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完備 - 2018年分

選出作品 (投稿日時順 / 全9作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


angle

  完備

チューリップと呼べば
チューリップになるが
花と呼べば
花になった
一輪、
わたしは
花がいい

風が部屋を抜けて
たましいが見えた
りゆうとかいうやつ
知らんけど
そんなかたちだったか
空間のあざ
道理で、

いちまいが
ゆるやかに角度を大にし
水を換えろ、と
母親のような声。

また抜ける風が
埃や
生活臭
おもいでとかいうやつの
半分を浚っても
ふつうに暮らしたいよ。
ふつうってなあに、とか
思うこともなく


contorted

  本当の詩人

m**** m*** z**** m******* k***
k***** o** z**** k******* k***


 音楽
 は
 ひるがえる望遠鏡
 とおく
 まぼろしのような
 場所で笑う女

   確かめたくなるんだ
   それは
   生きていること
   じゃなくて

 ほとんど
 すべてを見間違い
 聞き違う日々に
 夥しいその
 空目
 空耳
 濃淡がなす影のかたち

   じゃあ明日
   河原町でご飯たべよう
   半球でくる?
   うん
   マルイに寄るとおもう

  かつて愛していた女の
  電話ごしの声が
  本当に彼女のそれか
  判らなかった

 聞き違えた
 と
 しても
 
 恋している女の喉は判るし
 何度でも聴くよsayonara
 sayonara 必ず
 自慰して行く
 
   ごめん
 
  すこし遅れた
  そうして

 また見間違う後ろ姿が
 振り返っても
 
  いま
  目の前で笑顔の
  かつて
  愛していた女が
  本当に彼女か
  
  どうしても判らない
  「さりげないまばたき」
  べつにいい

   なんで謝るの?

  べつにいい
  判らなくなるまで生きた
  だけだ


位相

  イスラム国

雨は左から右へ降る
対称変換、
空間を焼き切るガラス
そのふたつが
「つながっていない」ことの意味

むこうの位相は粗い

局所的にはわたしたちの世界
けれど分離できない二点に立つ
ヒト、と、ヒト
烏と蝙蝠が暮れに混じる

地震?――強風?

わたしたちの視力は弱いが
うごきでそれと判る

「はじめまして
 雨が右から左へ降る
 世界から来ました」 


plastic

  完備

砂浜に立つポスト眠い目を眠らせ
濡れないようA4の封筒を持つ
きみが足を取られ拾う流木
留学先の異常なルームメイトは洗剤を食べていた

奇妙な明るさや 遠近感のない音声 は 副作用だが
いくら掘っても粉々に砕けた
「プラスチックと貝殻」ばかりで
面白いなにものも埋まっていないここはかなしい

――ポストを掘り起こすことだ
  ――それが唯一の可能性
    ――その色を云われるまで気づかなかったろう

すこし振り回してからは引き摺って歩く
どうしても線にならず
きみの作る窪みもほとんど地形の一部


ill-defined

  完備

虹彩へ降りしきる抽象的な雪が十分に積もるまで
待つつもりだ それからふたりで
と 発語した瞬間に失われる名前と名前


画面ですぐ融ける雪から涙を
区別すること ふたりの指の表面で
こごえる電子の行方を見つめ
見つめて 伸びゆく神経はいびつな線路となり
ふたりはふたりぶんの切符を買う
切符という響きを理由のすべてとして


駅の名前 窓枠を透ける腕
荒れた手ですくう雪 切れた指でつむ花
ふたりの近眼へ降りしきるあらゆるまぼろしを
詳細に描きとめる画用紙 それすらもまぼろし


名前の隙間に涙まじる語りも過つ指輪
外し方は永遠に忘れたままとしても
冬だねと 発話した瞬間に来年の雪が見えるから
ふたりはラブソングを歌おうと何度も
何度でも まぼろしの喉にふれる


unconfessed

  完備

名前の代わりに発話するねえに振りかえる
きみの長い髪は粗い日差しに透けて
その方角へ背景を忘れたこと 気付くずっとまえから
何度も書き損ねるさようならは空目した名前


ぼくがきみの恋人になれたか分からないまま手をつないでも
きみはぼくをきみと呼び
踏み切りのむこう平凡な交差点に海を探している


夕立の代わりに降るあられがきみの頬で跳ね
折り畳み傘はゆるやかにひらいた
ひかりの粗さを測るてにをはをまぼろしにかざして もう
帰ろうと逆向きの車窓を選ぶ


大阪湾しか知らない細い目は途切れ途切れに幼く
ほとんどすべての景色を忘れた
夕暮れの形式に残るのは固有名詞だから


揺れるね ねむりに落ちる直前の
絡まるほど長い髪の渦まき
おやすみなさいを言い損ねてささやくありがとうも空耳
形式に意味を探すきみは夢のなかでも
ぼくをきみと呼ぶのか まぼろしの遮断機をくぐる


footprints

  完備

あなたのくれた比喩でない不等式を
証明できないままカルバリの丘に立てる


これがおれの銀河だ
走馬灯のような生活はマイスリーがさらっていく
おれはいまから
おれの足跡がいくつあるのか、真剣に数えたい


dotakyan

  完備

夏がきて初めて、あそこに桜が咲いていたことを認識できる。
いつもそうだ。気が付けば夏、その次は冬だ。わたしに季節の変わり目はない。

あらかじめ宣言された夢のなかで、あたたかい炭酸水を飲む。
「炭酸水をあたためると抜けませんか」
「炭酸水をあたためるのではなくて、とても強い炭酸水と熱湯を混ぜるんです」
目の前で二杯目を作ってくれる太った女性に欲情していた。

台所からの異臭で目を覚ます。隣で寝ている母親を起こしたが、
彼女はおしろいのようだと言ってすぐ寝た。
私は美しいアンモニアのようだと思った。それからトイレで自慰をした。

ワンルームのベランダから夜空を見上げている。寒くてくしゃみしても、
「谷川俊太郎みたい」って誰にも言えないし、言ってもらえないのに。


or

  完備

荒れ地、眠れないまま
ゆるむ瞳孔へ
駄々洩れるイメージ
まばゆく
五分の一、
残ったいろはす
スイメンの振動は絶えず、
本棚、ボロボロの
擬微分作用素
それは抒情、あるいは
信仰告白、
重曹を溶かした足湯
これは祈り
あるいは、

コンドーム
半拍遅れたドラム、
全身の毛を剃り
ただし腋毛は抜く、
その話はもう
伊藤比呂美が尽くした
から、繰り返すな
固有名詞、ばかりの
うたをうたい、
網膜へ駄々洩れるのは
横浜の空
あるいは、大阪の雲、
ミニスカートは度し難く
思い出すのは
おそらく十年前、
ほとんどクリスマスの
夜、顔も
思い出せないひとが歌う
スノースマイル、

覚えていたいことは
なにもない
思い出したいことも
もう、ない、
駅前のイルミネーション
その駅の名、
雪ではなく雨が降ったこと
眼鏡の裏に咲く花、
それ以前に
生きなくちゃいけないから、
とか
きみが持つ構文
泡立つひなた短く、
くちずさむうたの表象
あるいはきみと
作られた寂しさ、もう
いい、
もう、これ以上
繰り返さなくても、

文学極道

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