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魚屋スイソ

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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テレビデオガール

  魚屋スイソ

地下鉄降りて改札抜けて階段上って、パンツ、パンツ見えパ、見えないし、ふつう見えるわけないし、適当に広告でも眺めてたふりして視線を流して、熱風にやられる、マックブックを脇に抱えたランチ帰りの会社員を見送り、スマホを覗きあう野球部の群れをかきわけ、しかめっ面で暑いと呻きながら、喫煙所探して歩いていたら、頭にテレビ被った女子、が、鉄柵に寄りかかって俯いている、ブラウン管だし、それ、テレビデオじゃん、思わず口にしてしまって、返事のかわりにおれの方へ顔、テレビの画面だけど、向けて、なんとなく視線を感じて気まずくなって、煙草に火をつける、まだこっちを見つめてる、画面には何も映ってないけど、アグレッシブに陽射しを反射させて、屈折させて、ビームを命中させてくる、よける意味もかねて、煙草の灰を落とそうと灰皿へ歩み寄ったら、合わせて顔の向きを変えてくる、ためしにしゃがむ、パンツは見えん、ビームが熱い、それ、ビデオ見れんの、今度は頷く、へえ、意外と軽いのかな、夏服のセーラー、涼しそう。

中古屋でエロビデオを数本、適当に、適当に選ぶふりしつつも、できるだけ顔がロリっぽい女優のを、しかもできるだけマニアックなタイトルにならないように細心の注意を払って、買って、一緒にホテル行って、じゃあ、いれるよ、って冗談っぽく言いながらまずコスプレモノのビデオを、彼女の顔のデッキに差し込む、痛かったら言えよ、とか、はじめてじゃないよね、とか、頭よぎったけど、正座した彼女の、折りたたまれた腿に食い込む白ハイソに目がいってしまって、それどころじゃなかったし、それどころじゃなかった自分に焦って、おれさ、ずっと探してる女の子がいるんだよね、急に語りはじめてしまう、むかし、小学生の頃、チャットで仲良くなった子がいてさ、彼女の画面にスク水の女が現われ、ビート板に股間をこすりつけはじめる、毎晩のように、親に隠れて話してて、ガキだったし、当然頭の中エロいことばっかでさ、プールに喘ぎ声が響く、女は腰をくねらせ、表情をゆがめていく、ついには電話とかして、いよいよテレフォンセックスにまで持ち込んでさ、視点がかわり、アップされた女のケツが画面の中を前後に動くようになる、小学生としての、めいっぱいのエロ知識を総動員させていやらしいこと喋りながら、必死にチンコしごいてた、今度は仰向けになって股を開いた女の、濡れたスクール水着のはりつくからだを、カメラがゆっくりとなぞっていく、思えば、初体験だったな、いや、高校入るまで童貞だったんだけど、彼女は背筋を伸ばして正座したまま、画面に痙攣するスク水の女を映して、おれの話にききいっているのか、ビデオの再生中は動けないシステムなのか、わからんが、煙草を取りに立ち上がると、首だけは、人間の関節の可動範囲内で、ある程度はまわるらしくて、おれの動きを追ってくる、煙を吐いて、ビデオを取り出して、二本目、どこまで話したっけ、まあ、とにかく、会いたくなってさ、会おうって話してさ、でもその子は東京で、おれは田舎に住んでたから、放課後の教室で、制服の女が二人手を繋いで舌先をからめている、大学生になったら、東京行くよ、そしたらほんとのセックスしよう、って夢みて、毎晩、チャットにログインして、たまに電話越しにオナニーして、ショートカットの女が、ツインテールの女のブレザーのボタンを一つずつ外して、シャツの上から胸元を撫でている、いつのまにか、お互い中学生になって、おれにも恋人ができて、ツインテール女の胸がはだけ、ショートカット女の舌が唇から首筋、鎖骨へと下りていく、ミクシィとかフェイスブックとかツイッターとかスカイプとか、違うんだよね、日記や呟きが毎日更新されていくのを見ると、ああ、人間、いるな、って、なっちゃう、片手がスカートの中に潜り込む、すかさずカメラがローアングルに切り替わる、ネットの関係ってあくまで始まりから終わりまでバーチャルでさ、そういうハンドルネームのキャラクターがインターネットの中にいるだけ、白いレースのパンツにノイズが雑じってくる、サイト相互リンクしてても、個室のチャットルームもってても、一度風化がはじまったら、あっという間に塵になって、思い出した頃には、ビデオが途切れて、彼女の顔が砂嵐で覆われる、なんで、こんなこと話してるんだろうな、その子、喘ぎ声、すげーかわいかったんだよ。

三本目を再生している途中で寝てしまったらしい、目を覚ますと、彼女は顔だけ残していなくなっていた、ブラウン管を抱えて外に出る、駅までの道を戻る、みんな手にもつ端末を操作している、小型化や薄型化は、だめだな、被れないから、バレる、パンツとか、簡単に見れそうだし、地下鉄のホームへ続く階段から、機械熱と体温の風、東京は、だれにも会えない。

文学極道

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