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佐藤洋平

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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プラハの午後

  佐藤洋平

骨董品のボヘミアングラスを透かした光に
川面が鈍く、深い輝きを放っている
くぐもった心配を秘め、
ちょうど、あなたの瞳色をしている

カレル橋を左にくだり
河岸の大きな敷石の上
淡いトレンチコートの切れ目から
君の白いドレスが羽ばたく
ブルタヴァの河はカンパ沿いに流れ
君の右手と僕の左手が漂う

あなたの傍らを風が掠め
ふと切れた傷口の中
心の最も美しい欠片が
生々しく、そこに残っている

天気雨の光が二人を笑わせ
儚い滴が二人を走らせるから
鳩の足が波紋を織り成す水たまりに
僕達の精神が映っている

人生という不安定な台座の上
生活という果て無き反復作業の途上
疲れた二人が映っている
恋愛に洗われた美しい眼差しに

くしゃくしゃに丸められた青春の中に、あなたは
書き綴られた時代を覚えてるかしら
情熱の谷を熱にうなされながら駆け抜け
その後に延々と広がる、ほろ苦い愛の草原を
絆の様にうねりながら流れた

二人がまだ若かった頃
開け放たれた窓から、そよ風と共に忍び込んだ小さな種子よ
窓辺に飾られた花の様に
時を経て、二人は赤い花を咲かせた
枯れかけた花弁の杯に
二人の心持ちが余韻となってこだまする程

魂の大樹に寄り掛かり
ふんだんに舌の上に落とした二人が
光り輝く雫を共に・・・

恋の行く手、人生の行き先
君は知っているだろうか
裸体の愛の形は
支流の様に複雑に分かれ行く

モールス信号の応答を二人で
永遠に待ち続ける様な足並みで
黄金色に波立つ河を
今来た道へと戻り行くのに

優しい夕暮れが次第に傾き
天文時計の針の様に長く、長く
佇む二人の影を、鍵穴の後ろへと牽いて行く
さながら白黒映画で描かれる
擦り切れた灰色の夕方の中を

カレル橋を左にくだり
河岸の大きな敷石の上
淡いトレンチコートの切れ目から
君の白いドレスが羽ばたく
ブルタヴァの河はカンパ沿いに流れ
君の右手と僕の左手が漂う

短くなった吸殻を揉み消そう
香水瓶の奥深く
残り香の様な思い出に

あなたの黒い手が薬指に届き
壁に描かれた二人の影は抱き合い
一つの黒い愛の彫刻と成って
遠い、黄昏の闇の中
ゆっくりと沈み、溶けて行く迄

窓の外では街灯が夕闇をまとい
やがて、冷え冷えとした星々を指し示す
そして僕達が真夜中の鐘を鳴らす頃
君の涙は朝露と成って消えて行く

人生という不安定な台座の上
生活という果て無き反復作業の途上
疲れた二人が映っている
恋愛に洗われた美しい眼差しに

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