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常悟郎

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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砂抄‥ 或いは冬浜の枯れ木

  常悟郎


あの島の老木から
新しい芽吹きが生まれ
‥命はすべて
冬の海へ
帰依してゆく‥

砂浜に戯れる若い親子連れの
握りしめた小さな手のひらから
貝殻の笑い声が弾けて
便所の前に座り込んだ障害を背負う少女は
やさしいまなざしに支えられながら
折れ曲がった手で
必死に何かを‥語る‥
俺は冷めたアタマのなかから白いオムツをひとつ取り出して
海へ流してやる‥
砂浜の向こう
遠く霞む
青空を
ひとり見つめている
そして
脳幹を伝う
靴底の乾いた砂の感触‥ ‥幸せは零れゆく
海砂の残抄‥

たとえば老衰で死にかけた父の額に、真っ白なブラジャーをかけてやる
その後で俺は
痩せ衰えてくの字に折れ曲がったからだを、やさしく包容し、枯れた額に、ひとつキスをする
そんなことをして
本気で微笑みかける俺の歪んだ顔に
ひとすじの涙が
頬をつたう‥
窓枠の外
曇り空があけ
愚かモノが
はじめて血脈の何かを
語る



瀬戸は引き潮がひとり
残された砂浜の足跡
穏やかな緑色が映しだす
過ぎた日の
こころの歳磁器
むかし松林がゆれた
岸虚ろう朽ち木は
静かな冬の海へと
溶けてゆく

文学極道

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