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花一匁

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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拍動

  花一匁

羽を広げた深海の溝に花弁の顔が横たわる
静かな不眠の道を乳房の破片が渡っていく

排気口の結晶が血を流す
金属的な肺の匂い
 その中に鳥の巣に編み込まれた欲望の
  地殻の底に反転した葉の生涯がうかがえる

十字路を西から南へと流れる保育器は
 石の弾ける音を聴きながら
  30歩目の糸の上で
   赤いアイスクリームの生誕を待っていた

揺れる車輪とともに
跪く体温の底へと飛び降りた緑色の風が
 噴水に匙を投げ入れ、ブランコで宙返りをする
息を止めて20秒経つまでの酸素

革靴に浮かぶ観客のような模様の染みは
 右と左の横隔膜に
 ふしだらな魚たちの結婚式に
等身大の液体性の標本はフライパンの上を踊っている

薬漬けの春という季節
溶けた砂糖が雨の上を歩いていく様子
植物の涙から凍ったうさぎの耳元の地帯まで
 骨でできた繭の中に幼虫たちの眼は隔離されている

シャーベット状の鏡が血液の中を遡る
時計の振り子が耳の奥へ杭を打ち付けると
 水差しの内に溜まった空間がそこへ流れ込んだ
炭色の海洋が繊維を洗っていく

降り積もった光化学と楕円形の内臓の匂い
人肌にまで温められた水族館のバリケード
火葬場の真新しい窓の中に
 鳥の鳴き真似をする犬が眠っている

地下道の白い鉄道が走る広間の奥で
 砂城に立つ一本の足が崩れていく
鉄の砕かれる音が貝殻を孕ませる

横断歩道に擬態した干し草の群れと
伝う樹液の目指した
 冷たい火薬の埋まる在りか

文学極道

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