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鷹枕可 - 2019年分

選出作品 (投稿日時順 / 全16作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


円形劇場

  鷹枕可

_

千種千草を撒く雌雄花蘂へ
散逸‐比翼植物
一縷苧環廻廊の標
均整‐理想像
累紙を縺れる
奇異たる象限
分轄鏡、
施鑰を縋り喚く
堰提無き第七燃焼機関
指判‐審及‐檻舎に地球殻 
宣言
その断頭台
臓腑を別けて薔薇の壜、心臓に
馨る劇俳優の死
乃ち
劇場現実

旧市街地の一箇月を想像と呼ぶならば現実像の裏に聖霊達がバスタヴに湛えていた赤銅の景観建築模倣都市は鍾乳筍の影像に過ぎない、
糊漬の歩哨兵や労働夫や男娼館に劣るとも遠からず遠近法に基礎を置く歪像画に流麗な市街が展望される様に、
伝書の警戒は終ぞ火薬庫の継母達を偶像礼拝のレミング市民に電話線を掛け渡す様には上等な工事車両を具有してはおらず、
硬化剤洗濯機に膠着した季節に土地の葡萄畑を延展するには、偏執的な公人尊厳偏重傾向を顧る必要があるだろう、
孰れにしても錠剤の極彩色の痴夢は譫妄と人体像の関係性範疇に於いては無感興を科されて然るべきものであり、
想像力の視線は劇現実から超現実に後退を遂げなければならない、公海領に於ける悔悛自殺としての膨張が統計推移が指し示す様に、
薔薇の階段には錆銅の裸婦像が諸手に瓦斯罐を開化せしめながら蜂窩の実を滔々と砂糖壺と鍬に及ぼし、青藍の群像は凝と私海の紛糾を耐えている、
裁断された幅広の額縁、ダンテルの窓、膏の様な海等は既にして既成美術の概念遊戯を擱き去りに、真贋と機構の綿花畑に靡きながらも
真新しい棺に収められるべき草花の縺れ縺れた印璽を俟っているのだろう、
   :

死の威嚇
黒窓の地下階に
万朶累々たる蜘蛛の鉤花 
少年
蟻を踏み躙り
硬殻科螺旋門に範疇を置く
素鉄の鞴を
白熱灯は瞬き
隧孔‐球壜‐柵を亙らず
後脚動輪、多階建築梗概を仰ぐ
托鉢修道
含漱泉
陳腐、血を飲む繭の裂開


偶然を登る枯れ葉

  鷹枕可

引き裂いてやれ
   揚帆と幌を 
引っかき回せ 
   肉屋の鉤を棘の翼を 
  死の泉と愛の蜂巣に芽ばえた
    アスピリン錠の充ちるつかの間を
   告白せよ 
 公園掃除夫たちに
   宣言せよ 
     洞察眼は潜水服のなかの乾いた舌ですらなく 
       体操器械の繁栄は 
   撓やかな野苺の毒を踏み分けていく
           遮断機を耐えていると
       そして
 分け隔てなく 
溺れる薔薇の触角のように 
   確実であり 
             また 
  不均整であるにせよ 
     孰れも葡萄槽に泛ぶ 
 ドーリア柱の逞しい咽喉ほどには
      退屈な一束としての避雷針はひとつとしてないのだ 


一人を考え独りとなる為に

  鷹枕可

死の花の秘匿ミモザを降り行く騎鎗兵たちの鬱金色の留具


沈鬱と明徹の紡績製の夜から滴る幾重もの睫毛の羽根が
机の上に透明な図形の鳥を灯す
海洋船の標に
航海予定表の釘に
地に磔けられた血まみれの日没に

階段を下っていく
人間という名の終着駅が
終端の果の終端へ喚きながら潰されてゆく
凡ゆる
体液、血液、骨格、神経、
臓器、脂肪、漿液、器官
その結実を孕む死の花
死とは人間の現象的想像限界であって

一擲
麻袋の中の幾多の手首を
湖畔まで捨てに行く男
錆びた樹に壁掛け時計を吊下げる男
柔軟剤を吐く男
鬱蒼たる
異邦の樹海に縊れた男

私は
椅子より去った私の坐る椅子を見た
それはコンクリートの顔を傾け
総ての放射線写真に
現像実験室の
蝶の死体を結像する捩れた長方形の鏡だった

死の理由は合理 生存の理由は不合理であるから
苦く鹹湖を振返り
慄きやまぬ
窓越しに
裂けた幼年期を
砕けた薔薇を
縦断し
死を死して死ぬべき死に 訣別し
血の庭を柵に垣に隔てて


晩年のキリコ、ツァラ、ヘヒ、藤袴100年後形而上も旧りぬ


闇の静物史_1:贋物について

  鷹枕可

_I

血の通わぬ花嫁衣裳を摘む様に
その亡骸の名を教えてください
砂鉄色に滴る若草は
鉤の徽章を隠してしまうから
黒い薔薇に赤い窓縁
雲母の胎児
月曜日は
シャンデリアの群像孤独史
赤紙の降り頻る
西暦1945年の兄妹は駈け落ちて
地獄に逃れていきました

_II

皆既、蝕酸四輪街宣拡声器
モスクワに霰、
壊血病に斯く苦難の行軍は敗れたり
紙片婦が扁桃葉繁しくも葛藤し
有るまじき幾何装束が
猩猩緋を恃まんと慾す
起源、薔薇十字に
肉体は陰のアンドロギュヌスを随想し
屍蛾翼累累と
塹壕を埋葬隧に肖ゆ
恐慌実験、
争乱の慈母
光悦に溺る蜘蛛巣が玻璃窓の如く在り

銃傷、襤褸磔像に一筋の裂罅
マンドラゴラ
綺想集成編纂員を喚鳴し
標本室に永続過程たる降灰
純粋存在
闇の臍帯
ベスヴィオに死屍、
蹲り
静‐動植物を嘲嘲と蠱惑しつつ
野蒜、奥歯に挟まれるがごとき齟齬
虚実、馬鈴薯に人面蝶留まり
神経毒その眩暈を
夙に粛粛と捌けり

狂奔、根絶
自動焼却室
今際の今新たしき前衛戦争美術を掲揚し
零落国家瑞々しき死の咽喉を含み
悪徳の悉くを遷移甦生せるを
禍禍し、血胚孕む死屍
存在に価なかればこそそは価に価せざるも
佳し、
よもや頸筋に水棲聖霊亜綱の噛跡なきか


都市標本『現在形』

  鷹枕可

_I,刺繍

機械仕掛のゴチック文字に
凡ゆる均整
分水嶺に隔てて
顕ち
言葉とは言葉と言葉の言葉を
円環劇場に
統べながら統べられる
私自身の俳優であり
装置である
死者の綴れ織りに
紡績アラベスク
それら自明の縁堰に
建つ鋳鉄の時計に拠って
私を私たらしめる
矮小な
一つの機関を起源として


_II,成長

種の殻、
ひとを問え、
一粒の死であれ経験の過程であれ
蛍揺籠
文字の永続は
つまり
未誕生を
夢想創造し已まない
単性繁殖をこころみつづける
現象の夢を漕ぐ
幾多の花粉界であって
また、
安寧は植物時計の睡眠季に
存続、
その靴跡を
はつかに遺して、ゆけ


_III,東京裁判、或は政治家達の秘密の隧道、

プロパガンダの中で黒く美しい劇場は凡庸な平均的存在に燃えている
それは取り戻された蠍の心臓だった
それは死線の絶間無き蹂躙だった
薔薇色の喝采と高揚を受けて党歌は公衆の歌となった
孤絶が私を択んだ様に
あなたは黒い紛糾に択ばれたのだ、

_IV,――

私 絶鳴の闇
私 黎初の鳴鏑‐鏡
私 死に孵り
私 命に到らぬわたし視る釣鐘ひとみ一つきり
死の花‐黒い椿花婦
美しく皺嗄れた一束の婚礼衣類
散る散る散りながら耀いて 死せよ



*本文はtwitter掲載詩に加筆、訂正したものです。


ひとつのロマンス

  鷹枕可

夜の間にとぎれた音楽がある

――ピアニストを撃つな

革命歌の記譜をためらうように
ただ黙って立っている事
幾つもの季節がながされた
労働と血のただなか

季節は春、あなたはいないというのに
ラベンダーが今を耐えるように咲いていたね
死の季節を越えて芽吹く花もあるというのに

迸るものを青年期というなら、
絶えて始めてなみだぐむ敗北もあろうか
季節は春――革命は青年達のばら色の絶世のようだ

死んだ者達や蘇らない者達の
声をだれが聞くのか
手紙は誰にあててやぶりすてられたか
言葉は言葉になるまえからあった
ただだれも口になせなかった
だけのことだ

夜の間にとぎれた音楽が死者のように蘇る時
死に逸れた青年達の革命は蘇るだろう

拳銃よりも重く、薔薇よりもただ悲しげに――、


柩車

  鷹枕可

途絶えて
夏蝶に傷める白い帷子

____

ごらん、
あれが煉獄にうめくひとたちの貌だよ
人貌花を指し 
天使が血錐の丘を駈ける
円形舞踏に――
そして包丁に
罐詰に 
姉妹達の石に
振返るな
町を出れば人となるもの
泥濘、
私の死を報せる者よ

_
___


希臘
函人間達
その死を睡る都市
ダイダロスの永久機関
アタランテ
秘跡の死体学
物質の叛存在
自由運動をする原子 
絶滅科学の嫡種を期して

現象の現象たる証明
現象の証拠たる証明
現象の証明たる不在
現象の不在たる解体 

在るは介在‐人体‐証明

__
__


断崖に岐路
落鳥の目に墜ちゆける夕は在り


亡き人々へ捧ぐ

  鷹枕可

それは街明かりの
確かで
はかない群衆の灯に
つなぎとめられた
一つの希望であり
絶望と届かなかった
深く青き花
その
なきがらに
あなたの庭に
ヴァイオレットが
今も永遠を風に揺れているように
いつか
永遠の庭へ


叛分子、記憶

  鷹枕可

鉄よ 呪われるがゆえに
讃歌を
与え奪う者
その破滅を
かの顔へ叩き潰す
竈の炎に鍛ぬかれたひともとの
廻転する死、
略奪の母
生を価とする死‐
あらゆる天使達の貌を観よ
牙は膿に塗れ
毒は臓腑を灼く
硫黄の垂涎を以て、

崇拝せよ、嫉むそのかみこそを

市街、殲滅は覆い、
偶像破壊を恍惚と
暴虐を複製物とし
価値無き、普く死するためだけに在る
 栄誉
そを煽り
軍靴を揃えよ、
 <行進しゆく後に何をか,>

今こそ蜂起の時
死を怖る者に
死を
精悍たれ
軍装の青年達
猶美しく徽章の華を誇り
異人には極刑を
非-選民には銃殺を

プロパガンダ、忌々しくも堅牢たらず
われらが正統たる
奴隷統治、
進行を阻まば
誰なるとも 非国民 にて

係る惨死を累累と築け

人間ならざる敵、そを
敵たる筈の
 人間  
が血に
われは
荘厳たる血反吐塗れ


春も秋も

  鷹枕可


壜詰めの薬箋紙
乾花
抛られたピアノの鍵
_
_

日没、そして
空の翼にまどろみながら
山鳩の孤独に
預けた
もどることのない、
霜鬩ぐ野への夜想もつかの間に

印象、耳の襞
向日葵、
群衆
あなたは
いつからそこに立っていたの
機械的な
感傷への排斥を肯うことなく
端整な円柱の様に
在る
ときのなか

今迄を
その樹は
白い鐘楼は
鳥達のゆりかごだった
あまりにも重たげな
燃える釣鐘、
花熟れる樹にも鉛の残酷なベルが過ぎ、
真鍮の天使群が円時計のなか
墜ち、或は昇り
街にも燈が灯る
一日を
永遠の疵が刻む頃に、

印象、その最期のひとみ
優しげな母とその子を
枯葉の林の抜道を
秘密の木蔭を
淡く眩く
時に淋しく降る、
陽のはなびらは

現を夢見た、

こころみられた
山鳩の声
それは
亙る梢、風のさざめき
あなたのいつくしみを受けて

春も秋もあなたをおもう


処女懐胎

  鷹枕可

手鏡の百花錯綜
三面鏡
臼時計の三姉妹
褪せるまで
歳月と錆びた釘そのつかの間の死へ
塑像に接吻を受け
青年の
昏く微睡める部屋より
落葉を模し
蔭の樹は孤絶のみに聳えるものを

肉体像 半円
やがて朽ち塵となり
今際を知る縁なき
単純機械そのかなしみへ副うもの
そを
希望と名づけ
麗麗たる
地下納骨所と告解室の涯てが
由縁を置く
不確実の磔丘さえも、塵

叶わなき約束 その
稔りなき死の結実
孰れも自が汚濁‐純潔を誇り
余命無き狂奔より
数知れぬ虐殺を逃れゆく
一家族は在を置く
曠野を踏み
瓦礫を棲処として

揉み千切られた柱時計が
風を砕く
檸檬の銅線を積み
折りしも飢饉の日曜に存在を患いやまぬ
物象‐精神
係る関係を欺瞞する饒舌に
躊躇わず死を告げ

丘陵を割き、聖霊機構の葬管は撓む 
  石膏の胸板より固く


にせものの、

  鷹枕可

砂の夢を淋しく貴方の指がつかみます
骨張った、長い繊細な指です
私の落ち窪んだ
懐中は
酪乳色の天体を泛べて
帰れない故郷の
帰りたい生涯へ
まるで手紙の様に
なつかしい夜の窓を灯しておりました

そして
あなたの短い種摘時が終ると
自由は、重い孤独の風位計を確めるように
錆びた鉄網に鈍く降ろされた
ダンテル縫製の艫に、
天使長の冒した死に孵ってゆく
私達を影とを罪し
捉まえては
石盤の花束にひとつ傅く
衣裳の様に
つづれほぐれてゆくのです
この咽喉に

   |

影の街端
その心臓に確実を狂う鐘の聯なりが
時を進め
それは這い縺れ綴られた
孤像の総身に
哀しみを縋り尽くした
人間と謂う噴泉の涸れた命運を標しています

塵花は等しく
鉄漿色の藻屑を受けて
誰しもが埃を払い
踵を返すのです
この絶望という衣裳を残し

わたしたちの気息が
もし希望としての喪失を耐え得るならば 
唾に価する慈愛などはないことを言伝に送るでしょう
卵管と癒着し
呼吸樹を立ちつづける実象の瞑目に
そして汽船の停泊地に
哂い歎き

視えなき群衆を溯ってわたしが
わたしであるべき
孤独に還り
一粒の籾殻を鎧戸の夕より喪い
且ての孤絶は
透明な
堕落と悔悛を
過ぎ去り、帰ることはないのでしょう

遺灰と塑像に


死刑囚

  鷹枕可

――さようなら、スレイプニル


1ページ
一匹目の鼠

「美は破壊にこそ宿る」

戦争とは、最も破壊的な芸術営為である
戦争とは、生存競争の最たる現象、状態である
生存競争とは、他者の死を糧とする、種に拠る種への葛藤も無き収穫、食人食である
従って、
芸術とは、精神、存在への現実的脅威であり、土から取られたあらゆる偶像、つまり人間への破壊運動でなければならない、


28ページ
理想像の反抗

「性善説からの反論」

それが芸術なら、ぼくはそんなもの、欲しくない


43ページ
虚構の鼻、現象の奥歯

「実は実、虚は虚なら」

ぼくの私は黴の様に渇水をした、ノアの帰らない舟、鴉が最初の堰を廻るのはそこに引っかかった溺死とカンタレラが見紛う程に悪い壜のラベルに砕けたサラダボウルだったからだと、壁龕のなかで市長舎が干乾びていた
精神病院の壁に喚く私が、壊れた防衛衝動的な狂人の鼻翼の下に蓄えられた旭日昇天旗が、常態として割鐘を降って行った、開襟襯衣の青年は戦争を鋏で切り、そして拾い集めた、それが現象の応接間の中で最も美しい鼠の糧となり、
排泄物となった、その私であった筈の書翰さえも、翼を孕む溪谷の浅く浅はかな落涙より指と、その公領を渡るべきではなかったのだろう、巻尺はあらゆる鼻と癌の稜線に陰を架けて、親友達とジャムの屑肉を上品に拭う、
正確な時計よ、きみは牛乳罐の比喩であり、遅滞をしたぼくの、捨てられた釘の奥処程に醜い物種を誇る、告別の狂奔、その人間性を墜落をする鈍色の死体であった、さようなら、且ての別人たち、賓客たち


79ページ
現実喪失者、鼠への最後通告

「否-矛盾律の摂理」

未来は止って、人は止まらず に、
00000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000, 0_____________________________




或る虜囚に捕われた獄舎

  鷹枕可

地球儀
人種絶滅収容 その歯と髪
戦禍よ
引き絞れ
議題を、
陶工達
廻廊を起つ様に
走る影の廃市
群衆は 素地であり
万物は 衣裳であり
工房は 固執であった

鼠の症例 伝染皮膚炎
架線の穹窿
電話線に
青空は地図の比喩として
拉げ倒れた
街看板へと降る地下壕200階の部屋部屋
柩の様に丹い伝令は
胴部にオルガンの燃焼に饐える蜘蛛の運指を惚け確めていた

一切が暮方をつまづきつつ
血の田園に夕餐を鬻ぐ
境涯 
住処は根底範疇のそこかしこへ
埋葬され
声は 振動する
聴く様に触れるな
そして 円く磨かれた
波長域の海に

釘の蝶番よ
私は誰であり私は誰なのか
無人‐巖塩の街跡
都市俯瞰図に
模倣像の
途端に
屑花のペダルを履み

虜囚だけが円時計に
永遠を伴い
建築邸宅の跡を
歩いて
真鍮の縁に、
巨鐘楼を 飛翔していた


忘失

  鷹枕可

それでも生きようとした
別れゆく時には 誰もがそうなる
銅の夕から 
懐中に、名残を取り出し
皺塗れの紙屑を広げ
旧い記憶を 紙屑につづらんとする
<癌化した精神には、昼が旧い絶望の様に開かれている>
捨てられた 
レシプロエンジンが 空という絨緞を縫い駈けていた日々
自転車が 百年を晒されて 錆びた骨を仰向けていた日々
風と切り結ぶ淡い梢の花々が 運河に濠に流れていた日々

庭に蒔く、
足跡には生きていた亡命が
その闘争に流麗な誰でもない、自由を臨み、
倒れゆく、革命への
制圧に、
断絶を、拘留を徹底され
<そしてかれらは何事も無かったかの様に通り過ぎる>
政府からは刻薄な沈静が、
眠りの内に
通達され、
捕縛され――或は射殺された、
青い果敢な徒花達へ 贈るものなどは、ひとつとして、

別れゆく時には 誰もがそうなる、
夕の畔に、一粒の嘱望を培い、
落日の咽喉迄を緘らんとする
誰にもなれず 従って誰でもあった 
青年期達への、短い 追悼より
そして 
降り頻る火の粉に追われる且てのはらからへ告ぐ 振り返るな、走れ と
それでも生きようとした、凡庸なるが為に、
逞しく 駆けぬけてゆく巨茴香を 指揮灯にして、 

所詮、他人事だったと
哂うなら
哂え




指揮灯=聖火リレーに於ける松明を造語化した物。


櫻の樹

  鷹枕可

花うつくしくいき急ぐ
爛れた歴史その傍らに降り散らされつつ
人を乞う、縁の花よ
緑蔭、濠を泛ぶ
花筏に湛えつつうつろえる、一日
そを人間と呼ぶ

「河縁には櫻の樹がズーッとつづいていてさ、凄いんだよ、絶景だった、墓地に枝垂れてて。
 雀がいた、水鳥もいた。なつかしいな、エエ、懐かしいあの河は今も」

埋め立てられた、疾うに

「豪雨にいきりたっちゃって、
 アリャア凄まじかった、丁度台風が来ててさ、一面が濁流なの。あれより恐ろしい河の貌ってのをみたことないね」

流れる様に、吐く様に 

「何が性懲りもないってなら、大晦日ですよ、一本も電車がね、うごいてないの、運休で。雪がドカドカ降ったからさ、駅で立ち往生ですよ。
 フザケンジャアねえッて、駅員さんも俺も、雪みどろで。ほんと馬鹿ばっかりしてましたよ、でもさ、若いってのはそう言う事なんだろね。」

肉声を
風こそぎ、仮借なく鈍く挽く
切株に 
且て旧きわかもの背を預けつつ
晩鐘を
吾こそを死に駆けて
確められ
今や

一日を孤独に融けゆくごとく

皆迄もを吾は踏み躙り
全て命脈の浅はかなる時を
枯れ枝の
矜持は孰処に、
旧り 
降る花かとぞ、

袖振る所縁も所縁ならまし

文学極道

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