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榎本櫻湖

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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香水瓶に触れるフィラメント

  榎本櫻湖

「熟達しているのか、その腫瘍は、いますぐナイフに鋼の瞳孔を植えつけ、象の蹠にへばりついた珪藻類に敬礼し給え」そのような犯行を前に噴出する傷痕を舐っている、花崗岩に覆われたさまざまな色を放つ製本所をアルゴンにすり替えてみる、作業は発熱する卑猥なマンゴスチンを装い、円筒形の、あるいは魚雷型の吸血蛭は沸きたつお湯でさんざめく金塊! 〈あなたは投函された地下鉄の匂いたつ亀裂が歌います〉、を宣言する姦通者としての心得と擂り鉢への返納を、ああ、まさに魚介と朝靄の婚姻の筋肉質な繃帯、生命のがらくたから何羽もの孔雀が経帷子への依存を捨てきれずに躙りよってくるのを拒否できない、抗いはつまり電卓の拷問、そして我が儘、扁平な猿轡に誑かされて屏風がみるみる緊縛される、さて、果汁が染みをつくり、星屑を模倣する伝統的な疾病に渋柿の卵巣を傍受せよ、貧乏です、鯣のへりに藻、腹腔鏡に黴、針葉樹の森が終わる辺りから雑草の繁る斜面が広がり、幾本もの陰茎が生えていて、その合間で交接している男たちの褌の芳しいであろう部分に鼻をあてていると、いや、衛星は紺碧ではない、どちらかというと鈍色である、水脈からカシス酒がヘドロのように流れだし、弓型の呪術は南国産の蛾を伴って祠から煙のようにたなびき、喇叭水仙のびらびらを帆立貝の紐の感じと見紛うとは! 夕方、岩海苔に屈辱的な仕打ちをする聖職者のノートよ、祈りはぬめり、粘ついた液体に泡だつ生クリームの幽霊が会釈しているではないか、と押されてみた、膨張するレズビアニズムの防波堤に塞きとめられた惑星の甲状腺はみるみる肥大し、内包している花火から月光の大気の熱量が硝子に似た運動を伴って浮き沈みをくりかえし、そうした植物の茎のなかをうつろう前立腺液とバルトリン氏腺液の輝かしい間歇泉を、海底から伝播する心拍に翻ってあらゆる瓦解を濃縮させていた、隊列を組む昆虫の複眼に這わせる蔦の蒼さにそれぞれ石灰質の倦怠を残尿感に準えることによって分光するための三角柱を弄ぶこと、甚だし、丁寧でありながら荒廃していく顎の骨のうえの舞台は、まるでどこぞの遺産のように太々しく、不遜な悪態に自らめりこんでしまうことをはたして望んでいたのだったか、近隣を仄めく柔な礫、曰く梨を髣髴とさせる巨大な触手にいらだちと焦りの虚妄をして融解するのをひたすら叫んでいたのか、しかし松葉杖と乳母車、そして車椅子の懇ろな間柄に太腿をひき絞られて滴る黄褐色の汚泥、潮の渦巻く過程に解放された高純度の希少金属のあり方、疚しく疾駆する平坦な空間での睦みごとにプラスティック製の陰茎が牙を磨いている、喉笛の昂揚しゆく情景に寒波は紐状に訪れるのであり、毛糸玉を恒久的に支配し得る井戸と釣瓶が閑散としはじめ、または水瓶の底から滲みだす暗澹の血を、崇拝するに足るだけの都市に誘惑されつつ、醸す賑わいに幾許か垂らすこと、澪、べりべりと剥がれてきたマシンガンの困窮、またしても雁字搦めの菫色から煙が壺のほうへ、水道管のすぐ下を通う星座の爆発音と急激な降下、内部破裂により滲出する睡蓮のある意味クリティカルな放射は、危うい蹄に刺さる霜柱を暖かく結晶化させ、循環する蛍光塗料の精神に輸送されたナフタレンの恋慕を硫黄のただなかへ! 水錆の転寝は感嘆符の充血するあわいへ催される古細菌群のあらたな昇華、卒倒すること、陥落するはなびら、植樹する俳優を強姦する艶かしい陰核生物よ、俄に座礁するための喫水線にオーロラの網膜が絡みついて離れない、失われた印刷機の凸面に筋繊維の蔓延っているのが目視できる、排水溝から液化したヴィオラ、いや、それともチェロかもしれないが、洩れでているような気がして、寛ぐ吸盤に飾り釦が縫いつけられて、誰そ彼の斑に隠れている、蜥蜴の脚のような機械、さながらの物質、腹這いの姿勢から遠景を望むグンタイアリのことを、愛しています、そんな、(ハバナ)、跨線橋にさしかかると、夕まぐれに筋力の衰えとアルミ箔の蝶が規律を虞れて五角形の白骨屍体にくちづけを、そんな、(バハマ)、糾弾する船縁に虫、陰部の窓枠に鰓を想起させる赤い襞、ああ、高い山だ、そんな、(パナマ)、パイナップルジュースの海は始終唇の端がちくちくする感覚を充満させた風船のなかの機関銃だ、絶叫、快感っ、舞踏の捲れあがった辺りに拷問の盃と非情の首が埋没させられて中指、怨念に潜めた過去の牛乳、あるいはその膜、愉悦式ポンプはそのたびに星座へ変身(返信)します、たとえば「辣韮の神々に告ぐ、即刻天秤の皿に泡立て器の針金を各々の末端神経と交換せよ」、「すみません、それでは生クリームはいつまでたっても腑抜けのままです、原文には忠実に従い、また再現せよ、と書かれてあります、この場合、泡の膨らみ方は無視されるべき対象として棄却されるのでしょうか、もしくは粉末状の白熱電球に髄液をたらし、傲岸さの幾分弾みのある段階において狐に憑かれた綿毛を色盲と断定する些かの乱暴なあり方に異議あり、とだけ申し伝えておきますか、お返事、ご足労おかけします(まさか)」、「唐草模様に憤る砂丘にあっては人魂の炭化した欠片が散乱しているとのこと、尋常ではありません、ドッペルゲンガー計数管の(硝子の)針の振幅の大きさには数多の村落が潰えたと聞き及ぶこの頃、枯木の傍らで寝そべる虎の剥製に介助させるだけのエネルギーを担保し得ますか」、「バルト海沿岸では僧侶のような琥珀がよく採掘されると聞き及びましたが、まさに人参畑での光景が眼に浮かぶようなので、どこか盲のふりをしていなければならないというような強迫観念が蛹のように丸まっていくのです」、「栄螺か法螺貝か、難破した旅客船が、白いマントヒヒ(つまりアルビノ?)を飼いならしている、いや、狸囃子が雲を貫くように大きな肘となって突ったっている、なんとも阿呆な様子」、「線虫がうようよ心拍数に媚び諂って嫌になる、いい加減、潮汐力などといわれても、なんのことだか、理解しなければならないわけですか?」、「黒子が永遠に黒子のままで(この場合、ぜひほくろと読んでください/サクラコ註)拒否することも叶わず無花果にこき使われて、大抵可哀想だとか思ったら、屑」、「へっぴり腰の人が虐待されていた」、落涙よりもエンペラー、そんな時代はどのような百科事典にも記されてはいないし、化石のことが気になって、連なる嶺に挨拶する砂漠の畝を、弛緩している、砂漠の駱駝は、堕落している、衛星探査の用ですね、あまりに神妙な面持ちだったので、硝子が硝子であることを放棄して琺瑯かなにかを装っているのかと、抗い難い流線型の逃避行が、まずもって夜間に霜や霧の降りるさまを模倣している段階だった、とすれば、誰何すべきは裸婦か寡婦、それとも郵便配達夫、の何れかであるのだろうか、走ってはならない、イリジウムはどちらかというと虹よりの発想だそうで、テルルだとかセレンだとか、よくもまあ、投げやりな命名ですね、記載する際に手を洗う鉢植えが斑模様の紺碧だった、それくらいのものだろうか、コバルト、遅いね、マフィンがバナナへ遡行している、可逆的な世界に逸物を四百本程度ぶらさげておけば、八割方の地底湖は満足するのだろうか、それとも破水してしまったアクアマリンが角膜を傷つけていてとても厄介、更新されないスパイスの容器には叢る蜘蛛が颯爽と葡萄酒、葡萄酒……、葡萄酒は初潮をむかえたうら若き醜女の血液を凝縮させたものです、嘔吐してはいけない、眼鏡が曇ったものだと思い直して飲み干すべきであって、噴火する寸前の卵巣にはもはやどのような攻撃も沈黙への糸口にしか、なり得ない、とは、永遠の課題、もしくは、相転移をくりかえす酷薄な空間での、恒常的かつ普遍的な現象、衝突と融合を内包した錠剤に会釈、蓼の繁る路には冷たい蚕蛾が翼を捥がれて散らばっているので、毒を帯びた触角や、剪定された柘植のある庭で休憩することをおすすめします、欲求不満と茶話会、金木犀の囁きが粒だって、躄るものどもの避雷針に黙祷、鱗粉に噎せる薄氷のうえでのできごと、尻を叩かれて、割れた空き壜の欠片で動脈を断たれる、丑の刻参り、和蝋燭ですら熱い、薬缶には煎じた漢方薬が、だらだらだらだら、螢が見える、

文学極道

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