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石村 利勝

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

  • [佳]    (2016-06)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  石村 利勝



ひとりで 笛を 吹いてゐる

何だらう
この痛みは
ひしひしと 胸にささつてくる これは?

ひとりで 笛を 吹いてゐる

むかし覚えた ひとつきりのひとふしを
くりかへし くりかへし 飽くこともなく

ひとりでゐる 全く! たれにきかれることもなく
私は 感じてゐる なにものかで みたされた このひと時を
私は 感じてゐる たれに知られることもなく ――

愚かだつた頃の 想ひ出さえ 何もかも懐かしい
私は笑みを浮かべる 今ほど優しい 心をいだいたことはない と
それでゐて これほど 悲しいのは?

ひとりで 笛を 吹いてゐる

むかし覚えた ひとつきりのひとふしも いつしか忘れ
笛の音は ほそく 青く 澄みわたる

私は 夢をえがく ひとびとはそこにゐる
空と土がひろがり 樹々があり 季節がめぐる と

だが私は また ひとりにかへる 永遠を見る
そこには ほんたうは 何もない! それでも

私は 願つてゐた 懐かしいひとたちが
そこにふたたび もどつてくる日を

笛の音は ほそく 青く 澄みわたる
そこにだけ ちいさく 空がひろがり 時がながれる

それでも 痛みは 私の胸を去らない
何だらう これは
ひしひしと 胸にささつてくる これは?


命でゐることは 悲しい
何もかもなくしても 私ひとり ここにゐる



(追記:6月11日、最終行の一句を改訂しました。)

文学極道

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