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菊西夕座 - 2007年分

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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フィーバーがとまらない

  菊西夕座



またやってきた。毎年びりっけつの、俺の罰当たりな誕生日

夜を焦がした日の出とともに、賽銭箱が、潮吹き女のスプリンクラーといった具合で小銭の産卵をおっぱじめ、四方八方へ飛び散らばったあぶく銭が神社の白い砂利に跳ねっかえると、糞づまりの神主が尻もしまわずにあわてて便所から飛び出し、太鼓っ腹と口笛で得体の知れない祭り囃子を奏しだす。
ほくろにとぐろを巻く髭を生やして、紅ヌリタクリの巫女が摺り足で俺に近づくと、武者ぶるいの勢いそのままにひび割れた唇を押しつけ、俺の首筋にヤスリでもかけるみたいに細かくひっ掻くキスをする。
巫女の頭越しに、憑依を流された娼婦が絵馬を差し出しながら、生まれてくる子の名前を書いてちょうだいとせがみだす。いいかげんな文字を斜めに三本走らせてやれば、いまにも生まれてきそうな名前だといって異様に産気づいてくるのでうっとうしいから邪険に突き飛ばしてみたとたん鳥居に頭をぶっつけて髪が真っ赤に染まっちまった。

フィーバーがとまらない

東の丘いちめんがハリネズミの怒れる背のように無数の火柱を突き上げる。
隅に干された狐のブロンズ像が口からペーパー籤を吐き出している。
いたるところでそよ風が銀杏のきついにおいを排泄している。
鳥居にぐったりともたれた娼婦は狛犬に流し目を送りながら動かない。
彼女が腹にかかえた絵馬が仔馬の難産をはじめると、流し目から無数の精子がもれてきそうな気配だった。
ざらつく舌をこすりつけ、ますます亀裂を深める唇で、紅ヌリタクリの巫女は狂おしく俺のうなじに恋をする。擦りに擦られて首筋の血管が消えちまいそうになったころ、俺はヤスリ女を背負い投げで池の中に放り込み、水をくまなく濁してやると、巫女に憑依していた鯉が屋根の上まで飛び跳ねる。
フィーバーがとまらない。
尻の穴から大吉をひねり出して神主がいつのまにやら開運している。
狐がさかんにむせ返る。
そよ風にペーパーがまくれ、
お捻りがやたらに噴出する。
銀杏のべとつくにおいに腐敗の重みがのしかかり、
発情した犬が丘の方へしょっぱい虹をかけている。

フィーバーが一向にとまらない

丘に火をつけた放火魔が南の空へ快進撃を続けていく。
銅や銀の小銭が境内のあちこちできらきら光る独楽のように回転している。
ときどきちぎれた大吉が旋回に巻きこまれ、
お捻りがますます賽銭箱のまえに盛り上がる。
俺は梁から垂れ下がっている大きな鈴のついた縄に飛びつくと、ちぎれんばかりにそいつを揺さぶってフィーバーをとめてくれるよう願いをこめた。
乾いた鈴の音が境内に響き渡ると同時に拝殿の屋根から小さな達磨の群れが火花を散らして転がり落ちてくる。幾千万ともしれないコインを派手にぶちまけた音響で。
烏どもがいっせいに舞い降りてきて達磨の白目をこづいてはしゃぐ。
奇怪などしゃぶりは屋根を激しく焦がしながら際限なく打ちつけてくる。
娼婦の髪で尻をぬぐいはじめた神主が一瞬で赤い海にのまれてしまう。

フィーバーがとまらない
フィーバーがどうにもとまらない

俺はよじれた荒縄になんとか右手でぶら下がったまま、左手の三本指を今にもすり切れそうな紅色の頸動脈にあてがった。
まるで異教徒に憑かれたように、脈は一分間で百はっ回もフィーバーしていた。

文学極道

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