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鷹枕可 - 2017年分

選出作品 (投稿日時順 / 全16作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


鉛の部屋部屋を抜けてゆく彫塑と彫刻家の影像にまつわる七つの噂に附いて

  鷹枕可

_I,黒い白樺の森へ


立ち枯れた 樹々の間を 死者たちの聯祷が 滅びてゆく
白い花々は 厳冬に 凍りついては 夜の縁に遊ぶ 蜉蝣たちは 死の翼に抱かれた おまえを連れ去る
なにゆえに おまえは 悲しい顔を 私に向けるのか 十字架のもとに築かれた 石の花々よ 
炎は竈にとどまり 青い眼は 寝台に蟠る かけがえのない 私だけの 書物
虚飾の教会が また一人 去り行くもののうえに 標を捺す 今は滅びた 死の首府にも
咽喉は 旧い葬歌は 嗄れたまま 立ち竦み 瞋っている 樹々を吹き抜けてゆく 死の嵐の様に

静かに見送られた 柩の上に 静かに 時刻を錆び果てた 釘が降る まるで永遠のように
樹々の約束のまえに 羽搏く 幾つもの橄欖と 幾多の鳩が 
洪水を 四十日を逃れた 一週間を弛緩した 花籠を 蠅は飛び交い 頑なな死を 懼れている 迎えられながら
傷んだ包帯を 巻きつづける 手指は 失われた城砦を 死の夢を見ては 履みとどまる 
喪われた人々の 沸き立つ声を 生きた光芒へと 差し展ばしながら


_III,光冠


光冠を戴く鶉の聖母が
血の濁流を
肉塊を抱擁する時
蘭を鬩ぐ死者達の怨嗟が私達の糧となる
無窮の丘陵の聯なりからは
埋葬された炎の鏑が透かし見える
侵食された港湾
食餌の写らない現像室
それらが咽喉を迫り上がる様に
溺死の羽蟻は
石鹸液に
緻密な吐瀉物の白紙謄本に痙攣していた

若し自由というものが在るとすれば
それは血の通わぬきみたちの鑑の亡き骸である

錆鉄の鍬は
鉛の季節へと枯れゆき
放射線写真に被曝の檸檬花を晒した
美しい継母の様に
逞しい父親の椅子の様に
決して彼等は
毒の蜘蛛を
毒の紡績車を
建築体を見向きもしない
それは風景の絵葉書を燃やす焼却炉に
縺れた嬰児の腸臓を
青い包装紙の遺骸の様に
救済を踏みながらそびえる
花崗岩の記念碑に
縊られた鉄錆の死の実像は
その柵に荊のダンテルが脆く硬く印象を鎖すように、


_III,死者と不死者への花束


ごらん、あんなにも馨しく春の花々が揺れている!
落ち窪んだ溪谷のあてもなく掠れた呪詛のただなかで――。

その金髪は麗しくまるで少年期の颯爽たる秋風の様に、
威嚇を怖れ慟哭の様に諸手を震えている花々を績みながら――。

あなたの歌声は歓喜にうち震えている!夢を観る修道尼の耳にも、
こわばりつつ萎れ朽ちるまでを唾棄されつづけた鏡の石像の様に――。

春の肖像を綻ぶ帆船はだれをどこへ運んでゆくのだろうか、
肉体像を糧を奪われ、苦しみながらひとつぶの干潟に餓え乾されては――。

透き通ってゆく運河の辺縁、夜の窓を開けばそこは――
そこは血の償いに飢えた天使群像に抱かれた幾多の死者達がやがては到るところ――、

    /

荘厳の虚飾を威厳としながら
淡湖の底に教会建築は綻び 弔鐘の聴こえうるかぎりを聳つ 鍾乳筍 復は慈善納骨室より、視えざる現象体の後衛へ


つめたく燃えるもの、そは椅子のうえの花壜なるとも

  鷹枕可

たとえ
血の荊と罰のなかで青い花々が涸れても 
露壇に錫の涙が燃え残るように
君達は
ひとつの家族にもなれたのかもしれない

寄せ集めた切絵も肖像紙も 
要らないのに
本当は全てなのに
嘘偽りの家族なんて決して幸福になんかなれはしないのに
夏は昼の様に隠れてしまって
私達の罰も、
喪葬の花殻も救済されてしまった
呪いの様に消費せられるまで

あなたは憶えるだろうか
麗しい偽兄妹達が
世界線から離れた、
砂の骨壺一つ残さずに

淋しい喪章を抱き竦めては
雨のなか肩を震わせる
火葬場のベルが鳴る時刻に
そして母が死に、
終戦記念日に君達も産まれ落ちた
運命紡績の子供達
それは
生れから死んでいたか
誰にも成れず
脆くも繋がれた肉声の向うに
寄り添いながら

冬霜花が結実し薔薇が散り終えた姿勢鏡のなかに世界卵は静かにも渦巻く、

名前を呼んではならない
怨嗟が死者を
十日目の麺麭の様に悪くしてしまうから
喪われた名前は
朧げな白い花より
昏く婚礼に逃れ逃れてゆく

花崗丘陵に手指が彫刻され
生々しい死後を、殉葬者達の救いもなき絶望を
地下階を指し示す

互いを憎しみ
追うこともせず
私達は
自らの手を繋ぐことなく
だれを追うていたのだろう

ドゥーブルの鏡像に触れても
硬く
複製の陶像が
蹂躙花とも融け合わない様に
心臓が刻限を薔薇の様に鬩ぐ時
夜は昼の様に昏くなり

あなたであり世界であるすべての現象に
今でもあなたは開かれている


開かれた死骸

  鷹枕可

蜜と鉄の創造者を呪う知りもせぬ海嘯の城門より
数多の死と
花被殻で飾られた
翰墨の凱旋車が
海底建築に突進して行く

緑薔薇色の死者が
常繋ぎ留める肩章徽章の綺羅を
私達は
絶無抽象の青い乾板にも探し遂せない
誰が聞くのか
紡錘機の退屈な獄舎の普遍的寓話を
死の夢のただなかに在り
死の終着のなかには
今亡き今が絡め取られた

罌粟が鈍鉄の曇雲を裂開する時
綴られた繊維紙
或は蠅を綯う
紙篇を罫線を
確実な愉悦饗宴の
黒い後刻に電気機関車の死骸であるがごとく磔けよ
自働機構への逃亡を
彫版家としての
衰亡童話が隈無く支配する零落国家へ

無辜を最愛なる理想像であるか、
純血統種の捺花は
死は今きたる
きたるべき死者のこめかみの側へ

そして
弛緩をした自動麻酔が
各々の根幹たる
神経髄の樹を亙り已まぬ為には
何れ程の錆鍬が
壌の糧を孕み

胚種脱胎の嬰児を
包柩を間歇的に噴出せしめなければならないのか

貴賤を喚き止まぬ鳥籠の死骸が
真新しい精神病院の緑なす最終面会室に
腐蝕酸の蝶番を置く

それは瞬間の薔薇の符牒を穢しながら
地下階へのきだはしを揉まれ流れていった

エドワルド・バーンスタイン史の大理石の腿骨を齧る虱達よ、旧前衛工房は突破された
後衛美術の類――絵葉書、切絵、影絵、映画フィルムの雑踏と市街広告塔の燈火を仰げ
それらが蹂躙された匿名市民のためにパッケージの尊厳と自己愛を購ってくれるように

精々懇願するが好い


どこにでもあるものをなきものとして

  鷹枕可

死までへの執行猶予でしか勿い、それらのために、

     ・

わたしの乏しき血の糧が
どこにでもある様な優しさを咎めるなら
それは普遍の窓に揺蕩うあなたのなきがらをうめてゆく
怖ろしき父親の書斎の椅子です

のどが乾き
罰せらるため生み落とされた
揺籠を花の様に笑う
口無しのみどりごへ綯われた
ありとあらゆる乳香を薬包紙がひらき、
解剖台のなかで喪われてゆくのが見えますか

それは あなたがたの尊厳です
それは あなたがたの誕生日です
それは あなたがたの戸籍です
それは あなたがたの火葬室です

余命を報せる趨勢の終わりを
母親が愛した葬歌を
踊りましょう
本当は花殻のなかに隠れてしまって
見えないものですか
贋作の偶像とも
肉体像を悪魔の白薔薇とも知れぬ
恙無い
端緒より救済されてゆく
死が終わりではないのならば
それなら

わたしはわたしを遂にみることすらかなわぬ鏡の映像のように、
つかむことも覚束ない死の癒えるまでを離れなければならないのでしょうか

その前後縦横に余りにも死は明るかったものですから
わたしはわたしを熔け爛れてゆく錫の涙漿液へ開く
閂のある中世建築物総覧を諍いの壌へと孵るまで眺めていたかったのです

果が必ずしも黎明を拇指にあてがう訳ではない様に、
曖昧なタービンの縁に錆びる蒲公英の様に
あなたたちを
冠毛と翼果で飾られた絹布に拠る
リリエンタールの花が墜ちる様に
音を立ててはならない瞑目の空間を廻りつづけているのです

物象が未だ象徴でも
抽象観念の隠喩でもなかったころに
わたしが精神を病むと電気線の拍手が聴こえると言っていました
あなたが時刻を数え、あなたが残虐のみにぬかるむ、アダムの頭蓋に吻合された両性具有の絶慟にも似て
石膏塑の偶像を毀す毎に生々しいあなたたちは処女雪に粉砕乾燥花の微塵を降らしめるでしょう

どこにでもあるものをなきものとして、

     /

腐敗をした精神の樹果はなまめかしい葡萄花を孕んでしまうから自由なのでしょうか
理路が在る様で無い哲学を少年は枕木を跨ぎながら最初の橄欖果を慈善修道院へ充ててひしめかせております 
小壜に酸漬にされた橄欖畑の風景は逆様の地球儀をつるした一本の鋼線の絃である様に絞られて
注射器のアセチレンは濃緑色の自動車婦人の容貌鏡にもさして相応しくはなかったので私製の椅子へ錆びた花束を撃っているのです
それはまるでアーチェリーの標的に沸騰液より凝縮されたうつくしく青白い病院であり、また赤十字輸血車の忙しない血のレトルトなのでしょう
膵臓を霰が徹底される毎に聖母像は裸婦像を影像として対偶でありながら永続を引き裂かれて傷む鶏頭花のさざめき已まなきベランダからの峻厳な機械元素の総てを
生きたまま死にても同じこととあなたが仰られるならばその様にも呼びましょう
或は永続の終りへ執念の帆立殻のひとつである巡礼者達を厭うのは死としての偶像ではなく世界像の不明瞭な弁明と魘夢の露見としての磔像が流す錫の微針の血脈樹にも始めから何所にも麗かな美少年達などはいはしないのに
青褪めた鳥たちを撃ち落したならば自由にもなれるのでしょうからきみたちは口にしてはいけないのです瞭然と瞠った者が瞠られる姿勢のあるがままを残虐な精神像の終始を


     ■


f被告

  鷹枕可

瀉血器が
悔悛死の自由を尊厳死を哂っていた
諸腕のない少女はつまり
失敗した
純血と濁眼の磔刑像に召された
宙吊りの針金からなる首像であり
朦朦たる花粉機械を
口腔外科前の駐車場に振動させていた

髄膜炎に周縁の果てを縁取る薔薇は薔薇でありながら薔薇ではないかの様に悪魔の臍帯を逸り
断頭台の
像と像を像する像は像する映像記録を像した
  一縷のティッシュの屑より虚誕を吐く両性具有のヴィーナスの髭豊かなる真鍮を割く働音を
独身者達の夜明、黎明の正気は
/
 /
/
「主題勿き部屋部屋に番号を振れ、
[兔と豊饒なる疫病の]
壁を
壁を
壁を
壁を
幽霊的存在の絶望の回顧展覧会に誇り驕れる
弛緩の海と辺縁」
壁が
壁が
壁が
壁が
窓ひとつとて勿き箱庭療法の、総て人間

で造られた
橋梁橋脚が落ち
幽閉された贋美少年を乗せて貨物船は船底を覆しながら次次と被告f氏の
露悪主義を哂って云った
「臨月の二十日前に鼠は
  畸形児だった」  

青いリボンを敷かれた精神病院は
鉄網の窓の隙間から
助けてくれと咽喉を切る
「看守は
暴君でせせこましい侏儒の、

奴婢で従僕で虜囚 からなり
死者達と未遂死の繰り返しに
自由は
自由のためいかなる福音の呪いを知るべきか」

f被告へ死を
f被告を絞首室へ
f被告への執行は花時計に
f被告への執行は午後四時二十六分に終った


伝令者

  鷹枕可

拍車が花粉を吹く錆鐘の第一季節にて
微動すらしらなき熱気球を剥くと
檸檬樹に拡がる
葉巻より滑り落ちた
シャープペンシルの
薬莢が緩み始めている

敷きつめられた
薇蕨縺れる自動ドアに佇む抽象の街角は
哨戒機の劈く兵卒たちに
告別されたばらを
白い喪章をふるわせ已まない

瑞瑞しく葬列は
鞦韆の有る午刻に送電線の間を
飛翔する
月時計世紀への靴跡を遺して

ウェルバー・ライト兄弟からなる鳥達を仰ぎながら
昼の墜落した街路に
托鉢修道僧の眩暈を
沸騰をする
麺麭籠の静物に何時でも受けられた
口唇の何と喧しいことか

死は死の侭で擱かれているか
終始に亙り見世物に拠って吹聴された喚声
それは
古代劇場の起源を
程勿くして発展した
廃鉱の門扉を潜る影勿き影の市営納骨所を焼く様に
少女と火事をその精神像に同じく置く

咽喉に壊れた扁桃果より
飢饉の町への街道は絶たれ
乾燥花は舷窓と艦橋を繋ぎ亙りながら
嵐の散弾を撒く
孤絶をただ一つの峻厳と抱えながら


.


希臘の精神に
砒霜の花が結実し
永続起源の棘が死の符牒を世界と凝るまで
幾許かの韜晦が臍として穢され
田園を捻れて屹える蛇の樹は
数秘術の崗に
岩窟に青聖母の外套を
紛糾する十二の独身者達を
存在をしなかった単純機械の様に
聖像破壊の機運に破棄してしまうだろう

石像の少年達が運命を誰ともなしに鳴響する冬薔薇の水甕へ嘱目する様に
普遍死の骰子は静脈坑に繋がれた市街地を鹹い塩の思想家達の捕縛をものともせず喚き已まず
周縁より罅割れた花崗石の紋様は翻って遭遇者達の躊躇う靴跡の様に舞踏し、
静かな蛇蠍の草花はうつむきがちな水萵苣の拘縮を柔かく緘口令の町に通牒を報い続けた

戦禍を招く国家がひとしずくの歌劇或は花劇を忌々しく掲揚を期す
残酷劇俳優達はひとりのこらず精神病院に週間紙のゴチック文字を糊塗することを止めて終った
而して本当は知っているのか、全ての教会建築は臓腑のため乱鐘を打つのだという事を
熱風に撓む空襲の窓から燦燦と焼夷弾が撒かれるそれは良き糧の収穫などでは無いのだ
決して結実を期すことの無い堕胎された恩寵のかのひとは、誕生から別の誕生へ亙っていたあのミルクの、
偶像への瞋りのように孵る木綿の真っ赤な花々を踏み掻き分けながら、それでも何者かになれると思っていたのだろうか
既に余命を数えるには歳月は速く遅く、滲んだ丸時計の、落ちてゆく少年の、

人動貨車の周縁を、


箱庭_【或は選者氏へ、】

  鷹枕可

眠れば、
光暈が静か、
騒めく
熟れないわたしたちの小鳥が
わたしたちが鳩の心臓を
包むやわらかな降る花が
だれのものでもない、
あなたの、

めまぐるしく
喪われた攪拌機のうちそとに
癒えることなきこどもが
石灰の墓碑銘に紛れるならば
わたしは
わたしたちの死を
あなたへ、

孵れ、
今は今でしかないのだから

明るい夜
だれかが死ぬ夜の絹のなかで
明けやらぬ電球
器械の、
全て喪われた
個室のラヴェルを擱いて
逃れる
亡命者がくれた
青い雛罌粟のかたち、
生きていた記憶
それはあなたたちの、

産れなきこどもを
少年たちを
個人を 俟ちながら

かれらは死は迷宮建築を今も尚燻り、

_


私が、なにものでもないわたし、に
降る、鎧戸を霰が、
ああそれは、
かのものたちが、
死を忘れつつ、腐りゆく、
薔薇のフーガを、
外套に包み包まれた、鳩尾をながれやまず、
それは青ざめた縁の、
辺縁を差し、
楕円を姿見として
再発を、撒く鉤十字の
忘られなき
罰をあたえる、あなた、へと
泥濘、
模倣のような雹は、
やわらかにも嬰児虐殺を、
古びてゆく、諸々の切窓に、
狂人達の晩餐は、
漆喰の、
瞳を、
喉をくつろげて、
底を、呻る、
轍のような死に
溜められた瞋り
白い瞋り、
文法へ開かれた
吃りの、驟驟とした、
何もない、嘔吐、
労働者へ
腕のない眠りより生臭い、街燈の底へ
傷なき繃帯は
追うか追われ、
骨灰を、煤埃を、
あなたが、なにものでもないあなた、へ


青い繃帯

  鷹枕可

菜種花と橄欖の膏薬に縁どられた昼よ
海星をおまえは踏み
海星はおまえを掴む
しかし誰が托鉢箱のなかに濁血の手套をなげ入れたのか
酷薄な街燈の穹窿よ
咽喉はきみたちの告解の価値を報せ
伝令鳩のベルは遅く鈍い採掘夫たちの掠めた鉱石の瞳の様にきみたちを水葬燈に切り開くだろう
巧緻の球体は蔓薔薇の鏤刻に呪われた歳月を確め歳月は煤窓の鍵盤を穿つだろう
酸い嗚咽よ、扁桃に拠り始めて表象と成る肉体を包む希釈液の吐瀉物としての死よ
自由の勿い瑠璃青を滑落してゆく市民達を
飛翔する幌と帆と懸架をされた銃剣の無罪証明は紛れなく別ち乍
建築体を渇く後悔の抜殻は映像機の、死の勿い眠りまでを乾き存在の興味とした

_

柱時計
慈愛の終り
真鍮振動子の悪霊達
陽が堕ちる、地下階へ闡く石の死へ
機械創造家は
機械像の余命を燈の壜詰へ
禽舎の底に
裂開をした
水棲樹を物種として
売地を
終端より終端を
腐敗と偽徽章の季候へ曝す

閾を刻限として
褪褐色の地球像は
今なき鶏頭婦を静めながら
公衆へ
懲役を
檻車を鈍重な秒間延展物象時間へと孵し

青く薬莢の匂いは
死後生の塵程のつかの間を
糜爛し
禍根としての画廊を亙り
自由なき誕生は
死を死と呼慣らすまでの、橋梁と実象、それら構図

穢れた楕鏡を抱えつつ
 曠野を亙りゆくものもあり、

鋳物の血と
薔薇の透視法に
遠近を鳴る
緘黙の受肉週間に
経緯を織る岩窟の老姉妹に
第七の旋条門は開かれ、


|

アウトマタ
機械耄碌家達の獄舎
蟻走車
橋梁は落ち
死者を喚呼する
ベルが鳴る
その名は
孤絶流刑地二十一世紀「地球」

麗しく
醜くも
終末的季候如何に係る
叛逆天使達の
黎刻肉体時計は
逞しき翼撓骨を引き絞りつつ
建築家を追放し
附記をされた這行類匍匐臓花は
球体矮星を呑む
藍青

乾燥写真を燃焼処置するものどもへ
議事堂の母胎は
現実
つまり
魘夢を
告解室の鏡像へ梳き毛髪の硬き公開衛生博覧会が
死の夢を死の夢を
死の夢を死の夢へと
孵開された叛花殻の
緘黙拇指を麗麗と欹てては

偶像、復 群像を呪わしき影像が履み
弛緩鹹湖の野棲無垢たる
剣百合の鋭角は
鐘塔建築の矮鍾舌を
被創臓物花の鉱体に褪色を及ぼし
別人としてを想像-増幅する
現像機関肉塊樹、オウイディウスの薔薇変容

花婿の死は緑礬の様に
そして花嫁の死は繃帯の様に、


喪われた白罌粟の子供達へ

  鷹枕可

_

硬い薔薇が石膏に解けてゆく刻限
頓死したピアニストは橄欖の様に昼の齎す虞れに咀嚼されていった
彼の重篤な切迫を饒舌な昼顔たちは真鍮の喇叭の様に吹聴している
あのユダヤ人達が
絶滅収容所に送られてから幾年月かが経ったのだろうか
無感覚に沈み遺灰の様に蹲っていた
死が罰であり
余命は呪わしく縁戚者の訃報を囁く
私は病み果てた総身を姿見に映す
机上には食べ掛けの無花果が死婚を祝っていた
羸痩の骨と血、
印象は暈み
隠秘されるのみ
肉体像の窪を隆起を誰が知るか

_

疾駆する彫刻家の亡命列車は
白の終りに夜を置く
ケルビムの真鍮花が群像を飲み開いた
錆びた釣鐘は誕生を祝わない
雌雄の威厳は罌粟粒程に矮躯を呈していた

昼に墜ちる
昼を充満する花殻が
火葬台には青い肉親が仰向いていた
骨の灰を
物象として
人物像は斯く鳴き喚き
嗚咽より離れゆく花々は
最後を経つつ
簡潔且つ素焼の骨壺は尚も端正であった

薔薇籠
死の抽象を終焉へと展ばす
秘鑰、劇物の壜乾燥器
それら永続死に
贈るべき埋葬を顕花に祝うとも

_

昏い釣鐘の声が
墓碑を落ちる花崗岩の影像に
血の翳を踏み
慈愛と謂う名の
呪いに縁取られた少年の
傷み続ける咽喉が包帯に渦巻かれ 
十字架の影が
昼の葬列を翻って燦爛と
幌附乳母車の様に
縫針を模倣とする植物時計に斃れていた


そして
喪われた白罌粟の子供達へ、


厩舎に散る種の名は 収穫

  鷹枕可

誰か踏む
街角の影
哨戒機が巡邏する
天窓より見下す
花束を燃えゆく
第三面会室の門扉
その人体建築
昼を乾く向日葵
瑠璃藍青の蜘蛛窓に檸檬が繭の花が繋る

睡眠薬を
白砂糖の睡りを
疑り
草花を翼と見紛う
褥の影像が延展される
慈善と慈悪
その別ちがたき
黄薔薇の肖像写真に
銀錆腐蝕の花被は磔像を跪かず
修道、葡萄樹を厭う

総てを市民権を略奪されては
踏み拉かれた
水晶体内の巧緻修飾その衣類を
偶像と看做す
唯物的想像下に於いて
精神病たる私は
飽く迄も種的逃避に外ならない

薔薇と遭遇、
巡礼者が帆立殻を
偏執的片眼鏡に観察する時
静謐静物の像と看守は
一握りの塩粒の整流濾過壜を電燈として

書簡には
綺想幻想動物の骨格が
普遍鉱物の繊細なる機微を寧ろ恩讐より隔絶し
機械史の乳房は
蒼醒める胸像に死の赦しを
懸架し已まず

暴風霰打つ邸宅建築の丘に
私達の髑髏が離れてゆく様に


教会地

  鷹枕可

とめどころも無い広さを飽く梳られた電気の広場を理髪鋏の葬列が寄掛かってゆくには些かのパン屑が必要であった
握り締められた手の容が最初の偶像となるだろうが憎しみの愛は始まったばかりなのだ
貿易便覧を眺めて見れば噴水と鳩時計の近寄り難い距離は明瞭な物となるであろう
何よりもまず掴まれた昏い花の手指がシチュー鍋の乾板に沈みこむまでに遣り遂げなければならないことは鉛色の銃、
それを握りしめた大広場の白昼の彫像、ただならぬ微笑にさえもガラス瓶の独立記念日がドアをノックする様に、物象は丁重に退廷をしてゆかなければならない
証人台に録音機のヴィーナスよりも見苦しい踵が逆様に曇る愚者の万有引力を提唱すると、
電気科学者たちは鼠の血や鸚哥の翼を納めた私書箱を発端とする記録的な更新世の死体を流行病隔離室に匿う
葡萄地方の鈍らな愉悦に劇場を築く程に閑散として笑った幾つもの骸骨のただなかで
踏みしめられた胸像の微笑が堰を切って放心して行く今と今にも地下鉄にも檸檬が輪転している半自動裁縫機の正確な縫目を掻い潜りながら
誰もが血糊を避けて歩く
過去に於いて想像をされた機械と現代像に於いて展望をされる機械工学の間隙を諸々の抗精神病薬は眠りながら立っている夢遊擬似症の偽婦人たちに跪く外に手筈もなく
収監者達であり私達でもあるべき所の独房の丸時計に釘打たれた麦の抜殻を熟れた病人が腐り始める、錫の薬莢に拍車はかかりながら

_

めざめよ夜のはじまりから喘息に到るまでの幾つものキャベツロールに添えられた釣鐘の叛教会主義者たち、
自動車から瓦斯燈へ回顧展から処女受胎へつぎつぎと傾れ喚く貨物帆船乗客たちよ
今は許そう、非-面体の三角法が採掘される迄には充分な時間が在るから しかし福音機械書記者の想像限界は人間達の咽喉の林檎よりも静物に近いようだ
私は一つでも取りこぼしたことが有っただろうか、総ての名前を記す指には終世の光悦が約束されているが鍵盤が落ちた部屋には閂が降ろされるだろう
君の部屋にも閂が降ろされるであろう、それは青空の壁紙を延びる積乱雲の遅い聖霊達の刎ねられた心臓でもあるかもしれない
収穫は悪魔であり白薔薇色の石鹸でもある、それは叶わない戸籍録のひとしずくの泪ではない、見て御覧、ミニチュアの市街地を塩の柱が振返るところを
不安症の部屋部屋は妊娠された、堕胎の少年ははたして雌蘂か雄蘂なのか、
両性具有の海を拾うひとびとが呪いを受けるとしてもそれは近代と現在ほどの些末な違いに過ぎないのだから、
つぎつぎと埋葬された遺骸骨の壺が掘返されたところで何ら恐れるべきではないのだ
たとえるなら死が総てに降りかかることをあらかじめ決められた始めての手紙でもあるように


信仰告白の避難

  鷹枕可

世界の涯までも領海なのだろうと彼等が鬩ぐ、彼等は牛乳壜との戴冠式を終えては潜水服に嘯く、酷い雑音が劈いている、そのときからかかのときに到る迄を、標高のメートル法を越える峰が電話線を渡しながら海に逆立っている、かれら処女航海は海の上、何時でもランプシェードで出来た鳥達や鉱物学者たちの卒倒癖は陽の目を見たためしがない、時に火と愛であり壊れた蠍のシャンソンであった拡声器の避難勧告は緩やかな海の底より海抜数万ヘルツの空の蓋に到るまで賑やかな上昇線を辿り、獄中の樹木に人間達の的がまるごと収まるほどの乾燥壜をいくつかぶらさげて綜合病院の窓をくぐる、彼が思う様に他者は他者であることを発見したのは麺麭屑の蝋燭が12歳をこえた頃だったが、亜鉛の幾何学、海の縁にこびり付いた航海士たちの靴跡へ必然の椿事が滞りなく取り行われる為には薔薇の模型と膠着したステンドグラスの真鍮溶媒が必需であり、その殆どを雄鹿のヴェールに舞踏する狂人の採算に追われなければならなかった、凡そを開き速度計が降り頻る通販カタログの蝶番に挟まれた未遂の開胸術は銅鉱の鈍い吐気を振り切って落ちるまで花の西洋燈を灯りつづけるだろうか、蟹の花は愈々馨り灯蛾の多足植物にその寝椅子を委ねるだろうか、それらは果して線香の天候を曇らせ瓦礫の微笑する窪に並々と注がれた硬化アンチモンを聖遺物の古い習わしから透徹させ得るだろうか、詰問の後には必ずと言って良いほどに別の舗装路が敷かれ、誰しもがそれを通るが私達は別の選択をこころみてみなければ為らない、例えば噴泉の陰鬱、精神病的腸詰の黒い煤窓、神経衰弱患者達の死への紛糾と融和、在るのは絶望より酷い花籠だけ、相場師達が若し悪魔的な潔白を解き磨くならば鈍く鈍い銅版画のなかには一体何者が縦横を切り揃えた馬丁の個人的権限を攫って行ったのか、屡々軟膏には結膜炎の兆候が垣間見える様に許された伽藍には紙の翼に係る日時計が置かれている、その時刻を認めるには明瞭な拡大鏡が必要であり、偶然と呼ぶべきものは骰子の嵌められた断頭台より多くも少なくもないと広報される、継手に蛾の死骸が挽かれる、広場の露壇に湛えられた海に、


習慣の結像

  鷹枕可

殉教花被、燦々、暗澹たる季候下に
中世創造動物図鑑を
婦像柱の
臓内投影機が確かめ
開胸鏡への切離を棘の籾殻に露見している
地下階解剖つまり秘匿
硬き静物花を擱く
聖人機械、
自動恍惚装置としての瞬間
終端の運搬車輌
死を刻む、
刻む物象の死を
未死の神経-被覆繊維として

鹹き血漿時計を
静像-塑像とも均しく看過する地球像の影と影、
編成流刑地に欹てる
円錐鉄杭の拡声、伝達
植物模像-人体模像
その鋭角を飛翔する
私達それは血統の様に馨り
懐疑に産み乾され濫觴滑車を統べるもの

貨物車に倒れ
奴隷船に運搬を担う、愚人とは
錆鉄酸の地層を綯う向日葵を、
蟻酸拇指壜を湛えつ
戦慄く飢餓人物、孤燭と孤絶
成果と欺瞞
その恩讐を掻き別けつつ
視界内現象は
鈍い腐朽像へ
被磔刑者へ
残酷偽劇を移管遷移せしめ
惑溺を常とする瓦斯麻酔医が緋色の胸膜を覗く

階段から階段へ
峰から伝染病へ到るまでの現実を
死の鍵盤は軋みつつ
それら敬意を
簡素な映像投影機は鏡像裡に逆立ちて存続し

一般的堕落の少年は既に放縦な外世界よりの逃走を砥ぐだろう


影像係争

  鷹枕可

白い瓦斯室に
市営納骨所の柔らかな安寧にも
火薬庫の影像を胸像鏡に抱くものか
普遍乾板に憂くも
白昼の捕縛が躊躇わず
心臓の腑より白銅錘鍾を
一撃の花束を堕落飛行艇のプロペラに瞠る毎に
純粋機械器は立止まりつつ躍進する、
風圧計に調整弁に
草樹に繋る速度時計に
そして幾度かを市民は
指鍵指向標-刻銘針を
存在なき優生学的な優悦の、
被懲役徴兵令-国家機構へと邁進してゆく

誤謬の椿花
真冬の様な統制に
叛体制家達の徽章修飾は
憎悪の照準、
死線へ牽かれゆく
沸騰する錫の巨花鉢に拠る乾燥献花の相貌の様に
黒薔薇色の市街列車
或は
霊柩、その巧緻鏤刻線が閾を
終始を亙る夥多なる抜殻より崩落する
別の命運を縫い合せられた
人物群は果して、
よもや
私と謂う個人への
余命数代筆たる蒼白い手套でも在るのかも知れず

簡素流麗な
螺条旋の厚紙、白薔薇
渦巻く海縁を靴跡一つ残さず、
国家より
異端者の確かな汚濁純粋に
書翰仮説の神々は愈々
後衛的な、
酷く
前時代的な影像への出自を顕し、
叫喚呵責をやや緩めつつ
被造体の、
血髄と硬い檸檬樹樹花からなる
死への自働小銃装置であり
離縁婚姻者たちでもある
六十基の凱旋門に穿たれた多翼熾天使たちの鱗翅目の一つを、
最終列車の
絶滅収容所の果てに


想像の遠近法

  鷹枕可

真鍮把手に無窮階段を
ベルの花籠が婦像を糊付けるまで

浮腫腫瘍に紛れる
麻酔医達の精神指針は
廃墟構内精神病院に
紙の城砦を焼く
絨緞由来の扁桃人物達が
盲目の乳房を
黒檀簡柩に花被-被殻の様に創物と看做す
それは陰鬱の縮膨現象、
心臓腑界の輸液翰壜であるインク
車轍であり門扉の柵でもある
白薔薇の徽章
靴底を蹂躙攪拌鏡より
分身へ

陰の天球体グラス白熱燈より
偶像機構
投影装置より鳴響する
蝶翅鱗粉時計の
城と月蝕遠近法に
絶無具象体たるわたしがいる

酸い橄欖
或は書簡の鳩尾
蒐集家の靴跡が去る様に
永続命数速度計は
加速してゆく
純血主義の終焉までを

酪乳色へ紐解かれた
塑像幌と静物瓶の
遅遅と、そして硬い鉛球は
融錫鍋からなる近代機械翻訳機つまり
習慣的彌撒の亡霊であって
宮殿画そしてその建築家達を
爾後刻の散逸期に
猖獗女鳥『ハルピュイア』が
鉤裂の帆を
離れて散ったグラス白熱燈に燃える薔薇へ孵す

それは絶鳴の音叉ではない


全て墜ちるだろう

  鷹枕可

戦禍と
悦びを
係争の終わり
絨緞爆撃に崩れ落ち
こぼれつづける墨染の薔薇、建築
それらを
私の鞦韆のために

市街地にて
私邸
焼跡に縋り歎く
その母の
日曜日の死骸
幾多、罰と謂う名前の
遺物-除籍手続
予め約束された貿易花の
今しも紐解かれようとする
運命の必然へ帰趨を棘とその遭遇たる孤絶へ擱き遣る、
諸諸の展ばされた両腕、慟声より、

死後喝采を受く
蜜蜂の様に、
建築物の影たる静物像の様に
鈍重な柩が過っていた、
彼等は皆
翰墨を覆う絹を引いていて
解ることは霊柩車には火葬室の馨りすらひとつとして残らないということだけだ

そしてその臓腑を青く、血縁達の瓦礫統樹よりも蒼穹に似た加葬令の花總の様に、

廃棄物の時計に
夜と昼を隔て
翳翳たる凹レンズが遠近鏡のなかで
花粉階段を降り、
樹々の死骸を上る
それでも薄絹の梯子は静かな約物に揺れている
飢餓の薔薇を
程なくして紡績車に縺れせしめて

放擲された花束は暈み、
宛名書のない黄昏を指に押しながら
皺嗄れた房事と
十一週間以後に
堕胎された咽喉より
禍根は血婿浮く曇雲の部屋に

凡庸-劣等の結実でもあった筈の
機械趨勢、
優生学の統計部屋は収獲野に棘の花を踏み、
踏み拉かれた公海、公衆的領域への閾は
被覆樹脂-銅鋼線に巻かれつつ
存在の実象を離別してゆく
彼の婚約縁戚者達のように

命運と死
その夥多を
簡素柩の懸垂樹は開き
縫綴じられた鐘と、
闇陰境に欹てられた耳殻-籾殻
螺旋を撒く人物、
それら完膚球形の人体時計は
皆酪乳の疵であるかのように
流麗な海縁の門
その額縁に、
偶像盲紡錘婦「フォルトゥナ」が総てを涯てもなく見る、骨壺のなかのひとみを、

文学極道

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