#目次

最新情報


寒月

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


国道沿い

  寒月

さぁ

身なりをととのえ
姿勢をただし
並みの牛丼をたのむ

国道を
いばりとともに楽団を乗せたトラックが抜ける
朝は早いだけで晴れているのに
ふひ ぶふぁ ぶひぃぃ ぶふぁぁぁ
びぃぼぼ びぃぼぼぼぉー
シャーァー
ついでに豚丼の大盛りもたのむ
流通は死を通り越しもする
それから

割れた唇をなめ
それぞれに陸封されたリアス式の海岸へ
隣は見えないが似たようなものだと
幾世紀にもわたって
牛鮭定食をたのむ
さらに
十五品が続いた

何を食べ 何を食べなかったか
考えきれなく
満ち
ほうけていると
美しい顔をした若い男の
アルバイトが近づき
お代はいかがいたしましょう
とていねいにきく
最初からも今からも何も無い
とていねいに答える
分かりましたとやさしく微笑んで
どこかへ 電話している

さぁ

ぼくは詩人だし
かれも詩人だし
電話の先も たぶん詩人だし
国道沿いだし
ずっと無いし
ようやく
あぶら汗が出はじめ
楽団は悲しいし
一人っきりであった


なまえ

  寒月

地下街へ下る階段の途中で
さみしい という言葉が泣いていた
なまえは と聞くと寂しいという
では だれのさみしいですかと聞くと
名前と電話番号を教えてくれた
さみしいは地下鉄に乗り
しずかに家へ帰った

掃除のおばさんが困っていた
愛がひとりぼっちで眠っている
はいて捨てるわけにもいかなくてね と
だれの愛ですか
分からないという
では 最初に見つけた人のもの
おばさんはにっこり笑って
いいわよと答えた

さみしいはいつか
かならず電話するといってひとりで帰り
愛はおばさんと一緒に仕事をしている

その日会う 女の人に 花を買う
名前と誕生をそえて
赤い薔薇を渡し
見つけてください
あなたを見つけたように ぼくを

初めて 声に出し なまえを
言う


ぱんつ

  寒月

あなたは花畑であり 花畑を渡るぱんつ
こなたは荒野
そなたは明日であり 明日にひるがえるぱんつ
きくは昨日
さて
ここは私
ここは私でなく
いま/また私
いまをつかの間/泣く
なくふりをして やはりなく
蜩 ぬけがら は/なく/ようになく/ように風になく
風がなく/風が吹く
いまここでは
といままた言う
確かに言う
ぱんつはぱんつを脱がない
脱げないとももちろん 言う


TOSHIBA AW-60GK(W) 6kgは洗濯機は永遠に

  寒月

蓋の幅10cmにも満たない透明な部分から回転する洗濯槽をのぞき込んでいる。何しているのと聞くと父は、「見張っている」と答える。父は会社でも、ご近所でも見張られていた。
何にもない銀杏のまな板の上で包丁が踊り、リズムと指を刻んでいる。何しているのと聞くと母は、「しつけている」と答える。母は娘から、妻、母となっても祖母からしつけられていた。
今朝いつもより早く目覚めると、父と母はよみがえっており、静かにそれぞれの仕事を始めていた。
父と母のように死んでみたくなる気持ちもこのごろ分かる。

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.