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傘子雨宮

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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夏色

  傘子雨宮

いつも通りの朝。どこへ行くでもなく、何をするでもなく、僕はただ外を眺めていた。何の変哲もない窓枠は、時に僕の人生を映し出す。耳障りな蝉の音がオープニングを飾る。

小さな子供がはしゃぐ姿を、この歳になってまで羨ましく思う。あの頃の僕には与えられなかったもの。
体を動かすのが苦手だった。外に出るのは学校くらいのものだった。鉛筆を持ち宿題をする毎日に、初めは嫌気が差していたが、それも気が付けば苦ではなくなっていた。
ふと汚れた窓ガラスが目に入る。それだけの事に苛立ちを覚える。
あの日もそうであった。
騒がしい音で目を覚ました。母が近所迷惑な声で喚き散らし、それを宥めるのは、父。
今となればどうでもいい事だが、母が僕に父だと言う男を、僕自身は家族だと思った事がなかった。
その男は母を抱きしめる。母は次第に落ち着きを取り戻し、僕に気が付く。涙で顔がぐしゃぐしゃな母と目が合う。急に顔が凶変する母に怯える。ここで泣いてはいけない。母に背を向ける。部屋の一角。唯一使う事を許された場所。今にも死んでしまいそうなくらい暑い窓際でも自分だけの場所。掃除される事のない窓ガラスは黒ずんでいた。

窓を開ける。生温い風が肌に触れ、不快だ。いつから窓を開けていなかっただろうか。妙な気分に襲われる。


子供達の声がする。誰かを待っているようだ。はしゃぐ子供達の元へ走る若めの男。高らかな足取りで。彼が足を止めた時、子供達は消える。彼が俯くと、差し伸べられる手。彼は顔を上げる。とても細く、今にも崩れてしまいそうな体つきをした中年女性は彼に言う。

「ごめんね。」

彼は泣いた。泣き続けた。

窓枠では収まりきらなかった感情が、エンディングをかき消した。

文学極道

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