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久石ソナ

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


プラットホーム最前列

  久石ソナ

濡れた足跡は
途中で途絶えて
あとから生まれるはずの
露骨を纏った冷たさに
西日を浴び終えた硝子細工の
颯爽と駆けてく反射光が
屈折を孕んで落ちてゆく
雨の香りはさまよっている。

傘を広げた空間の
さびしげな音に
紛れ込む純粋な色
正直に答える発音が
もどかしくて
薄いから
私の脊髄は固まって
動こうとしない。
寒さに揺さぶられ
鳥肌が立つ賑やかな駅のホームで
誰かが私に答える
折れた筋が眩しくて
音にならないのだ と
路面に落ちてゆく
大量の折れた傘は
轢かれるたびに
音を発して
焦げた匂いを
私の食道へと流し込む。

めまぐるしくも
あかるい夜に。

* メールアドレスは非公開


色彩の沈むところ

  久石ソナ

散りばめられた冷たい木漏れ日は
私の首筋にするりと落ちて
指先の感触で静けさと
そのさきの乾いた音を
手探りする。
ぷつりぷつりと潰れていった遊びを
裏返してゆくことが
ぬくもりを生む条件でしたが
私は笑っているので
もし、からだと葛藤の盾すらあどけないなら
熱を孕んだ白昼夢を見続ける作業を
しなくてもいいよ。

また一つ
街灯の明かりに照らされた葉脈は
私の指先から滑り降りた。
道すがら、水面に映える芥子を
握りつぶすことを
さしてわだかまりの匙だとは
思いませんよ。
けれども、私を構築する術の
煮詰まった孔穴を
印すことはありませんから
末永く落ちていてください。
陽に溶けた古びた紙の端の鮮やかな沈殿の

ほのかな目眩が漂い
私にひび割れた感触を与える。
夕映えの錯覚がコップの底で眠り
飲み干そうとするけれど
ままならない指先の冷たさ
木の葉の揺れる音
さつばつとした香りを晒し
風に不確かな温もりを孕ませる。
その輪郭を捻じ曲げて灰となった
寝息に私の耳の裏は
さびしさを浪費する。


砂丘

  久石ソナ

腕枕した腕が痺れ、
窓から零れる
白昼夢は
静かに蒸発する。
私の目を傷付ける、
雨の咲かない匂い。
石畳を白くさせながら、
引き裂きながら。

アジサイは
時間を知る半透明な羽を
なびかせて、
何色の叫びを
梅雨の暮れがあげていたか、
思いださせない。
熟れた結晶の
アスファルト、
片方の夜が
煮崩れる。

にがい眠気を
唆すとき、
粘膜に焦げ目をつけた
息吹さえ凍える。
手のひらで灰となり
街灯の下で消えゆく、
末枯れたアジサイを眺め。

やがて、
かたほうの夜は
未熟となる。
老いた雲間から、
腐敗を咀嚼した
花びらが
降り続けても。


チタニウムホワイト

  久石ソナ

身体の皮膚のほてりから

  窓ガラスには結露の芽生え
  ゆりかごに乗せられた重力の
  素足のまとうおぼつかなさ、冷たさ、

(この部屋には私がくぐれそうなドアはない

私は指先を結露に添わせて
途切れ途切れの放物線を描かせる
指先に気孔の明るみ
熱に包まれた切なさが
蒸散するころ

  ほつらほつらと小さな虫の舞い、雪の
  音に隠れ呼応する
  忘れ去られたものたちの

(鼓動を私はいまだに
(鼓膜へ触れ合わせたことがない

  この部屋の外側に
  その生きた呼吸が
  実り熟しているとは知らず

(世界はここで完成してしまった

  遠くから、呼び人の痺れた声に
  記憶はすべてを奪われた

ただ雪の底に眠るなにものかへの欲求に
窓ガラスを割り未成の部屋へ
破片に結露の反射はない

私は元素の振動となって夜へ、
              夜に、



人のひづめの跡を探して、酸素の

  道には雪の重なり
  沈みゆくたびに足音の速達便は
  私に届き、目を通わせる

(結び目のふくらみを
(眺めながらする空気浴

今に、確かな過去が
地面から溢れ、生き続けて遠い

  たゆたう寒さに
  なにものかの痕跡の
  喘ぎを垣間見る

(枯槁の気配のような匂いに風

  私は手のひらを広げる
  そこへ落ちてくる雪の
  結晶の溶けゆく速さを
  私は目に音もなく焼きつける

その温度は私には高すぎて
すべての記憶が押し寄せる

  何千年も前から
  こうして雪は時間とともに
  町を造り上げていたのだろうか

(私から離れた息はしだいに湿り、色をなす、

ふらふらと時間の先端に口づけを

    白い夜になにもかも溶け合っている
         雪層の途切れた熱の色彩
           地面からはじけて、

文学極道

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