
わたしは
彼らに監視されているように
見られているのだ

それは
痛々しい数字に隠れている
空と海と大地と
その間にある
昼と夜のひかりと影だ


森の夢―古いボート

  前田ふむふむ

     1

青い幻視の揺らめきが 森を覆い 
緩んだ熱を 舐めるように歩み 
きつい冷気を増してゆく
うすく流れるみずをわたる動物は 息をころし
微風をすする夜に 眼を凍らせる
昏々と深みを低める いのちの破片が
夜の波に転がり
静かな夢の温みへ動きはじめる

     2

みずうみは 湖面を空よりも高く
持ち上げては ひかりの眼差しを
水鏡の四方にくばり
穏やかにわたしの躰を 透過してゆく
そのみずの透明なやすらぎに
涙を弛めているわたしの孤独なこころよ
今 永遠が爽やかに繋がっている

     3

青い時間の空隙を埋めるように
一艘の古いボートが湖岸で眠っている
かつては、恋人たちが乗り 愛を語り合い
親子を乗せて喜ばせただろう
今は 打ち捨てられて
船底には大きな傷口が開いて 
萎えた体液を溢れさせている

傷口は傷むか 悲しいボートよ
おまえは 今日も 
そこで朽ち果てたままで眠っているのか

時間の一ページが剥がされて
ゆらゆらと空を舞う
青い月を煌々と照らす夜が
翼を大きく広げて
美しい娘がおまえに乗って みずうみを流れてゆく
月に導かれながら 湖面をゆっくりと弧を描いて
時折 夜の気まぐれが 強い風を吹かせて
おまえは 勢いよく進むが
森の硬質な赤い血がざわめいて 風をたしなめる
ふたたび おまえはゆっくりと湖面を歩く
娘の 繊細な櫂の動きに合わせて
夜のとばりが醒めるころ
娘を乗せる 白い馬がみずを飲みに来るまで
おまえの優しい夜は、永遠を流れつづける
過去の鮮やかなページの中で

     4

名もない鳥が飛ぶ
  みずの音が、わずかに聴こえる
    みずうみは 森の靄のなかで 孤独に佇む

       
零落する秋が 枯野にとどまるわたしに
失われた遠いひかりを抱かせる
目覚めはじめる朝が 指先に立ち上がり
思わずわたしの鼓動に 微熱をあたえるが
砕けた夢からは 寒々とした流砂が 零れおちてゆく

美しくみずのように癒されたい

曲折する願望は 森のいのちを刻む
みずのたおやかな静けさを
わたしの 冷めた呼吸のなかに浸して
滑らかな岩を撫でる 清流の意志に身を沈める

森の戯れとともに沈む 眠りの空は
わたしの鮮やかな視野を 飲み込んで
森は 夢を もえる緑野のなかで閉じる

うすい陽だまりがうまれて
鶏が、忘れた鳴き声を上げる


三つの抽象的な語彙の詩

  前田ふむふむ

距離


       
凍るような闇に
おおわれている
もう先が見えなくなっている
わたしは手さぐりで
広い歩道にでるが
そこには夜はない

誰もいない路上
灰色の靴音を
ききながら歩くと
その乾いた響きのなかに
はじめて 夜が生まれる

街路灯が
わたしを照らして
影をつくっている
その蹲るようなわたしに
しずかさはない

わたしが影のなかに
街路灯のひかりを見つけたとき
その距離の間に
やがて
しずかさは生まれる

木々にとまる鳥が
眠りにつき
霧でかすみをふかめている
わたしは湿った呼気で
手をあたためる
そして
寒さに耐えるために
強く 公園のブランコにゆれるとき
わたしは ただひとり孤独を
帯びるだけだ

わたしの背に
聳えている街は
脈を打ちながら
いつまでも高々として
わたしを威圧して
夜をつくり
そして
しずかである


自由
            

名前をつける
無名の
草に
そして
草に眼があらわれて
顔が生まれる

名刺のように
空にも
海にも

白紙の便箋のように
無所属だった
街を闊歩するきみ
そして わたしも
顔をもつだろう

けれども
この個性をもつ
まぶしい世界に眩暈をかんじて
わたしは 仮に充足を
嫌ってもいいだろう
そして
名前を捨てれば
顔のない
盲人のように
その暗闇のなかで
すべて失うことを
感じるだろう

嘆くことはない
その真率な
しずかさのなかで
確信するだろう
世界が相互監視者であることを
やめているのを

そのとき
手さぐりで 
高々とした麒麟を撫ぜるように
くびのすわらない
赤子が母をさがすように
わたしはひとり
自由を獲得する


自分
      

雨が降っている
真夜中、階下の冷蔵庫が開いていて
あかりが零れている
男が冷蔵庫の前に
座りこんで前屈みになって
しきりに中のものを食べている

わたしは暑さのために
なかなか寝られず
みずを飲もうと
台所にいこうとしていたのだ

見ていると 男は手掴みで
まるで際限なく食べている
その血走った目つきといい
獣のようだった

少し近づき
よくみると
わたしが食べているのだ

通勤電車のなかで
吊り輪に持たれて
都会のありふれた景色を
窓越しに
眺めながら
そんなことを 
ふっと思い出したのだ

あれは昨日の夜のことだったと思う
そして あの生々しさから
あの出来事が決して夢なんかではないと
思えるのだ

でも見ていたのが 自分なのだから
あの男は わたしのはずがない
では
わたしでなければ誰なのだろう
鬼だったのか

考えてみれば
こうしている自分が
何の根拠にもとづいて
わたしなのだろう
他人は自分が思うように
わたしを見ていないはずだ
そう考えると 自分を
ほんとうのわたしなどと確信をもって
いえるのだろうか

もしかすると
みしらぬ世の中のどこかで
もう一人の自分がいて
ときに 得も言われない姿で
生きているのかもしれない

こうして街のなかにいるときにも
むこうから もうひとりの自分が
あらわれるかもしれない
そして
もうひとりの自分がこのわたしを見て
鬼のように思うのかもしれない

気がつけば
正午を過ぎている
レストランでランチを食べる
トイレに立ち
みだれた髪を梳かす
鏡のむこうに
わたしがいる


みずについての二つの詩

  前田ふむふむ

   


みずの描写


          
   1
みずが生まれる
一滴ずつ
その無数の点在は
やがて わずかな勾配ができると
引きつけ合うように集まり
生き物のように流れて しかも
かたちがない

   1
眼をとじて
ひとたびの微睡みの気分にひたると
みずはさらさらと
ひかりのような
音をたてて
わたしの
はるか内部を流れている
その穏やかさは 
やすらぎであり
遠く
胎児だったときの
不思議な
なつかしさが感じられる
その音の抑揚は
出自をかたどる
原景を形づくっている

    1
みずは
浄化のいしずえである
その流れは
個人の一滴のなみだから
都会の喧騒の濁流まで
わたしが
日常に溜めてきた
負債でできた
こころの汚れた隙間を
砂漠をうるおすように
水位を高め
少しずつ埋めてくれるのだ

    1
みずは気まぐれでもある
時として
わたしの内部に
隠れている傷口を
発見して
鋭い輝きを放ち
いつまでも
監視するように
留まっている

それは
傷口を不断に
やわらかく包みこみ
冷たく癒してくれるのであるが
同時に
いつまでも澱ませて
少しずつ
腐敗させるのである

そして
わたしがそのことに自覚する頃
あたらしい勾配ができると見るや
すべてを忘れるように
勢いよく
おのれ自身の内部から
撹拌して
きれいに
洗い流していくのである

    1

みずがはじめる
自由な
そのざわめきがなければ
わたしは自らを
ふりかえることはないだろう
きっと世界を再定義する
高邁な理想も
持とうとしないだろう
それが切望ならば
わたしは進んで
搾り出すような
汗を流すこともあるだろう

ちょうど
在らぬ意志が湧き出るように
みずは
肉体の奥深く
意識の胎盤に
横たわり
途切れることなく
いまも
わたしを生んでいる




みずのなかの空想


           
    1
相手があれば
その所作にあわせて
自由にかたちを変えて
自然の意志に逆らわずに
かならず 上から下へ流れる
その潔さ

    
みずのなかにいると
わたしの透けそうな肉体は
やわらかで 感覚をうしないながら
すこしずつ
みずの性質に溶けている

    1
みずのなかで
冷たい揺りかごのように
重力に逆らうことなく
なすがまま
身をまかせていると
この地上の重力に抵抗している
わたしの生き方は 自然に逆らう 
ならず者に見えてくる
恋人と
街を闊歩している姿は
言うまでもない
うやうやしく 神社にぬかずいて
神に祈るときですら
重力に逆らって
その両手を合わせて
柏手を打つのだ

それがみずのなかではどうだ
ただ みずのなかで
ものを見ることもなく
浮いていればいい
おそらく 水葬は 
ならず者の汚名を返上して
自然との調和をちかう
儀式なのだろう  

    1
みずのなかでは
上からあかるいひかりが
ゆれながら降っている
なんとしずかなことだろう
それは死の感覚を帯びている
丁度
棺のなかの落ち着きのようで
今まで生きてきた 過去のあらゆるものが
こころのなかで 俯瞰できてくる

    1
こうした ゆったりとした
五感を徐々に麻痺させる
みずの性質は
大きな楕円のような
感情の循環をつくり
おだやかな共生を生みだしている
そして
わたしは ここちよく
もう長い間
わたしの意味を
肯定されることもなく
否定されることもなく
みずのなかを漂っている


虚空に繁る木の歌

  前田ふむふむ


序章

薄くけむる霧のほさきが 揺れている
墨を散らかしたように 配列されている
褐色の顔をした巨木の群を潜る
そして
かつて貧しい空を飛んでいた多感な白鳥が 
恐々と 裕福そうな自由の森に向かって
降り立つという逸話をもつ 
大きな門に
わたしは 夕暮れとともに
流れ着いた
そこは 眩いひかりを帯びていた

門の前では 多くの老婆が 朽ち果てた仏像にむかって
滾滾と 経文を唱えている
一度として声が整合されることがなく
錯乱した音階が縦横をゆすり
ずれを暗く低い空にばら撒いている
うねる恍惚する呟きは 途絶えることがない

わたしは 飽和した風船のように膨れた足を癒すために
曲折するひかりを足に絡ませて 草むらにみえる、
赤い窪みに 眼から倒れるように横たわる
少し疲れがとれると
それから 徐に 長い旅の記憶を攪拌して
老婆たちの伴奏で 追想の幕をあげるのだ

      1

海原の話から始めよう
それは 真夏であるのに ほとんど青みのない海である いや その海は色を
持っていたのだろうか どこまでも 曲線の丸みを拒否した 単調な線が 死
者の心電図の波形のように伸びている海である 時折 線の寸断がおこり 黄
色の砂を運んでいる鳥が 群をなして わたしの乗る船を威嚇する わたしは
その度に 夥しい篝火を焚いて 浅い船底に篭り 母のぬくもりの思い出を頬
張りながら 子供のように怯えていた
そのとき いつものように手をみると 必ず 父から受け継いだ しわだらけ
の指がひかっている わたしは 熱くこみあげる眼差しをして その手でくす
んだ 欄干を握りしめるのだ
線が繋がるまで

気まぐれか 少し経って 線は太く変貌する
一面 靄を転がしている浅瀬ができる 船は座礁して 汽笛を空に刺す 林立
する陽炎が 立ち上がり 八月の色をした服を纏う少年たちが 永遠の端に
立ち止まっている みずの流れを渇望して わたしに櫂をあてがう わたしは
櫂を捨てようとすると 少年たちは 足首を掴み なにかを口走っている 彼
らの後ろには 仏典の文字のような重層な垂直の壁が 見え隠れしている わ
たしは 少年たちが なにを話しているのか 言葉がわからずに かれらが眠
るのを待って 急ぎ逃走するが いけども声は 遠くから聴こえて わたしか
ら 離れなかった それは なぜか 遠き幼い頃 聴いたことがある懐かしい
声に似ていて 気がつくと 目の前を 幼いわたしが 広い浅瀬のなかで ひ
とり泣いているのだ 
線が細さを取り戻すまで

やさしい日々も思い出す
船上でのことだ
古いミシンだっただろうか
わたしが 失われたみどりの山河の文字の入った布を織る
恋人は潤んだひとみで 書いてある文字を わたしに尋ねた
わたしは 生涯教えないことが 愛であると思い
織物の文字を 夜ごと飛び交う 海鳥の唾液で
丹念に 白く消していった
線は さらに細くなり 風に靡いて

老婆たちは 経文を唱えつづけている
仏像にむかって
眠りながら 唱えている
門にむかって

わたしは 門を眺めながら 棘のようなこめかみを
過ぎゆく春に流し込む

    2

そうだ 都会の話をしよう
それは 楕円形にも見えたかもしれない 整然としたビルの窓が いっせいに
開かれていて カーテンが静かな風に揺れている 暑い夏の眩暈のなかで 人
の姿の全く見えない街が 情操的な佇まいを見せている白昼 街の中央の方か
ら 甘い感傷の酒に酔った音楽が流れてくる わたしは 寂しさと 湧きあが
る思いを感じて その音色を尋ねてゆくのだが 音色の下には 瓦礫の廃墟が
一面 広がっているのだ 若い父がいた 祖父がいた 祖母がいた すぐに
わたしは 声をかけたが 声は わたしの後ろに響いていって 前には届かな
い 逆光線だけが 少年になっている わたしを 優しく包んでくれている
溢れる汗を浴びて 声のあとを 振り返ると 世界は 時計のように 着実に
冷たく 賑やかに普段着で立っていた

こうして 内部で訂正された始まりから
楕円形はさらに 色づけされながら
わたしは 耳のなかで 立ち上がる
ぬるい都会の喧騒を 眺望すれば
やわらかい季節の湿地に
殺伐とした抒情の唇がせりだしてくる

にわかに 門は轟音をあげて 閉じる
老婆たちの口は 唯ならぬ勢いを増して
読経の声がもえだしている
脳裏を
幼き日の凍るような古い運河にある病棟の記憶がよぎる
眼を瞑れば
逝った父は わたしのために書き残せなかった白紙の便箋に向かって
闇をつくり昏々と眠っている
蒼白い炎が 門を包む
その熱によって
わたしの血管の彼方に滲みこんでいる春の香かに
きつい葬列のような月が またひとつ 浮ぶのだ

わたしの溢れる瞳孔をとおして
音もなく いまだに復員はつづいている
闇のなかに遠ざかる感傷の声が
書架の狭間で俯瞰する鳥の声が
沈黙してゆく門をみつめて


三つの奇妙な散文詩

  前田ふむふむ

洗濯物
            

白いTシャツが 十着干してある家がある
七メートルくらいの長さの二階のベランダに 物干し竿で均等の間隔をおいて
ハンガーに掛けられているのだ いかにも裕福そうな建物の家で 百坪くらい
の土地に鉄筋コンクリート造りの家だ そして和風のりっぱな門構えをしてい
る 私の家から見えるそのベランダには毎日 毎日新しく十着の白いTシャツ
が干してある 時にパタパタと風に揺れながら なぜか干してあるものが白い
Tシャツだけなのだ よくみれば決して高価そうなものではない ユニクロで
売っているようなものだ 四人家族の家であるのに十着という数も不自然だ
 全員が一着着ても余ってしまう もっと正確にいえば 男性用のTシャツで
あるのだから女性は着ないと思うし私の知るかぎり着るのは主人の父親と長男
の二人だろう なのになぜ十着干すのか 一日何度も着替えるのか 着替える
となるとちょうど五度着替えることが必要になる 実は四人家族というがほん
とうは十人の男がどこかにいて私たちの眼を盗んで住んでいるのだろうか 私
は四人家族以外には全く見たことがないのだが それから全部白いというのも
おかしい ふつうは青とか赤とかそれぞれ好みもあるだろう それにそもそも
Tシャツではなく他にも着るものがあるだろう 今は冬である セーターはど
うだろう 長袖のジャケット カーデガン ネックパーカー 分厚いジャージ
など良いではないか また洗濯物なのだから 男性用の下着とか女性用の衣類
もあってもおかしくない いやあるのが普通だ はっきりわかるのは干してい
る奥さんが着ているものだ 地味な服装だがTシャツじゃない ということは
普段の生活では家族がTシャツではない普通の服装をして生活をしていること
が想像される その服は別のところで干しているのだろうか でもあの家で別
のところで干してあるのを見たことがない 全部クリーニング屋に出している
のだろうか でもいくら考えても納得できないのは この寒い冬になぜTシャ
ツつまり半袖だけなのかということだ もしかすると奥さんは少し頭がおかし
くてあのような奇行を毎日行っているのだろうか でも私の知るかぎりいつも
気さくに挨拶をするのであり 決して不自然なところはないのである そこで
あるとき なぜ十着の白いTシャツを習慣のように毎日干すのですか と一度
聞いたことがあったが それまで穏やかだったその奥さんは豹変して まるで
罪人でもみるような怪訝な顔をして立ち去っていった そしてその時 私はと
ても寂しさを感じたのだ 世の中には不思議なことがあるがこの出来事もそれ
であるのだろうか わたしには全く理解できないが あの裕福な家ではそれが
ありふれた日常であり その奇怪な行為を行うことで 日常の平穏が維持され
ているのだろう 白いTシャツを干している奥さんの顔はとても幸せそうで 
極論をいえば毎日のその行為のために生きているようにも思えるのだ そして
その継続の純粋さにおいて奥さんの行為がとても神聖な行為のように 思えて
くるのだ きっと世の中にはこのような奇行が人知れずなされていて 実は人
間の根源的なものがわずかに表面に浸みだしただけで この世というものはこ
うした不条理なものが本質として深く沈んでいて成り立っているかもしれない
 そして世の中の秩序というものを辛うじて保っているのだろうか 
今日は典型的な冬空で雲一つなく晴れ渡っている 少し離れた家の二階のベラ
ンダに十着の白いTシャツが均等に並んで干してある


喜劇

正午を回った頃 空も地も真夏が茹だっている 窒息してしまいそうである 
巨大なビルが林立する大通りで 黒い丸帽子を被った男が 涙を流し喚きなが
らぼろぼろのリヤカーを引いている 男は汗が染み付いたワイシャツが透けて
いて 痩せこけた日焼けした肌が見えている リヤカーには一匹の犬の亡骸が
乗せてある あばら骨が剥き出しになり 内蔵が外から見えている その裂け
目から体液がこぼれて 焼けた地面に溶けている 傍らには 老婆が弱々しい
力でリヤカーに くっ付いていて 犬を撫でている 後ろから大きなフライパ
ンを鉄のバットで 叩きながら男の子と女の子が付いてくる
一団は街中を行ったり来たりしている 歩道には珍しそうだと 大勢のサラリ
ーマン風の人々が見ている 一団が信号機にさしかかると いきなり歩みを止
めた そして赤い信号機に向かって 男は喚いている 犬である子供の名を 
涙を流しながら叫んでいる
狂ったように
わが子の死を そのやり場の無いかなしみを
訴えているのだ



冬の動物園

真冬の動物園にゆくと 不思議な光景に遭遇することがある
例えば あるインド象が 真剣に雪を おいしそうに食べているのである 彼
は はたして象なのだろうか 生きている象は 熱帯のサバンナの赤い夕陽を
背に咆哮しているだろう ならば如何なる生き物なのだろうか 例えば 豹た
ちは冬の陽だまりのなかで まるで老人のように 便を垂れ流しにして恍惚と
している すでに 体内で得体の知れない液体が発酵しているのか あれでは
 中身が腐っている剥製だ 彼ら動物たちは 餌を自ら獲得する先鋭な野生は
すでに無く 弱々しい呻き声をあげて 決められた時間に病院食のように餌を
与えられる廃人のようだ それは同時に 古代の奴婢以上に厳しく管理されて
いるが 檻のなかでは 脱走以外には あらゆる自由が叶えられる選ばれた不
思議な生き物だ 子供たちは喜んで眺めているが もしかすると 彼らは幽霊
なのかもしれない 熱帯の大地で繰り広げられる たくましく燃えるような生
命の闘争 その物語を語る言葉を遥か緑の彼方へ すべて棄て去って来た幽霊
の群がショーウインドで季節はずれのドレスのように飾られているのだ だが
 夜一人でテレビを見ていると 動物の弱々しい呻き声を聞くことがある ど
こから聞こえるのか テレビのなかでは中年男が気難しそうに話しているだけ
である 彼も また多くの視聴者に見られるテレビの檻にいれられている不思
議な生き物だと感じながら テレビを消すと 黒い画面に鏡のように映るやつ
れた顔から動物の弱々しい呻き声を発していることに気付く それが自分であ
ることに気付く ある時 孤独な時間に 自分の断片をみて 自分が何者であ
るかを気付くことがあるのだ ある都会の片隅の 帰宅を急ぐひとたちのなか
で 動物の呻き声を聞いて 愕然とするひとがいるだろう だが 思考を甘受
させてくれる余裕を与えずに人間社会は 急ぎ足で進んでゆくのである そし
て すぐに忘れ去り 日常という自分の王国の時間を過ごすのである いつか
 ふたたび 一人孤独の部屋で 怪しげに去勢された動物に変身して 自分の
声に恐怖を覚えるまで 


浮遊する夢の形状

  前田ふむふむ



       1

鎖骨のようなライターを着火して
円熟した蝋燭を灯せば
仄暗いひかりの闇が 立ち上がり
うな垂れて 黄ばんでいる静物たちを照らしては
かつて丸い青空を支える尖塔があった寂しい空間に
つぎはぎだらけの絵画のような意志をあたえる
震える手で その冬の葬列を触れれば
忘れていた鼓動が 深くみずのように流れている

わたしの耳元に 幼い頃
おぼろげに見た 赤いアゲハ蝶が
二度までも舞う気配に 顔を横に寝かせれば
静寂の薫りを運んで
金色の雲に包まれた 羊水にひたるひかりが 遠くに見える

あの霞のむこうから わたしは来たのかもしれない

剥ぎ取られた灰色の断片が 少しずつ絞られて
長方形の鋏がはいる

わたしは 粗い木目の窓を眺めながら
捨てきれない 置き忘れた静物といっしょに
墜落する死者の夜を見送る
  まだ始まらない夜明けのときに――

     2

朝焼けが眩しい霧の荒野が 瞳孔の底辺にひろがる
赤みを帯びて 燃えている死者の潅木の足跡
そのひとつの俯瞰図に描かれた
白いらせん階段が 空に突き刺さるまで延びた
古いプラネタリウムで
降りそそぐ星座を浴びた少女がひとり
凍える冬の揺り篭をひろげた北極星を
指差しながら
わたしに振り返って
ここが廃墟であると微笑んだ
あの少女は 誰だったのだろう
なにゆえか 懐かしい

窓が正確な長方形を組み立てて
視界になぞるように 線を引く
線は浮遊して 静物に言葉をあたえる
次々と引きだされる個物のいのちは
波打つひかりのなかを 文字を刻んで泳いでいく
やがて 線が途絶えるところ
わたしは 線を拒絶した荒廃した群が 列をなして
窓枠をこえていくのを見つめる
見つめつづけて

       3

思い出せないことがある
わたしの儚い恋の指紋だったかもしれない

単調な原色の青空を貼り付けた風景が 声をあげて
わたしに重奏な暗闇を 配りつづけている
時折 激しく叩きかえす驟雨を着飾れば
(空は季節の繊毛が荒れ狂い
        ――あれは、熱狂だったのか
白い雪が氾濫して 皮相の大地を埋めれば
(モノクロームの涙に 染める匂いを欲して
        ――あれは、渇望だったのか
わずかな灯火をたよりに 手を差しだせば
繰り返される忘却の岸に 傷ついた旗が見える

思わず瞑目すれば
ふたたび 貼り出される白々しい単調な音階に
身をまかせている わたしの青白い腕
すこし重さが増したようだ

長方形の額縁のような窓が 果てしなく遠のいてゆく
限りなく点を標榜して

いや はたして 窓などはあったのだろうか

仄暗い闇のなかで わたしは 痩せた視線で
忘れたものを いつまでも眺めている
眠っている静物たちを見つめて
灯りが弱々しく沈んでいくと
眠っている鏡台の奥ゆきから覗く
寂しい自画像がうつむく

茫漠と 時をやり過ごし
時計の秒針が崩れるように 不毛が溶けだすとき
微候を浮かべる冷気にそそがれて
燦燦とした文字で埋めたひかりが
硬直して 延びきった足のつま先に 顔を出す
わたしのうつむく眼は 輝くみずに洗われている

やがて、訪れるはじまりは
ふたたび、夢の形状をして――


三つの具象的な語彙の詩

  前田ふむふむ


帽子

かなり熱があるので 気分は悪く やっとの思いで病院についた
そして待合室に深々と腰をおろすと
その中央にあるテーブルの上に
いかにも高価そうな帽子が置いてある
それはクリーム色をした 軽く透けている生地を使っており 
上品な透け感と程良い張り感を持ち合わせていて 
固い風合いと光沢を帯びている
そして 右側面に赤いバラがさりげなくついている
その気高さに わたしもそうであったが
待合室の患者は みんな好奇な眼でみているのだ

ところで この高貴な帽子は患者を癒すために 
たとえば生け花のように 観賞物として置いてあるのだろうか
そうであるならば それを示す説明書きが
帽子のそばに添えてあっても不思議ではない
とにかく安物ではなく高級な帽子であるのだから
当然だと思うのだが それがない 多分 違うのだろう
あるいは誰かの持ち物なのだろうか
でも わたしは随分と待っているが
誰も取ろうとしない 忘れ物なのだろうか
そうであるならば 誰かが受付に申し出ても良いと思うのだが
誰もしようとしない

さて この帽子が忘れ物ならば 持ち主はここにはいない
欲しいと思って 仮に誰かが持っていっても
分からないのだから 盗み得になってしまうだろう
もしかすると 皆欲しいのだけれど このなかに持ち主がいたら
その場で 泥棒として捕まってしまうので
それを警戒して 相互に監視しているのだろうか
ああ もう二時間近くもテーブルに置いてある
あるいは 持ち主がこのなかにいて
こっそり盗む者がいないか じっと見ており
わたしを含めてみんなを試しているのかもしれない
時々 みんなを見回すと 誰も彼もが尋常ではない
鋭い眼で見ているように思える

わたしは こうして長い間 なにかに憑りつかれたように帽子をみている
でも余計な打算をはぶいて 没頭していると 
徐々にではあるが この帽子はちょうど 
殺風景な待合室に溶け込むように息づいていて その配置といい 
色合いといい この部屋に無くてはならない 
最も重要なものであるように見えてくる
だから わたしは この帽子に対して 触れることは勿論
何かをしてはいけないように思うようになった
それが最善に思えるのだ

診察室から名前を呼ばれた

医師から治療を受けていると 医師の言葉はまるでうわの空で 
待合室を留守にしている間に あの帽子を誰かが持っていってしまわないかと
そのことばかり気になっている
短い治療が終わり 待合室に戻ると 帽子はまだ そこにあった
わたしは ほっとして なぜか とても充たされていた
それだけではなく 帽子をとても愛しく思えた
そして 願えば この帽子が いつまでも 
そこにあり続けるように思えた

後ろ髪を引かれながら 受付で診察の清算を終える

そして 五日後 医師の指示に従って 再診で病院に来たが 
高熱の病気はすでに治っていた
わたしは待合室に行き 嬉々として 高貴な帽子の方に眼をやると 
中央のテーブルの上には
薄汚れた古い帽子が無雑作に置いてあった



帰宅するひと
            

三月十一日
国道122号線を 北にむかって ひたすら歩いた
前方から後方まで ひとびとの列が途切れることなく
つづいている
幸い街路灯は 消えていない
たよりないそのひかりが映す
ひとびとの顔は不安を浮かべている
そして黙々と帰路を急ぐ

帰宅するひと
そこに道があれば 帰宅するひとという所属が生まれる
理由などいらない
家に帰るという意識の旗を 胸にかかげて
黙って唱えれば もうりっぱな 帰宅するひとだ
そこには意志がやどる
そのたよりない列が 素晴らしい仲間に見えてくる
わたしは前を歩く 疲れている女性に
ペットボトルのみずを与えた
女性は真っ直ぐな眼で お礼を返した
目的地にむかう同志のように

ひとびとの白い吐く息は 熱気を孕み
わずかずつ会話が始まる
ときに笑いも浮かべて それに 夜はいつまでも
寄り添っていた

だいぶ歩いただろうか
もうすぐ自宅だ 
やや東の空から明るみを 帯びてきている
わたしの道が白く 浮かびあがっている
気がつかなかったが 見渡せば
わたしだけ
ひとりで歩いている


中二階
              

仕事が終わり 職場を出る
暗い夜の空気をふかく吸いこんで 一日を反芻する
そして 満ち足りた高揚感を 夜の乾いた冷気で
浸していると職場のビルの中二階に灯りが点いていて
男がひとり 寂しそうに立っている

わたしはその男が気になったので
中二階を探したが どうしても辿り着けない
もっとも中二階があるということは
今まで聞いたことはなかったし 外から見れば そのビルは
中二階が造られていない構造だということは すぐ分かることなのだ
念のために管理人に聞いてみたが やはりないという

でもわたしには見える
仕事がおわった帰り際に 夜ごと その中二階があらわれて
右角の一室の窓辺に 男が立っている

かなり不気味なことなので
幻覚を見るほど 疲れているのではないかと
自分を慰めたが 原因は分からない

そう思いながら もう一度 注意深く意識して
職場のビルを見ると 中二階などは存在しないで
均等に五階に分けられている
その窓はブラインドで閉じられていて
冷たい様相で 立っている

わたしはほっとして やはり幻覚だったと納得する
そして その儀礼的な確認を終えると
心置きなく安心して 家族の待つ団欒に帰るのだ

こうした 懐疑的で夢のような出来事を
毎日を繰り返している わたしは長い間
この部屋を 出たことがない

ひまわりの贋作の絵画が 掛けられている この病室では
日が暮れて 窓から夕日が 射してくると クロッカスの球根に当たる
そして 一人きりの 寂しさを紛らわすために
まず球根にみずをやっている
窓辺では球根をグラスにいれて
もう何年も 育てているが 花が咲いたことがない

夜七時 決まったように部屋の灯りをつける
窓の外
きょうも 街路灯の下でひとりの男が 立ち止まり こちらを見ている
彼はいつになったら 階段を駈けあがり わたしに会いに
この部屋にくるのだろうか
窓辺に立って わたしはいつも
何かを待っている


森の心象

  前田ふむふむ



木がいさぎよく裂けてゆく
節目をまばらに散りばめている
湿り気を帯びた裂け目たち――みずの匂いを吐いて
晴れわたる空に茶色をばら撒いて
森は 仄かな冷気をひろげる 静寂の眩暈に佇む

森番の合図の声が
うすい陽光のなかから 立ち上がる
乾いた声は木霊して
わずかに残るみどりの葉紋に透過する
わたしは 新しい斧を振り上げて
父母の年輪のなかに 鋭い刃を沈める
ひらかれた木の裂け目が
みずみずしいいのちの曲線を描いて
夢のような長いときが鮮やかにもえだす
腕に積もる心地よい疲労で
爽やかな汗が ひたいに溢れ
あつい滴りが右眼を蔽い
わたしは 正確な季節の均衡を失う
軟らかく 萌えはじめる春の夜明けのなかで


春が息吹を吐き出す
眩い清流で充たされた春の右眼のなかを
クラクションを猛々しく鳴らす
ヘッドライトの閃光が 刺すように通り抜けた
右眼は流れを失い 世界の半分を白い暗闇のなかに隠す
崩れるように船は砕けて かたちを持たない破片が
わたしの右眼を蔽ってゆく

母に手を引かれて 坂をくだり
泣きながら辿った塩からい夏が
右眼のなかに浮ぶ
父が愛した 一輪のりんどうのような船を
悪戯っぽい豪雨が 壊してしまった朝が微かにめざめる
わたしは 血だらけの船を置き去りにして
うな垂れる父が
誰もいない凪いだ海の防波堤に蹲った
あの時から

次々と海鳥が 潮騒の立ち上がる床を蹴り
高い空をめざす
高さのない夏が 底辺から溶けだす
零れるみずだけは きよらかに季節を舐めている
少ないのだろうか
流れる血が足りないから
わたしは 父の風景を
いつまでも この右眼に抱えているのだろうか

痛々しい水平線を
右眼のなかにひろげれば
行き場のない瓦礫が 涙のなかに見える
わたしは 右眼のなかから零れた巻貝を拾い
耳に当てて
尚 忘れているなつかしい夏の声を聴く
激しくゆれる線を湛えて
潜在する空の心電図の波形のなかを
父の失意を奏でる夏の汗が
繰り返し 木霊していった
そのうしろから
母が幼い妹を背負って 泣いているわたしを窘めながら
昇りつづける坂が 緩やかに延びはじめて
父が辿れなかった ひろがる静寂をゆく
極寒に赤々と燃えていた 寂れたストーブのむこうへ


森番の作業停止の大きな声が 静寂を裂いて
水脈を削る音が いっせいに途切れる
わたしは 汗をしわだらけの手拭いで拭き
森の涼しい息に 眠るようにひたる
羽根を強く打ち鳴らしながら
鳥の声が みずの流れの傍らに降下して
おもむろに 降り出した夕暮れを 饒舌に編み上げている

わたしの視線は 忘れていた森を飲み込んで
いま 淡い春が 右眼になかにある
原色の夏を 真綿のように包んで


飛べない時代の言葉から 第一番

  前田ふむふむ

(序奏―――
          




「弦楽奏で
             低音で始まり少しずつ高く

         
一の始まりから――
一の終わりから――
アダージョの笛が
霞のなかからあらわれて
飛び交う梟で埋めつくしている
夜のふところの
世相の有刺鉄線に包まれた街はずれで
花を植え
時間を置かずに
花を摘む子供たちに
生涯を句読点のついた
冷たい断定の刻印をおしている
霧が流れている

  (牛の皮が打ちつけられている
太鼓が連打された――

アダージョの笛は
驟雨が降るなかで 
花にみずをやりつづける少女に 鳴りひびき   
眩しい日差しのなかで
雨傘をさしつづける少年に 鳴りひびき
世界の中心と周縁にむかって鳴りひびき

(言葉のロータリーは迷路になっているから 終わらない

               (間奏――
                  さらにアダージョ
                     ときにアレグロで
                  続ける


「はじめてみる黒い空 
すきまから  
ひかりが放射している草むらのなかを
わたしは 胎児のように包まっていた 」

傍らでは ぼくが焦点のない眼で
スコップをふり
ひたすら穴を掘りつづける
(この穴は きみのチチではない
(無論 ハハではない
(カゾクではない
(きみ自身の生きた証のぶんだけ深く広がるだろう
ぼくは気がついていた
いままで
こころの底から 泣いたことがなかった
こころの底から 笑ったことがなかった
ぼくはふたたび シャベルを持った
(まず きみの一番欲しいものから 埋めていこう
(葬儀場の煙突のなかでは いままでの人生で
(きみが欲した分だけ 燃えていくだろう
(透明な有刺鉄線のなかで 分別ゴミのように
(でも チチが積み木のように伝えてくれた 本当に大切なものは
(あのオーロラのむこうにある 誰もいけない雪原の窪みに隠すのだ
(そっと真夜中に
(誰かがその伝説を捜すまで

気がつかなかったが
いつから眼が見えなくなったのだろう
ぼくは ひたすら見えない眼で 空に向かって何かを叫んでいる
黒い空は その声を聞き取れずに
草むらから 剥きだしになっている 
夕暮れに咲く電波塔を包みながら―――

       太鼓がひとつ打たれた
       そして二つ目
       少しずつ速度を速めて―――

「わたしは 草むらだと思っていたが いつの間にか
揺り篭のようなベットに滑りこんでいた 」

この暖かさ
こうして振り返れば
/ぼくは 喜ばれたのだろうか
/いや 居なくなるのを望まれたのかもしれない
ぼくは親族の死者が行き交う 暗い階段を 
なつかしい顔に見送られながら


           混声合唱
(南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛
(南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛
(南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛
(南無大師遍照金剛



転がりながら落下した
雪原のうえへ――
(湖のように 広々と血で充たした液体の


           管弦楽が鳴りひびき

太鼓が連打されて―――
「アレグロ


ぼくは 見たことのないひかりを浴びて
生まれて始めて
こころの底から泣いた
        /泣いた」泣いた


      連続するフーガ


海鳥が 交錯を描いて舞う 一面 雪原の白
わたしは 河口の岸壁で やさしい姉を待っている
二つあった太陽が 一つ わたしの世界のはてで 燃え落ちた
来ることがない姉を待っている

(失われたプラモデルを
(組み立てるのは止めよう
(部品は 無意識に ぼくが食べてしまっている
(ぼくの好きな赤色は剥がれて
(直すペンキ屋はもういない
(有刺鉄線に絡みついた白鳥は
(飛び去ったのか
(いや 土に返ったのだ

夜明けを見たことがない姉を待っている

(身体を出来るだけ伏せて
(地に耳を当ててみれば
(ぼくが執政官ではなく 夜をさ迷う
(難民であることがわかる

存在しない姉を待っている

(神話のない荒野は
(地の果てまでつづき おびただしい廃墟は
(人もいない 鳥もいない 犬もいない 虫もいない
(そして真夜中で光々としている
(パソコンのなかには
(姉だと名乗る
(偽物の
(新しいすべてがいる

世界のはての 雪原の窪みで
(わずかな欲望の熱が 白い皮膜を這う


遠く
トオク(間奏    )
     「アダージョ


               ―――舌が渇く朝まで


源流から――
世界のはてから――
数えきれない時間を下った
揺り篭のようなボートは
みずを裂きながら
世界の始まりを見て
世界の終わりを 次々と埋葬していった
景色が 目まぐるしく変転する季節を
奏でて
木々が 木々たちのための 混声コーラスを歌いあげ――
小川が
大河を迎えいれて
赤く彩られた血のような午後
ボートに乗ったぼくは
(世界の終わりの空を背景にして
一つ 先端が欠落して鐘のない
百八つの尖塔のある街の桟橋に着く
整列している雨の木たち
アダージョの笛が鳴りひびき――
ぼくは 霞のなかから
白髪を梳かす
よわいハハを連れ添う

       太鼓連打
       「フェルマータ

わたしを見つける――

       「アンダンテ
  
ぼくは わたしは
ハハの手を握りしめる
ハハは笑っている
介護用ベッドから
ゆっくりと体を起こす
もう九十をとっくに過ぎた
やせ細った
冷たい手から脈動が伝わってくる
知らなかったが
太鼓のように
その音には 言葉がある
熱のような言葉だ
そして
水滴のように
自由に身をまかせて
今から詩作を始めるのだ
その言葉を咀嚼するまで

    一時静止


鐘が鳴る
百八つの尖塔の鐘が鳴る


「最初は弱く
     徐々に強く 重々しく
           管弦楽 交響楽がなりひびき
          「アダージョ
         「そして強く

鐘が鳴る
百七つの鐘が鳴っている

耳を劈くように
世界の始まりから
世界の終わりから
               










(音楽用語
アダージョ   ゆっくりと
アレグロ    速く
フェルマータ  長くのばして
アンダンテ   歩く速さで

              


    


不寝番―みずの瞑り

  前田ふむふむ

      1

夥しいひかりの雨が
みずみずしく 墜落する光景をなぞりながら
わたしは 雛鳥のような
震える心臓の記憶を 柩のなかから眺めている

(越冬する黎明の声)
古い散文の風が舞う 剥き出しの骨を纏う森が
黒いひかりの陰影に晒されて
寒々とした裸体を 横たえる
燃えるように死んでいるのだ
薫りだす過去を 見つめようとして
あのときは
夜が 冠を高々と掲げていただろう
訃報のときに躓いた白鳥は
枯れた掌の温もりを抱えて
忌まわしい傷口を 開いてゆく
こわばった声で鳴きながら

(新しい感傷旅行)
そのとき 
わたしは 咀嚼したはずの安霊室の号哭が
劫火をあたためながら 抒情的に生みだされて
時折 弧を描いて
この胸のなかの 漂白する午後に
いつまでも 立ち会っていることに気付く
降りやまない葬送の星の草々たち
浮かび上がる凛々しいかなしみたち
白い暗闇を帯びて 
わたしは 耳で見つめる

(沸騰するみずの地獄)
そして
真率な夜に置かれた手は 
冬のひかりをくゆらし
小川の浅瀬をくすぐり
鋭利な冷たさに 触れようと試みる
そのとき
わたしは 惰性に身をやつす皮膚が
コップ一杯の過去も飲み干せない
理性の疲労をさらけ出すのだ
暗闇を引き摺るように

蒼白い居間に 逆さまに吊るされた
天秤の絵画がゆれて
轟音をたてて死んでいる夜に
わたしは置き鏡に映った
ひとつの孤独な自画像を
見ることができるだろう
だが 埃のついた こころの瞳孔を反芻しても
ひかる空に戯れる 子供たちの透明な窓に
紙飛行機をたおやかに
飛ばす無垢な過去は 味わえないだろう

子供たちは 過去を知らないから
自由に過去と うねりを打つように戯れて
過去を 歪曲の色紙の上に染めず
静寂の湖面の目次の上に 彫の深い櫂を
差し込むことが出来るだろう
伸び伸びとした櫂の指先のあいだから
ひろがる地平線のない群青の空に
無限の追悼を 描けるだろう

子供たちは わたしを置き去りにして
夏の饒舌な木霊を 午前のみずのなかに
溢れさせていくのだ
わたしは 振り返るように見つめる
あのうすい布がはためく 鳥瞰図のなかの岸を

       2

十二音階の技法によるピアノ伴奏で 老いた両親が わたしに子守
唄を歌う 繰り返されるその調べは 多くの危うさと わずかな真
実があるだろう かつて世界の近視者の堕落が 深夜繰り返される
案山子たちの舞踏会を 演じさせた烙印を知る者にとって 個の良
心によって行われている 偶然は やがて必然となるのだろうか
そして 消してあるテレビの画面の中で 卑屈な歪む顔が浮かぶ危
うさは 今や全くの自由を手にした 鴎の群れが 空の青さを持て
あましている時代の 古い写真の中で遠吠えをする 狼の危うさだ
ろうか 禁煙した者の部屋に置いてある 鼈甲の灰皿には 黴の生
えた古いタバコが 燃えている それは 遺書を読み上げる結婚式
が 行われた夜 壊れかけた 信号機のある無人踏切に 二人で現
れる見知らぬ幽霊が 夜ごと 焚き火をしながら 最後の薄汚れた
口づけに美しく微笑んでいる そんな 幽霊たちの歴史において
行われつづけた欺瞞は 幽霊たちの石棺をあけて 腐乱した屍を
死の祭壇にさらしたのである 細々しい一本の塔を崇拝した者たち
にしてみれば 石棺の上で 乱立した塔を見て 悲しむのだろうか
羨むのだろうか 新しい山々の木霊を 新しい海原のざわめきを
新しい街頭の前衛が かもしだす息吹を ひたすら煌びやかな模様
細工で飾り立てた 栄光の午後に 彼らの遺伝子を継承する子供を
乗せる 白紙の百科事典でできた あたらしい遊園地の観覧車は
熱病に冒されている子供である あたらしい蜘蛛たちを乗せて ガ
ーシュインを聴きながら 今や 悠然と 幾何学模様の円を描く
分娩と堕胎を繰り返しながら
分娩と堕胎を繰り返しながら

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不寝番が ふかい森のみずの始まりを
たえず見つめている
    眼を瞑りながら
森のみどりを見つめている
  言葉の廃墟のなかから 火をたぐり寄せるように
おもみを増した森の迷路を抜けると
終わりの岸に出会う
そこを越えれば 懐かしい森の傲岸がせりだす
湧きつづけるみずの声
遠いつぶやき

わたしは 精妙なみずのにおいを ふりわける

不寝番は 閉じた眼をあけると
子供たちの世界が 冬のみずきれを
はぎれよく 広げている
抒情の砂漠を泳いでいるのが見える

わたしは ふたたび 眼を瞑って


 

 

文学極道

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