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菊西夕座 - 2011年分

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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新しい唯の夢

  菊西夕座

ダジャレ中毒の点滴治療にながいこと患わされてきたけれど
新しいシャレ氏ができてからはだいぶ立ち直ることができた気がするわ
シャレがどんな素性かまだはっきりいうことはできないけれど
いままでの彼氏とはまったくちがう朱の糸であたしを縛り上げたことは断言できる

ドクターはあたしがシャレを自慢するたびにまだ中毒がなおらないというけれど
それってひょっとしてシャレのことをシットしてるってこと?
シャレにいわせれば彼のほうこそよっぽど毒ターだっていうわけだから
ドクをもって毒を制するというのはこういうことね

こんなことをいったからってあたしがドクに征服されるわけじゃないわ
だって白衣のセイフクを着せられているのはいつだってドクターのほうだし
かつては婦長なんて呼ばれていたナースのほうがよっぽど不調なわけで
そもそもシャレにいわせれば病院自体が気の毒な症状をうみだす病因ってことなの

病者はそれでも護身にこりかたまって自分たちの正当性を信じているから
今のシャレ氏と昔の彼氏を同列にならべていまだに中毒だと誤診するの
それどころか新しいシャレのおかげでますます症状が悪化しているという始末
手に負えないからボールみたいにけとばして足で追いまわそうとするわけよ

あたしがこれでも作家だからってサッカー扱いするのはがまんできないわ
精神科医はそれがあたかもダジャレ病への理解だと考えているみたいだけど
シャレからいわせればそんなやつらこそ精神怪異と呼ぶにふさわしい淫売者なの
やたらとすり寄って最後にはあたしのシャレを寝取りましょうっていう魂胆ね

だからあたしは警戒していつでも身構えているから疲れきってしまう
シャレは院内に警科医をもうけてまっとうに診察しているのは唯、おまえだけだというけれど
ついにあたしもドク気に憑かれつつあるように思えてほんとうにこわくなる
だからそれ以上なにもいわないでっていうとシャレはしゃれこうべみたいに黙りこむの

まあなんてかわいらしいお馬化さんなんでしょうこの新しい恋人ときたら
演奏会ではあんなにあたしのことを熱唱してくれたのに黙りこむだなんて
熱消のおかげでこの身もこころもすっかり燃え尽き症候群だっていうのに
お互いに放心状態でこの先どう生きるべきかなんていう方針がまったく立たない

家計簿だってつけてみるけれど最後にはいつもシャレとの家系簿を夢想している
どんな子どもが生まれてどんな子孫が残されていくのか筋引きながら腹ハラしている
もしかしたらヘンな仕損が生まれてあたしの妹とシャレがまちがいを犯すかも
そう考えただけで処女時代にはやすやすと入れた妹の部屋に入ることもできない

家計簿をあきらめて寝ようと思っても燃え尽きているから眠ることもできない
どんなに眠ろうと精進してみたってすでに焼尽しているのだからムリなことだ
しかたがないので眠っていたころの思い出にふけることで少しでも老けようとする
シャレいわく「若いままでいても病院と和解することなどありえない」のだから

そういえば眠りがまだ重かったころにみていた夢のことが思い出される
下戸なのに赤ワインを一本あけてしまってあせっていたのが妙にリアルだった
ひょっとしてあのワインは病室でいま結ばれている点滴の瓶だったのではないかしら
不安にかられてシャレのすんだeyesをのぞくと上の空でもはやなんの合図もしなかった

文学極道

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