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小禽 - 2009年分

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


闇よ

  小禽


何が欲しいと聞くな

あの月明かりが欲しい
あの街灯りが欲しい
夜道の全てと夜空の全てを私は欲する

けれどお前が買ってくれるな
お前は何も買ってくれるな
私のものに触れるな
近寄り話しかけるな
私の目に映るな

この夜から出て行け


リビングの底

  小禽

sindehosiisindehosiisindehosiiと呟くパソコンの前で一人。すぐそこの大テーブルでは橙色の灯の下で家族が夕飯を囲んでいる。海底でひとり泡を吹き出しては喰らう深海の味。彼らは泣くことが出来るがわたしには出来ない。この海はかつて私の悲痛から生まれた。これ以上に泣くという事はない。そう教えてやりたいが余りにも遠い。お前らの食っている魚はわたしの海を泳いでいたんだ。わたしが育てたんだ。そう言ってやりたいが言う術がない。海は日々深みを増す。リビングの底は沈む。


透明の息

  小禽

もう一度地上に出てみると、以前のようには暮らせなくなりました。あの冷たい息が、わたしの故郷を真っ青にし、あの黒い影が、すべての光の後ろから深い穴を覗かせているのです。わたしの立つ地面はそうして穴だらけになりました。まるで今までの世界は全て嘘だと言われているようです。わたしは地上にいることが随分辛いと感じるようになりました。そして小さな穴を見掛ける度に、あの本当の透明を想うようになりました。地上はだんだんと青を濃くして、明けない夜を迎えています。わたしは気付くとあの崖縁に爪先を掛けて立っていました。幾つか静かな呼吸をし、肺の膨らみから、透明の穴に落ちていきました。

文学極道

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