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左神経偽

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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(無題)

  左神経偽

わたしは
お空に揮発した
子猫のため息を集めようとして
大きなタモを振りまわす

甘いお菓子の匂いを追いかけて
遠ざかる見馴れた町
素足に突っ込んだローファーは
もう泥濘みでギッシリだ
ミルクティーに砂糖は入れず
カップに塗られた青酸カリに
ほんの少し舌先が痺れた

どこかの親猫が
頭一つ分だけ高い塀から
わたしの名前を呼んで
返事をする間も無く

「まー」と鳴く

息を吐いても
白い風船は上がらないから
とにかく今は
お空を目指さなくっちゃ

網を抜けた吐息の塊が
手応えはなくても
確かこの辺りに浮かんでいた
夢中でタモの柄を握りしめて
お空を攪拌した

少しだけ鼻の奥が痺れて
わたしはやっぱり泣いてしまう
ヤレヤレと
ヒョッコリ顔を出さないかしら?
小さな薄い耳を
ティーカップから覗かせて
もう一度
ため息に混ぜてくれないかしら

わたしはお空に揮発した
子猫のため息の
甘いお菓子の匂いを
読みかけの本に挟んで
いつかこの町に
お別れしなくちゃ

文学極道

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