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寺崎正志

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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ギムナジウム

  寺崎正志

目をとじて
君は殴られる
まぶたの裏に光がひろがる
目をとじて
君は抱きとめられる
しっかりと、やさしく

君の胸の中にある
白く、明るい、真四角のテニスコート
悲しみなんか額にかかった小さな影
君が動けば形をかえる

たとえば、祈りを胸に
どこまでいけるだろう
目をとじて
僕は殴られる
僕は
人間の体が意外に頑丈だという話を聞くと
うれしくなる
大学は、そっと未来に祈りをささげる場所

その僕の胸に立ち上がる あの体育館
僕は毎週 そこのプールで泳いでいる

僕は抱きとめられる
しっかりと、やさしく
神様に抱きしめられ
その腕の中のこの場所に
無作為にあつめられた僕たちは
であって チームを作り
二人一組になって ボールを投げたり 屈伸したりして
この施設の中で


希望は悲しみによく似ている
同じ方向にある
君は歩く、強い風の中を、顔を上げて、ゆっくりと、
まだ、見えていない景色について、規定するすべてを耐えているのだ
君の歩いている姿を見た人々はみな
いつのまにか見たこともない体育館の話を始める
僕は夜の夢の中で
神様の荷物を運ぶ、神様を席まで案内する
座りやすいように神様のために椅子を引く
もし大学が人間だったら絶対首絞めてるね絶対
ドアを開け、神様を先に通す
あとは、神のみぞ知る

目が見えなくなり
耳が聞こえなくなり 口が聞けなくなって
全身がしびれ そのまま 殴られ続けるだけの
抱きしめられ続けるだけの

僕は残らない
空白の中にあの体育館だけが残っている

むこうの方で音がしたから、返事を返した
君が、見たこともないそれを覚えているから、僕もそれを思い出すことができる
いつか僕も、思われることのなかったものたちの大きさに
飲み込まれてしまうかもしれない
昨日も明日もひどく遠くなるだろう
まるで一方通行のむこうがわへ望みをつないだ
祈りのようにたちあがるあの施設

僕は忘れる
あの体育館だけが残っている

文学極道

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