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深田 青

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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ソナチネ

  深田 青

雨が降り続いている夜半に
街灯の光を受け煌きながら落下してゆく雨滴の群れが
黒いアスファルトに散り再びと輝かずに夜の闇に沈み
あとは沈黙するばかりでいる。
取り残されるもの悲しい街灯の立ち姿に
僕の、震える指先が、何かを求めて触れようとするが
唾を飲んで拳を握りなおす。

///雨が降り続いている
植物達の葉を叩き強さを増すばかりの雨の重奏が
この夜にまとまりをもたらす

  春も終わりだというのに息が白い。


いつまでも/継続し続けるかのように思われる/夢の/やわらかい皮膜
を /単調に切断するスタッカートがつけた/小さな裂け目から/じわり
と滲み零れだす/羊水に濡れながら発された/新たなる旋律は/極まれ
る高音 /穢れを知らぬ音は/白い譜面上の涙の滲み/そのドロローソに
/柔らかな音を編みこんで/悲哀と歓喜のtonalityを図る///

  息が、息がやはり白い。


忍び込んだ駅のホームで小さく蹲って慟哭する
悲哀を顕わにした僕の孤独を全て、
コンクリート上の鍵盤に託し
透過する旋律までに昇華させる、
演奏によって奏者が清められてゆくのは真実なのだと、
僕がそう感じ喜びを憶えるまでに
数本の貨物列車が通過した。
蝋石で鍵盤を書いていたから朝が来る前にそれを靴で躙り消す。
強く吐き出された息の色が何色かなんてことには目もくれず。
  
  けれども息は、白い。
  変わらず白い、が――


駅舎から出ると雨はまだまだ闇中から降り続けていたので
暗い雨空に一つ咳払いをして、指揮棒を振り上げる 。
落下する雨滴に洗われる清い大気をうねらせる風の音を
また其れに素直にざわめく木々の音を、
雨の、
雨の歌を、
新しく躍動を始めた僕のこの心音と共に奏でてゆくと
それに応えて何処か木陰で鳥も啼く。


夜気を大きく振り切って
僕はいま生を奏でるマエストロとして濡れたアスファルトの闇に立つ。

  
  指揮棒を振りながら思う
  少しばかり悲哀に翳り
  しっとりとした曲だけれど  
  きみはいつものようにくるくる踊ればいいよ、と///

文学極道

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