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黒崎立体

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ねじ

  黒崎立体

ひとりじゃないんよ、と言われて
かえり道おなかをさすってた
おろせと言われても聞き入れなかった
そうしてうまれてきたんが
わたしのおにいちゃんです

予定日を過ぎてやっとはじまった陣痛
あんまり痛くって
かんごふさんに水さしを投げつけた
そうしてうまれてきたんが
わたし です

おんなのひとは赤ちゃんをうむと
頭のねじがにほんくらい ふっとぶ
それでちょうどよくおかあさんになれる

破けてしまったおかあちゃんを
おとうちゃんが病院へ連れていった夜
おにいちゃんの布団にもぐって
かみつぶしていた時間にうまれていたんが
わたしの おとうと

おかあちゃんはちょっと
ねじを外しすぎて
のびきったゴムみたい
おとうとばっかり抱きしめている
おかあちゃん呼んでも、心がひもじい

おかあちゃんが病気でたおれて
子宮を取ったと聞いた時
わたしはとてもほっとした
もう、なんにもうまれてこない

おかあちゃん、あとはもう死ぬだけだね


雪ちゃん

  黒崎立体

ぼたん雪が落ちていくのを
部屋の窓からながめていた
集団自殺みたいに
ぼろぼろ、
ぼろぼろ、

こんな冷たい夜に
ようやく存在して
陽が射せば溶けてしまう
これがわたしの名前なのか
見せつけられて
水槽が凍る

ひとつ育つたびに
ひとつ温度を失くすような
生活だった
背中をまるめて
ぼろ雑巾のようにくたびれた
あなたが浮かぶ
ごめんね、
ころしたかったね、
いつまでも濁ったままの水槽を抱えて
電車に乗ったその夜は
水銀に似て
わたしの意識の鋳型を取った
(むりやりにつながれた星座を死ねますように
((死ねますように
(((死ねますように
ふるえるように
笑うと
むきだしの床にぼろぼろと
結晶が落ちる

見えますか
あなたがつけた名前の通りに
凍えて生まれた
六角形です
わたしはこうして
あなたが憎い

愛してほしいと
求めることが間違いだった
ひび割れていく水槽から
氷点下の鼓動が聞こえる


infect

  黒崎立体

おかあさんのいのちには
さびしい色がついていて
産道でねじれる、子どもの
ほっぺたに色うつりする

広がって、いつか
こころまできれいに染まるようにと
抱きしめる
それはわたしのためじゃなく
あなたの
いのちのため

化粧のしかたも知らないで
人にさらされる
手のひらで頬を隠しながら
つみたい花を、
なでたい猫を、
ひきたいピアノを、
通りすぎていく
いつまでも片づかない質量をじっと
見つめると、あなただった
しかたなく母と呼んで

足のうらから
びーだまをこぼす
わたしは 少しずつ軽くなって
誰にも分からないのに
すりむくと血が見えた
たいらな目が俯瞰すれば
嘔吐のようにうつるんだろう
よごれた泡が ひかりを
はねかえって歌が
遠ざかる、

骨を
わたすのがいやだった
かってな色に葬られて、あなたの
祈りのかたちに削除されるなら
生きてるほうがましだと
がらくたのように追いやっている、
いのちなんて
くだらないだけ

水になれたらいい
雨のような手つきで
ほっぺたの色を溶かして すける
おかあさん、なにも気づかず
そのままわたしを泳げばいいよ、
つかまえて、放り投げれば
あがいて死ぬだけのさかな

文学極道

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