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砂木

選出作品 (投稿日時順 / 全7作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ちにく

  砂木

ゆうらんせん に
ぼろぼろ つめあわされた

ちの かたまった
けあな が すっているのは

どすぐろい よだれ

くんしょう に にぎわう
きれいな まちに

ぺたり ぺたり と
つぶされた めが むかう

うつくしいだろう
そうかい

そして
どぼどぼ となぞってくる あらい いきは
マストを からだに
さしこんでいく

ないぞうは
くわない


休日

  砂木




服の仕立て屋の看板の前のバス亭から
町を離れる時刻は 数本

昨日の夜から待ってた 朝は
大きな通りに 越えて 来た

牛乳配達のバイクが かちゃりと 続く
家の開けられた窓からは 蛇口を使う音

財布には 往復の交通費と 少し
明るい色にしようと決めていたシャツは
昨日 羽織って 洗濯してしまった

古びた暗い服のまんま バスが来るまで
透明な袋を破って パン かじってる

天気には 違いない 雨じゃない

折りたたみの傘 そっと 触れてみながら
青い海原へ 白線を たどる 


陽になれ

  砂木




木の蝶
歩道橋の手摺りに置いた

棒に のっかってた
口元 陽に さわり

生真面目な終わりから始まる
朝に 応えるはず

腕の中で 木に戻り
変えられた 前の顔

幾度も 聴かされてた
古い 葉の つぶやき

飛べないもの 飛ばそう
小さな水滴の 落ちる
手の冷たい 夜

スピード上げて 走る車の上
水脈から遠く高く

木霊が 冷めた 眼を揺らす


花瓶とコルク

  砂木




はずされてからは 机に
並んだままのコルク

昔いた場所には
白と黄色の花が
さし込まれている

細い緑の茎から
吸上げる水は
今は 無関係な液

祝うために届けられた
紅い液のための コルク

驚いた笑顔と
静かな灯りのための

そそがれた眼差し
閉じ込めた 日付け記した瓶の
横に 並んで

窓辺の カーテン開けて
今日の光に包まれて

飲みほしたものは まだ流れる
何処かへ いってしまうから どうぞ

戻れなくとも ここから
並ばせて ふさぐ コルク


コルクの海

  砂木







おでかけじゃないさ
ココの 塩ぬるい空き海に 

連れて来た手に
ちゅー返り
波にサスラワレタ

ひとつ
瓶が 

帰れないで いるはずで

沈みながら 砂粒に
ならずに 

その 浮かばないイレモノに守っていた
水源が 飲み干されて 

二度と目に触れない場所へ
うずめられても

ズイブン のんびりしてるように
みえるかい
これでも

迎えにいく所
今度は 何を閉じ込めてやろうか 

ねえ


古蝶石唄

  砂木




枠に閉じたら 絵だと
逆らわなかった息づき

飛べたものが 石の中
墜落もできずに

鎮火を待つ間
まだ 蝶でいる


とんぼ達と

  砂木




今年の初雪に白く染まった林檎畑
ついこの間 葉にしがみつき隠れていた
とんぼも地面に落ちて
死骸になってしまっただろう
あれはまだ私がずうっと若い頃

バシャバシャという音が
霜の降りた朝の畑に響いていた
ジャージに長靴をはいて
林檎もぎのため畑の中を歩く
聞きなれない音にあたりを見回すと
とんぼが何度も繰り返し
草の上を上下に飛んでいた
その必死な様子にひかれて
側に行くと とんぼは逃げ
そして のぞきこむと

霜柱に凍った草の中に
別のとんぼが 動けなくなっていた

とんぼが とんぼを助けようとしている
そう感じたので 霜柱の草むらから
羽をつまんで とんぼをだして
近くの安全そうな草むらに落とした
とんぼは抵抗したけれど動けないので
落ちた場所でぐったりしていた

あとは知らないよ
それっきり忘れて
りんごもぎに集中した

そして陽も射し暖かくなった頃
畑の中で休憩をとった
お茶を飲みつつぼーっと青い空をみていたら
しっぽにつかまって 一組になっていたとんぼが
ふらふらと飛んで来て
私の眼の前でぴたりと止まった

お互いを認識してみつめあったのは
一瞬のようだった気がする
助けたとんぼの夫婦かどうか
確かめるすべもない けれど多分

あの細い手足で何度も助けようとしていた
あんなに悲痛な羽音は 悲鳴はきいた事がなく
私が去ったあとに かけつけたあのとんぼは
きっと つがいを助けるために
全力で暖めたのだろう
敵かも知れない私に わざわざ姿をみせたのだろう
なんて思ってしまって

毎年 終わっていく者が季節と共に過ぎる事に
少しづつなれてきたけれど
忘れられない熱さは 過ぎ去る事はない

文学極道

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